君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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「おい!!てめぇどこに目ぇつけてやがんだ!!」
「あぁ??お前こそ!よそ見して歩いてんじゃねぇよ!!!」


 にぎわっている大通りに突如、怒号が飛び交う。

「ケンカ…?」
「どうしたんだろう?」
 何が起きたのかを見ようと、たくさんの人だかりができ始める。


 僕もみんなと同じく様子をうかがおうと背伸びをしたところで、急に強く腕を掴まれる。

 一瞬、お兄ちゃんがまた自分の背中に僕をまわそうとしたのかと思ったが、口に布のようなものをあてがわれたところで違うことに気づく。

 遠ざかるみんなに助けを求める間もなく目の前が真っ暗になっていく……。





「…ただのチンピラ同士の喧嘩みたいだね…。」
「ちょっとびっくりした…。」
「乱闘始めるのかと思った…。」
「ねぇ。途中でほかの人たちが止めてくれたからよかったものの…。アルも大丈夫だっ、た…?」
「え、アル…?」
「どこに行った…?」









 ソーンside


 人目も憚らず泣き崩れているアルの両親。しきりに大声でアルの名前を呼ぶアランさん。ふらふらと覚束ない足取りでアルを探すシンとリーン。


 …どうして、こうなった!?


 だって、だって誘拐されるのは僕のはずでしょ!!アルスに指示されたやつらに誘拐されるのは、僕だったでしょ!!だからこそ!!そもそも、アルと仲良くなった今回はそんなの起きないはずなのに!?”夏祭り誘拐事件”自体起こりうるはずがないのに…!!なんで、よりにもよってアルが…。本来辿るべき道を行っていない弊害か…?全く別の方向に進んじゃったからか!?



 ……あぁっ!くそっ!!!僕が歴史を変えたばっかりに、アルが…!!ど、どうすれば、どうすればいいっ…!?今までと違って決まりきった未来が来る確証はないし…、僕の時みたいに犯人が手掛かりを落としたわけでもない…。誘拐した犯人も分からなければ目的すらも分からない…。絶望的なほどに詰んでる…。考えろ、考えろ…。



 親指につけられた指輪をつ、となでる。





 …僕がまいた種だ僕がどうにかしないと…!!











 ……弊害…。弊害か…。もし、本来のシナリオ通りに戻そうとしている強制力みたいなのが働いているならば…?




 リュークさんだ…。リュークさんならどこにいるか分かるはず…!

「アランさん!!リュークさんを呼んでください!!」

 その瞬間突然目の前に黒い物体が、ぬっ、と現れた。
「ここにいる!!どうした、アルスに何かあったんだろう!?あいつはいまどこに…!!」
「お前、共鳴してるんだろ!!わかるんじゃないのか!?」すごい剣幕でリュークさんの胸倉を掴むアランさん。
「魔術が遮断されているし、そもそもアルスが意識を失ってるからか全然分からない…。」
「くそっ…。」

 

 場所が、分からない...?なんで、僕の時は使えてたじゃないか...。


 ...どうしよう…どうしよう!!考えろ…。





 ……もし、もし仮に、変な強制力が働いていて、アルが僕と同じルートを辿っているとしたら…?僕が誘拐されていた場所にアルも誘拐されていたとしたら…?確証なんてない、けど賭けてみる価値はある。

 きっと、アルがいる場所は…!
















「「港横の倉庫…?」」
「はい、あそこなら王都から比較的近いくせに、夏祭りが開催されている今、警備はかなり手薄です。それに海に面しているから、逃走ルートも確保しやすい。」
「港横の倉庫…!?」となりから悲痛な叫び声が上がる。
「そこって…。」振り返ると、僕の話を聞いていたアルの両親が絶望の色を顔に浮かべていた。
「昔アルが誘拐されたとこ…?」アランさんも驚きの表情を浮かべ言う。

「可能性としてはなくは、ない。前回も見つけるのに時間がかかったから…。だとしたら、犯人は前の同じ奴らってことか…?」
「それは分かりません…。けどアルがいる確率は高いと思います。早くいきましょう!」
「分かった!が、仮にそうだとして今この何も手掛かりがない中で決めつけるのは悪手だ。そこには俺が行くからあとの奴らは他に人が少ない建物をあたれ。」
「まて、リュークお前ひとりじゃ危険だ。俺も着いていく一回アルを助けに行った場所だから、大体の構造も分かる。」
「ぼ、僕も行きます!!」
「だめだ!お前には危険すぎる。ここで待機しろ!」
「なんで!?僕だってアルを助けに行きたい!それに僕は回復が得意だから二人がけがをしたらすぐに治せる!!」アルが誘拐されたのは紛れもなく僕のせいだ。だからここは引き下がれない…!

「……分かった。ただし危険な行動はとるなよ。俺たちの言うことは絶対に聞け。」
「分かりました!あ、あと、リュークさんこれ。」そう言って僕は親指にはまっていた指輪をリュークさんに渡す。
「アルとお揃いの指輪です。すこしでも共鳴の足しになれば…。」
「ありがとう…。でもいいのか、お前のだろ?」
「大丈夫です。実はもう1セットあるんです。」そう言って僕はポケットの中に入れていた指輪の入っている箱を出す。
「わ、分かった…。」そう言いながらリュークさんは指輪をはめる。




「…それに、それは初めからあなたものものですから。」



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