君の瞳は月夜に輝く

文字の大きさ
上 下
76 / 104
幕開け

72

しおりを挟む
リリーシュside

 

 ………はぁ…。


 アルス=シューベルト…。

 ……今日も、美しかった…。本当に…。きっと、彼のことを天使と言うのだろうな…。

 いつもは遠くから見てるだけで、今日だって顔を見れればいいと思っていたが、まさか目があってしまうとは…。
 あぁ、もう一度会いたい…!声が聞きたい!!閉じ込めたいぃぃ!!


 驚いた表情も可愛いかったな…。目から零れ落ちんばかりに開かれた瞳、少し赤く染まった頬、無防備に少しだけ開いてる唇。...全てに触れたい!!!直接この手で彼に触りたい!!

 アルの表情を一つ一つ思い返し、思わず体が震える。


 
 んあぁっ!!あのっ!!!あの絹のように細やかな肌に触れたいぃ…!!それに、あの目!!あの目で見下されたいぃ!!彼に見下されたりなんかしたら、僕は……僕はっ……!


 すぐさま、執務机に駆け寄り一番上の引き出しを開ける。奥のほうから少しくたびれたハンカチを取り出し、いつものごとく口に押し当てる。彼に蔑みの表情を浮かべられ、さらには足で踏まれているところを想像しながら息を吸い込むと、一際大きく体が跳ねる。




 …あぁ、やはり閉じ込めておこうかなぁ…。







 彼と初めて会ったのは僕が11歳の時。


 当時の僕は荒みに荒んでいた。家族にさえも味方と呼べる人間がおらず、孤独だったからだ。

 父は、僕と母というものがありながらよその女にうつつを抜かし、母はそんな見向きもしてくれない父を求めすぎるあまり精神を病んだ。周囲の人間もそんな母と僕のことを王の寵愛を受けることが出来なかったと軽蔑していた。

 そんな状況で母は次第に頭までもがおかしくなり、挙句愚かにも自死を選んだ。
 母が死んだとき、少しだけ、ほんの少しだけ、父は僕を見てくれるんじゃないかと期待した。母を亡くしたかわいそうな僕を気に掛けてくれると思っていた。


 …あの男がそんなことするはずないのに…。



 僕の期待とは裏腹に父は、母が死んですぐ母の妹と結婚し、僕をいないものとして扱うようになった。


 後から聞いた話では、以前うつつを抜かしていた相手こそがその女だったそうだ。


 哀れにも愛した男に見捨てられた母、何をしても僕のほうを見向きすらしない父、そして急にできた妹と王位継承権を持つ弟たち。このままでは、僕の居場所がとられてしまうと思った。
 だから、何とか死守しようともがいた。母から父を奪った女とその子供たちを王宮から追い出そうとした。あわよくば精神を病んで僕の母と同じ思いを味わえばいいと思った。

 …まぁ、僕以外の5人が庭で仲睦まじくピクニックをしてたのを見て初めて、それらは全部無駄で、そもそも僕の居場所なんてなかったのだと悟ったけど…。





 そんな時に、一人の天使に出会った。この世のものとは思えないほどの美しさを備えた天使に。その天使は、庭でくすぶっていた僕を見つけ出してくれた。天使は涙を流している僕にハンカチを与えてくれたばかりか、ずっと喉から手が出るほど欲しかった言葉までも与えてくれた。

 なにより、僕を見てくれた。



 それが嬉しくて嬉しくて、僕だけを見てくれないかと考えるようになった。彼を手に入れたいと考え始めた。


 …一度、彼を僕の手中に閉じ込めようとしたことがある。かくれんぼだと言って僕の部屋に隠そうとした。すぐ見つかっちゃったわけだけど。


 あの時は失敗したが、次は逃さない。



 もう一度ハンカチに触れようとしたとき、ドアがノックされる。…またあいつか…。

「入れ…。」
「失礼します。」そう言い、部屋にずかずかと入ってきたのは僕の執事マテウスだった。

「…なんだ?」僕の至福の時間に水を差され、無意識に語気が強くなる。
「お食事はどうされますか?」
「…いつも通り部屋で食べる。置いておけ。」
「承知いたしました。では、失礼いたします。」

 僕に仕えてから長いが、どうしてかいつも間が悪い。あまりのタイミングの悪さに逆に狙っているのではないかと錯覚してしまうほどだ。

 クソ!!せっかく気分がよかったのに台無しじゃないか…。


 マテウスが部屋から出たのを見計らって、もう一度ハンカチを口元にあてる。




 …絶対、捕まえるからね…。僕の天使様…。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

王道学園と、平凡と見せかけた非凡

壱稀
BL
定番的なBL王道学園で、日々平凡に過ごしていた哀留(非凡)。 そんなある日、ついにアンチ王道くんが現れて学園が崩壊の危機に。 風紀委員達と一緒に、なんやかんやと奮闘する哀留のドタバタコメディ。 基本総愛され一部嫌われです。王道の斜め上を爆走しながら、どう立ち向かうか?! ◆pixivでも投稿してます。 ◆8月15日完結を載せてますが、その後も少しだけ番外編など掲載します。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

処理中です...