愛 玩 人 体

み馬

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愛 玩 人 体〔17〕

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 自尊心プライドを捨て、投げやりな態度を示すことで、不都合な現実から目をそむけることはできる。カラダにいた風穴かざあなは、いつか誰かの手によってふさがれるものだと信じたい。その人物は、バージル医師いしでしかあり得ないという願いこそ、エイジを苦悩させた。

 要人Bに弄ばれたエイジは、裸身はだかのまま呆然とした。一方的だが、存分に快楽を堪能した男は、エイジの手の中に置き土産みやげを残して研究室を去った。入れ違いに白衣姿のバージルが顔を見せるので、エイジと男が性交中に、すでに通路で待機していたと思われた。バージルに性行為プレイの直後を見られたエイジだが、手脚の力がはいらず、だらしなく仰向けに倒れていた。下半身は濡れたままの上、床は要人Bの体液で汚れている。

「……バージル」
「何もしゃべるな」

 医師は仮眠室へバスタオルを取りに行くと、エイジの下半身へあてがった。薄い胸板に手のひらを添えて脈拍を確認した後、小さく息を吐いた。
「派手にやられたな」
「……こんなのは、いつものことだろ。どうってことない」
 だいたい、結末を承知していたのは医師のほうである。エイジは瞼をとじて、深呼吸を繰り返した。医師は、エイジの気分が落ち着くまでそばにいたが、正直なところ、もう少し距離を置いて欲しかった。
(恥ずかしすぎて、バージルの視界からのがれてぇ……)

 愛玩人体が性的に扱われた以上、報告書を提出する必要がある。バージルがデスクに向かおうとすると、エイジに白衣のすそを軽く引かれた。
「どうした」
「……さっきの中年おやじ、あいつ、いったい誰なンだよ」
「事務局長の要人Bだ」 
 即答とは意外である。手脚に本来の力が戻りつつあるエイジは、ゆっくり上体を起こした。
「局長って、医局オゼえらいひと?」
「ああ、キミの最初の客でもある」
「……ッ!! だからか、……クソッ」 
 男の図々しい態度に合点がいく。容赦なく何度も腰を突きあげられて、今さらながら腹が立つ。一刻も早く躰を洗浄したかったが、頭がズキズキと痛み、顔をしかめた。チャリッと、右手の中で音がした。去りぎわに何かを握らされたエイジは、バージルと共に確認した。
「なんだろう、鍵みたいだ」
 要人Bから渡されたものは、三センチほどの小さな鍵だった。バージルに意見を求めたところ、たいして時間もかからずに解決した。医師はエイジの手から鍵をすくいあげると、極小文字で刻まれた番号を作業デスクのパソコンに入力し、床に座り込んだままのエイジを振り向いた。
「これは私書箱の鍵だ。バーチャルサービスのものではなく、実際に窓口へ行く必要がある」
「ししょばこ?」 
「指定の窓口で、書簡などを受け取るシステムのことだよ」
「……ふうん? 要人Bは、なんでそんな鍵をオレに預けたンだ?」 
「キミに読ませたい封書ものがあるのだろう」
「あんまり文字は得意じゃないンだけど、……あッ、今、オレのこと莫迦ばかだと思っただろ!?」
 いつもの調子を取り戻したエイジは、腰にバスタオルを巻いて立ちあがり、医師のかたわらへ歩み寄った。パソコンの画面をのぞき込むと、バージルはキーボードを操作して、最寄もよりの地図(私書箱の位置)を表示した。
「ここに行けば、手紙を受け取れるのか?」
「そうだ」
「でも、どうやったらオレが取りに行けるンだよ」
 車両クルマもないし、免許もない。研究室からひとりで外出することも不可能である。その時、予想外の展開が起きた。医師はパソコンの電源をOFFにすると、エイジに着替えを差し出して、シャワーを浴びるよう指示した。
「バージル?」
「わたしが連れて行こう」
「えッ? 仕事は?」
「時間なら十分じゅうぶんあるさ。利用客なら夜に1件はいっているが、性交予定はない」
 やはり、愛玩人体の出張サービスはあるらしい。おまけにセッティングも計算済みだ。医師の完璧な仕事ぶりにエイジは脱力したが、シャワーをすませて身装みなりを整えた。そのあいだに床の掃除を終えたバージルは、白衣をパイプ椅子の背もたれに引っかけると、濃紺のジャケットにそでを通した。
(何を着ても似合う男だから困る……)

 研究室は地下に造られており、通路のエレベーターは駐車場まで直通だった。これまで、バージル以外の人間と医局オゼの敷地内で顔を合わせたことはないため、研究室に要人Bが現れた時は心底驚いた。

 もしかして、これはちょっとしたドライブデートになるのでは。エイジは要人Bに抱かれたことで、バージルと私用で外出することになった。運転席のバージルは、白衣でもなくダークスーツでもない。あきらかに、私服のジャケットを着用している。棚から牡丹餅ぼたもちの状況に、エイジは心なしか緊張した。
(このドライブは幸福だった……)

 私書箱の鍵を窓口へ持ち込むと、係員が専用の木箱から、1通の茶封筒を差し出した。受取人は確かに〈AZエイジ〉と表記されている。バージルは、その場で開封しようとするエイジを制した。
「車内まで待て。ここでは人目ひとめがある」
「……う、うん、わかった」
 バージルの真剣な表情に気圧けおされたエイジは、指が微かにふるえた(恐怖心からではない)。
 要人Bほどあつかましい人間であれば、何かのトラップかも知れない。バージルの云うとおり、注意は必要だった。エイジは助手席に座ると、運転席のバージルを見つめた。
「開けていいよな?」
 バージルは「気をつけなさい」と念を押す。エイジは、ごくんッとつばを呑み込むと、封筒の上部をやぶった。すると、白い長方形のメッセージカードと、わずか1センチほどのマイクロチップが入っていた。メッセージカードに書かれた文字に、エイジは動揺した。

〔親愛なる君へ。マレイン▪オゼ▪メドウスには気をつけたまえ。〕


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