君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 あぁ、どうしよう…。なんか、気持ち悪くなってきちゃった…。もう、王宮についちゃったけど、馬車から出たくないな…。このままお家に帰れないかな…。


 

 あの日、カルロ殿下は単純にお兄ちゃんに会いに来ただけでなく、王宮からの招待状も持ってきていた。招待と言っても挨拶をしに行くだけではあるが、それでもやっぱり緊張してくる。それにお兄ちゃんの顔もずっとこわばっているし…。なおさら、今日行くのが億劫になる…。お父さんとお母さんも落ち着かないようで、家の中を行ったり来たりしているかと思ったら、「王宮では私たちから離れないように。」ってしきりに言ってくるし…。ちょっと、怖くすらなってきたな...。


 いやいや、え、今日って平たく言ったらリリーシュ殿下に誕生日おめでとうを言いに行くだけの日だよね…?それなのになんでこんなに家中がピリついているんだろう…?
 確かに、表情はすごく怖いよね…。みんな、爽やかスマイルの王子とか、国民の初恋だとか言ってるけど、絶対嘘だよ。笑ったとこなんか見たことないし…、少なくとも僕の前ではずっと冷たい表情だもん。何か嫌われるようなことしたっけ…。



 ふと、初めて会った時のことを思い返す。

 …そういえば、僕初めてリリーシュ殿下に初めて会ったとき、王子とかっていうの分かってなくて、おもっきり普通の友達みたいに話しかけちゃったんだよね…。なんか、中庭の片隅に佇んでいて…。まさか、王子がそんなところにポツンと一人でいるなんて思わなかったし、初めての王宮ですんごい緊張してた中で、同い年くらいの男の子がいたからテンション上がっちゃって、かなりぐいぐい行っちゃってたな…。内容としては、仲良くなりたいの一心であれこれ「すごい!」って言っていたような気がするけど、やっぱり距離感無視して話しかけちゃったのがダメだったかな…。僕と殿下を見つけた大人たちがすごい大慌てだったし…。あれが、結構気分害しちゃったのかもな…。

 …考えれば考えるほど気が重くなってきた…。





 なんとか重い腰を上げ、王宮の中に入る。たくさんの人がお出迎えしてくれたんだけど、空気がかなりピリピリしていて自然と背筋が伸びる。…あれ、王宮ってこんな雰囲気だったっけ…。こんなに後ろに人がついて来てたっけ…?


 途中、カルロ殿下とメルロス殿下とすれ違う。すれ違いざま、カルロ殿下がお兄ちゃんに目配せしてたから、僕も負けじとメルロス殿下に目配せをする。メルロス殿下は不思議そうに首をかしげていた。






 いよいよリリーシュ殿下の待つ部屋につく。部屋の中も相変わらず人がたくさんいるな…。部屋の奥のほうでリリーシュ殿下が悠然と座っており、そんな殿下に向かってお父さんがあいさつをする。



「ご機嫌麗しゅう、殿下。お目にかかれて光栄です。」

心なしか声が少しとげとげしい気がする…。



 ……でも、なんだかあれだな…。緊張感の割にはすんなり物事が進んでる気がするな…。


 ふと、リリーシュ殿下のほうを見る。やっぱり第一王子ってだけあって服装がすごい豪華だな...。装飾というか刺繍というか、ちょっと派手すぎじゃない...?



 ...あ、目が合った…。

 その瞬間、殿下が、ガタッと大きな音をたてて立ち上がる。お兄ちゃんは咄嗟に僕の手を掴み背中に隠す。周りの大人たちも臨戦態勢に入る。その様子を見ていた殿下は、はっとして座りなおす。



 ……おぉ…、なんか、こわぃぃぃ…。










 リリーシュ殿下へのあいさつは思っていたよりもあっさりと終った。周りの大人たちがすごい警戒しているものだから、事件だとかそういったものが起こるのかなと思っていたけど、そんなこともなかったし。なによりも、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも早く帰りたいっていうオーラを前面に出していたからか、あいさつもすぐ終わったんだよね…。
 ...それはそれで殿下に失礼じゃない...?



 出口へとつながる道を歩いていると、とても見覚えのある踊り場にたどり着く。


 …確か、ここの階段を上がって、廊下をずっと奥に行ったらリリーシュ殿下のお部屋あるんだよね…。たしか…すごい広くて、家具もいっぱいあってサイズもかなり大きかったからかくれんぼしてお遊んでたっけ…。あれ、そういえばあの時、リリーシュ殿下と遊んでいたはずなのに、最終的にお兄ちゃんに見つかったんだよね…。なんで急にお兄ちゃんが鬼になったんだろう…。お兄ちゃんに聞いてもなぜか頑なに答えようとしないし、あれ以降王宮に行かなくなったからうやむやになっちゃったな…。

「どうした、アル…。なにかあるのか?」
「…ううん何でもない。」

 …まぁ、今更気にしたとこで意味がないか…。
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