君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 少し離れたところから聞こえてくるさざ波の音。かすかに香る潮の匂い。夏だという言うのに鳥肌が立ってくるほどの冷気。ちょっと動いただけで反響するこの感じ……。

 僕、前にここ来たことあるな…。目が何かに覆われてて見えないけど、すごい既視感がある…。どこだっけ…。ていうか、いつ来たっけ…。
 口にも布があてられてて声が出せなくて…。手足も後ろで縛られてて…動けなくて…。この感じもどこかで………。




 ……………5歳の時だ…。



 誘拐された時の…。あ、僕もしかして今…。


 あの時のどうしようもない恐怖心と絶望感が襲い掛かり、頭から冷たい何かが伝ってくる感覚がする。


 ど、どうにかしなきゃ…。どうにかしてここから出ないと…。で、もどうしたら…。やばい、とりあえず落ち着かないと…。

 あ、息が…うまく吸えない…。まずい…吸わなきゃと思えば思うほど、空気が全く入ってこない…。僕今までどうやって呼吸してたっ、け…。あ、まずい頭が何も考えれな……。




 その時冷たくなった指先に何か固いものが触れた。


 …あれ、僕…親指になにか、つけてる…。

 …これ指輪…?僕指輪なんて…あ、カップルリング!!あの時の…!


 指につけていたカップルリングを認識した瞬間、リュークさんの顔が脳裏に浮かび、不思議と安どが体中に広がる。


 大丈夫…。大丈夫…!!きっと、リュークさんなら迎えに来てくれる…!!大丈夫…。大丈夫…。

 
 
 
「…あいつ、あだ気を失ってるのか…?」
「見ての通りだ。まぁ、それなりに強い薬を使ったからな。そうそう起きないだろうよ。」

 …なんか話し声が聞こえる…。けど、この言葉、この国の言語じゃないな…。

 これ、…コシュート語だ…。でも、なんでコシュート人がこんなところに…?僕とコシュートに接点なんて…。コシュート人…?…あ、れ…?


 一つの疑念が頭をよぎった瞬間、遠くのほうで何かが崩れるような大きな音がした。






 ソーンside


「ここか…。」
「普段はいないような見張りがわんさかいるところを見ると、ここで間違いなさそうだな…。」
「どうします?突撃しますか?突撃しましょう!!」


「…いや、アルが本当に要るのかどうか分からずに突撃するのは得策でない…。もう少し様子を伺おう。」
「でも、早く行かないとアルの身に何かあったら…!」弟であるアルが誘拐されてるんだよ!?なんでそんなに落ち着いてられるの!
「落ち着け。この様子だと犯人はかなり計画性をもって誘拐を行っている。それにアルスほどの地位が高いやつを狙うってことはそれなりに目的をもって行っているはずだ。公爵の子息を誘拐してまで達成したい目的なんて限られてくる。最悪の場合アルに危害が加わるかもしれない...。ここからは慎重に動かないと。」
「…でも…。」

 …そっか、そうは言うものの、れっきとした確証はないんだった…。それに強制力が変に働いていて、ここじゃない別の場所連れて行かれてるのかもしれないのか…。なんだか不安になってきた…。クソっ、今までは分かり切った未来ばかりで予測不可能なことなんてなかったのに…。何が起こるか分からないのってこんなに怖いんだ…。




 突然、リュークさんが大きな音を立てて手を叩いた。いや、厳密にはもう片方の手で指輪のはまっている指を抑えていた。
 おぉ…ていうか、リュークさんってそんな顔できるんだ…。




「リューク?ど、どうした。」初めて見る表情にアランさんも動揺してる。
「…アルスだ。ここで、間違いない…!!」
 そう言い残し、リュークさんは倉庫の入口へと突っ走っていった。









「「え…?」」
「あの馬鹿!!!」僕とアランさんは慌てて後を追いかける。














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