君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 着々と試合が進んでいき、残すところはあと今大会の大目玉である決勝のみとなっている。




 その前の1試合目の準々決勝、準決勝はそれぞれカルロ殿下とロストさん、お兄ちゃんとロストさんの対決だった。けれど、やっぱりロストさんが強かった…。
 準々決勝と準決勝は本当に強いもの同士の戦いだからハンデが結構軽くなっていて、ロストさんは初等魔術なら使える、カルロ殿下は魔術の使用回数が増える、お兄ちゃんは回数は変わらないけれど光と風の属性が使える、っていう風になっていた。こうしてみると、初級魔術しか使えないロストさんがかなり不利な気がするけど、いざ試合が始まったら『魔術なしのままの方がよかったんじゃ?』と思うくらいに強かった。なんていうんだろう、パワーがすごいのは言うまでもないんだけど、経験値が違う。隙という隙がないし、背後も取らせない。一度、お兄ちゃんがロストさんの背後を取ったんだけど、ロストさんがそのまま後ろ向きで的確に攻撃をしたのを見たときは会場が一番沸いた。お兄ちゃんを応援していたはずの僕もそれを見たときはロストさんに魅せられた。



 そんな怒涛の試合を終えて迎えた決勝戦。いまや会場内で最強とされているロストさんの次の対戦相手、つまりシード枠の人物は様々な憶測が飛び交っているものの未だ明らかにされていなかった。一つだけ確かなことは、そんなロストさんよりも強い人であるということだ。


「やっぱり決勝戦の相手はリカードさんなのかな?」僕はリーンが持ってきたトーナメント表を見ながら言う。朝見たときは番号しか書かれていなかったが、今その下には名前を勝ち負けが書かれていた。しかし、依然シード枠の17番には誰の名前も書かれていなかった。
「まあ、ロストさんよりも強いとなるとそうなるな…。」
「……ねぇねぇ、アル。どうせなら前の方に座らない?僕、もう少し近くで見たい。」
「たしかに!あ、ちょうどあそこが空いているからあそこ行こうよ。」


「それでは、決勝戦を始めます。選手の方はご入場ください。なお、この決勝戦では特別ルールはなく、制限なしで行われます。」
たまたま空いていた席に座り一息をついたとき、決勝戦の試合を始めるアナウンスが流れる。

いよいよだ。


シード枠の人が気になりすぎて、ロストさんが入ってくるはずの入り口とは反対のほうをじっと凝視してしまう。


入口の扉が開かれる。




そこから出てきたのは…。











「リュークさん……!?」

 まさかの人物の登場にどよめく会場。



 え、リュークさんがシード枠?ロストさんよりも強いってこと?なんであんなにかっこいいの?というかいつの間にテストを受けていたんだ。だって、あの時テスト受けるような感じじゃなかったよね?まてまてそもそもリュークさんって戦うの?あれ、なんで闘技会出てるんだろう…?

 僕も、予想だにしなかった人物の登場に思考がまとまらない。観客席にいる人たちも同じなのか一向にどよめきが止まらない。


 そんな僕たちをよそに試合の準備は着々と進む。選手はお互いに礼をし、審査員の合図を仰ぐ。


 審査員の一人が旗を振り下ろし、試合が始まる。しかし、いまだ会場には混乱の渦に巻き込まれており誰一人として歓声を上げていない。  

 しかし、誰かの「ロスト様!!がんばれー!!」という大きな声を契機にみんな応援しだす。

 応援しだしたんだけど…
「…みんな、ロストさんを応援してるね…。」周囲を見渡していたソーン君が呟く。
「…なんで…。」聞こえてくる声援がすべてロストさんを応援しており、リュークさんの名前を叫ぶ人は誰一人としていなかった。
「分かんない…。けど、ほら観客にとってリュークさんって決勝戦になって急に出てきた感じでしょ?だから、応援しにくいんじゃないかな…。」

 リュークさんのほうを見る。
 ……おされてるな…。リュークさん自身焦ってるのか、顔をしかめている。

「リュークさん…。」

 僕の気持に反してロストさんを応援する声は大きくなる。

 どうしよう…。どうしたらいい…?どうしたら…。



 いつの間にか、体が動いていた。観客席の一番前まで走っていき、大きく息を吸って…

「リュークさん、がんばれーーー!!!」






 その瞬間、リュークさんがこちらの方を向いた。目が合って、ふと微笑んだ。……ような気がした。





 心臓が大きく跳ねる。


 周囲の声なんて聞こえなくなっていた。
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