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015 コスチューム②
しおりを挟むリージョンマスターの俺に、プレイヤーのほうから勇者イベントについて質問しても、とくに問題はない。俺が余分な情報を提供しなければいいだけだ。……少し、罪悪感を抱くがな。それもだいぶ慣れた。
『ファーレンは、勇者になりたいのか』
『もちろん! オレの友人が先に勇者になってて、すげぇ自慢してくるンだ。ちょっと前までオレより低いレベルだったのに、あいつ、風邪で休んだ日にゲームばっかやってたみたいでさ。いきなり差をつけられて悔しいじゃん。たしか、このあたりのリージョンで称号を取ったらしいから移動してみたけど、限定イベントが始まる気配がないし、どうしたらいいのかなって』
競争心(張り合って勝ちたいと思う気持ち)が強いせいか、よくしゃべるし早口だ。まだ若そうだな。まあ、いい。ファーレンの個人的な理由など、俺には関係ない。条件を満たしているやつに、勇者イベントを発生させてやるだけだ。……事前にヒントを見てきたようだし、レベルも基準値より上だ。ファーレンなら、勇者になれるだろう。
例によって、バグが
起こらなければの話
……いかん、不吉なことを考えてしまった。しかし、システムの不具合によるフリーズは、頻繁に起きているからな。一部のプレイヤーから苦情電話がかかってくると、安達が嘆いていた。開発段階でチェックが甘かったのが原因だろう。
『ファーレン、俺についてこい』
『ブレイク?』
『勇者になれる必須条件は、人助けだ。なにも、世界規模の危機を救う必要はない。ちょうど、近くの村でドロニュルの襲撃騒ぎがあった。いっしょに行こうぜ』
『そりゃ大変だ。すぐ行こう』
うまく乗ってきたな。これで勇者イベント突入だ。……いや、ちょっと待て。
『おい、ファーレン』
『なに』
『お供は、いったんしまっておけよ』
『サルッチ、トリッチ、イヌッチのことか?』
『あ? ああ。その三匹のことだ』
一瞬引いたが、単純明快なネーミングだ。動物はNPCにつき、ドロニュルの攻撃対象になることはないが、画面をうろうろされると戦闘に集中できない。ファーレンがイベントに失敗しないよう、注意を促しておく。
なんて、案内に気を取られていると、ファーレンが貴重品を変更していた。しかも、見た目のグラフィックが大胆なやつで、俺(本体)は反射的に「げっ」と、声にでた。
なんで今、それを?
『どう? 似合ってる? これも和国のリージョンで入手したんだ。男らしいっスか? オレ、ずっと巻いてみたいと思ってたけど、リアルだと恥ずかしくて無理だから、気合を入れてみたぜ!』
内心ツッコまずにはいられない。なにを血迷ったのか、ファーレンが装備した貴重品は[伝統下着]だ。これから勇者になろうとしているやつが、露出狂とは、意味不明だぞ。
とはいえ、どんな姿になっても勇者イベントのクリアは可能だ。ただし、伝統下着(ふんどし)では布地の面積が少なすぎる。この先の村で、傷ついたNPCに自分の衣服を破り、手当てするという、ベストクリアに欠かせない手順が待っている。
直に身につけている下着を包帯として使われては、不衛生きわまりない。いくらNPCとはいえ、まさかの展開だ。キャラクターごとに丸裸のグラフィックが用意されているとは思えないが、あったとしても、モザイク処理がされるだろうから、放っておけばいいのだろうが、それとなく伝えたほうが無難か。
✓つづく
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