愛 玩 人 体

み馬

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愛 玩 人 体〔02〕

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 自我じがをめぐらせたとき、オレは気密容器カプセルの底に裸身はだかで沈んでいた。カラダを動かそうとして、すぐさま青ざめた。いつの間にか、下肢に伸びる透明なくだがある。泌尿器官へ挿入そうにゅうされているため、自分で取りのぞくには、ためらいが生じた。医療器具のひとつだが、やまいわずらっている自覚のないオレにとって、野蛮やばんな道具でしかない。

「おい、バージル!! そこにいンのか!? いるならけろ!! 出せよ!!」

 強化ガラス製の気密容器は、内側から叩いても、びくともしない。媒体オレに酸素を送るための通気孔はあるが、まるで、天井の高いひつぎのようだった。医師の名を呼び続けたが、姿をあらわさないため、室内にいないと思われた。しかたなく胡座あぐらをかくと、これまでの状況を整理した。

 バージルは、医局オゼという医務機関に在籍ざいせきする医師ドクターで、年齢としは三十をいくつか過ぎた頃合ころあいの男である。上背うわぜいがあり、ととのった顔だちをしていたが、性格は少々厄介やっかいそうだ。なにしろ、初対面のオレに接吻キスするわ、下半身へじかれるわで、散々なあつかいを受けている。今現在も、必要悪な処置で生殖器アソコを拘束されていた。だが、いちばんの問題は、自分自身にあった。いくら考えても、過去の出来事を思いだせない。名前まで忘れる始末だ。しかも、バージルいわく、〈愛玩人体あいがんボディ〉となったオレは、きょうから働くのだとげられた。

「……あの野郎、もっとわかるように説明しろってンだ」

 次こそはってかかるつもりが、返り討ちにった。研究室へはいってきた医師いしは、白衣の胸ポケットから端末を取りだすと、気密容器カプセルの施錠を解除した。内側から開閉できない構造つくりにつき、やっと外へ出られるのかと思ったら、顔面に霧状の何かを噴射されて、よろめいた。
「なんだよ、いま……の……は」
 抗議の途中で手脚てあししびれ、かすれた声しか出せなくなった。
「バージル、てめぇ、何しや……がっ……た」
しゃべらないほうがいい。力を抜いてろ」
 医師は両手に薄いゴム手袋を装着すると、情けなく尻もちをつくオレの前に片膝かたひざを立て、泌尿器具を引き抜いた。
「……ッ!! い……ってぇな! そこはやさしく……さわれよ……変態ッ!」
「これしきの程度でわめくな。子供ではあるまいし」
 それはそうかも知れないが、実際の年齢は不明である。オレは成人なのか未成年なのか、正直なところさだかではない。医師は慣れた手つきで管を巻き取ると、当たり前のように口づけるので、この接吻キス挨拶あいさつか何かのたぐいではないかと理解した。下手へたこばむより、受け入れてしまえばいいと思い、歯列を割って舌をからめた。
「不器用だな」
 医師からそう云われた瞬間、オレは憤慨ふんがいしてこぶしを振りあげたが、いよいよ全身に痺れがまわり、自力で立つことが不可能となった。倒れ込むオレを横目よこめに、医師は電子ツールを使い、誰かとやりとりした。

「おはようございます。バージルです。例の件ですが、事務局の書類審査は何事もなく通過しました。適性値てきせいちのデータ収集と、試作品プロトタイプの登録は完了しています。実用化に向け、要望をいただいた特定の関係者から順次、対応を開始します。性通せいつう結果の報告は、その都度つど提出しますが、対象の事後処理アフターケアが最優先事項につき、多少の遅れはご容赦ようしゃください。……はい、……それでは後程のちほど

 医師は通話を終えると、持参した薬品ケースから注射器を取り出した。仰向けになって動けずにいるオレのところまで歩み寄り、顔をのぞき込んでくる。
「これからキミが相手をする〈客〉は、医局オゼ重鎮じゅうちんだ。何事も最初が肝心かんじんにつき、どちらかめなさい」
「……どちら、かっ……て、なにが?」
 かろうじて聞き返すと、医師はオレの胸もとへ手のひらを添えて云った。
「全身麻酔で意識を強制的に遮断しゃだんするか、性交渉セックス最中さいちゅうは手脚をくさりつながれるか、いますぐえらべ」
「……ふざけ……ンなよッ、……そんなこと、どっちも……あり得ない、だろーがッ」
「悪いが、これは至って真面目まじめな話だ。極められないのであれば、わたしが判断するまでだ。文句もんくを云いたければ、ひとりでも多くの情人イロよろこばせてから聞いてやる」
 医師は手にした注射針を、本人の許可なく腕にした。次第しだいに目の前が暗くなり、何も考えられなくなった(バージルのやつ、よくも)。
 なんでこんなことに、冗談じゃないぞ。


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