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009 まさかな

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 日常生活を送りながら、ふと思うことがある。たとえばの話だが、スーパーやコンビニの有人ゆうじんレジで会計待ちをしているとき、前とか背後に並んだやつが、[リージョンフライハイト]のプレイヤーではないかと。まあ、それを言うなら、俺と同じアパートの住人だって、このゲームを楽しんでいる可能性はゼロではないだろう。パッケージに表示されている推奨すいしょうレーティングは18歳以上だが、端末さえあれば小学生や中学生でもインストールできるうえ、法律上ほうりつじょうとくに問題はない。ただし、ゴールドコインを現金化するには、本人名義の口座が必要となる。

「……案外あんがい、レンドも近くにいたりして」

 プレイヤーの個人情報は、安達あだちが管理している……と思われる。ゲーム業界の仕組みはよくわからないが、安達の場合、企画や開発は少人数でまわしているらしい。プログラミングやデザイン、シナリオ制作といった専門的な能力も才能もない俺が、リージョンマスターとして胡座あぐらをかいては、その業界の人間ににらまれそうな気がするな。現在、世の中には数え切れないくらいゲームがあるし、好評を維持するには、プレイヤーがきてしまわないよう、日々の試行錯誤しこうさくご必須ひっすだろう。

「ああ、当然俺には無理だ」 

 せめてもの救いは、リアルで億劫おっくうな対人関係もなく、自宅から一歩も出ずにできる仕事という点かもな。1日中ゲーム画面をながめているだけで、確実に給料がもらえる。こういったバーチャル世界が好きなやつには、うってつけの仕事だろう。俺だって、ゲームは嫌いじゃない。はじめて本体を手に入れたい日は、興奮したし、深夜になっても目がえて寝つけなかった。現在いまはというと、あの当時のように胸をときめかせる要素は見当たらない。[リージョンフライハイト]に至っても、新しいゲームを始めたのは、数十年ぶりである。

 ……なんて、ぼんやりしていると、本日3人目の挑戦者がきた。ブレイクとして話しかけるとするか。プレイヤーに近づこうとしたとき、画面がまっ黒になった。

「うおっ、またか」

 安達いわく、システムの穴が見つかり、ごくまれにこうなるらしい。もちろん、すべてのプレイヤーにお詫びとお知らせメールが届いている。当然ながら、バグが起こると、しばらくゲームはできない。自動的に直前データからやり直し可能だが、普及ふきゅうまで、数時間ほど待たされることになる。いわゆる、強制終了だ。

 楽しい気分を台無しにされたプレイヤーたちに、少し同情する……。


✓つづく
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