9 / 45
009 まさかな
しおりを挟む日常生活を送りながら、ふと思うことがある。たとえばの話だが、スーパーやコンビニの有人レジで会計待ちをしているとき、前とか背後に並んだやつが、[リージョンフライハイト]のプレイヤーではないかと。まあ、それを言うなら、俺と同じアパートの住人だって、このゲームを楽しんでいる可能性はゼロではないだろう。パッケージに表示されている推奨レーティングは18歳以上だが、端末さえあれば小学生や中学生でもインストールできるうえ、法律上とくに問題はない。ただし、ゴールドコインを現金化するには、本人名義の口座が必要となる。
「……案外、レンドも近くにいたりして」
プレイヤーの個人情報は、安達が管理している……と思われる。ゲーム業界の仕組みはよくわからないが、安達の場合、企画や開発は少人数でまわしているらしい。プログラミングやデザイン、シナリオ制作といった専門的な能力も才能もない俺が、リージョンマスターとして胡座をかいては、その業界の人間に睨まれそうな気がするな。現在、世の中には数え切れないくらいゲームがあるし、好評を維持するには、プレイヤーが飽きてしまわないよう、日々の試行錯誤は必須だろう。
「ああ、当然俺には無理だ」
せめてもの救いは、リアルで億劫な対人関係もなく、自宅から一歩も出ずにできる仕事という点かもな。1日中ゲーム画面をながめているだけで、確実に給料がもらえる。こういったバーチャル世界が好きなやつには、うってつけの仕事だろう。俺だって、ゲームは嫌いじゃない。はじめて本体を手に入れたい日は、興奮したし、深夜になっても目が冴えて寝つけなかった。現在はというと、あの当時のように胸をときめかせる要素は見当たらない。[リージョンフライハイト]に至っても、新しいゲームを始めたのは、数十年ぶりである。
……なんて、ぼんやりしていると、本日3人目の挑戦者がきた。ブレイクとして話しかけるとするか。プレイヤーに近づこうとしたとき、画面がまっ黒になった。
「うおっ、またか」
安達いわく、システムの穴が見つかり、ごく稀にこうなるらしい。もちろん、すべてのプレイヤーにお詫びとお知らせメールが届いている。当然ながら、バグが起こると、しばらくゲームはできない。自動的に直前データからやり直し可能だが、普及まで、数時間ほど待たされることになる。いわゆる、強制終了だ。
楽しい気分を台無しにされたプレイヤーたちに、少し同情する……。
✓つづく
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる