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幕開け
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測定テストがあった数日後、闘技会の運営から大きな封筒が二つ届いた。一つは僕宛で、もう一つはお兄ちゃん宛てだった。中には自分が出場する部門と番号、それから日程とトーナメントの表が書かれた紙が入っていた。お兄ちゃんの部門は超上級で、僕は中級だった。正直、テストでの記憶がないからこれが妥当な部門なのかはわからない。闘技会が開催される期間は全部で三日間で、一日目に初級と中級、二日目に上級、三日目に超上級という日程になっていた。意外と短いんだな…。それに一日目の開会式のところに『スペシャルゲスト参加予定!』って書かれてあるけど、一体誰なんだろう…。
それからトーナメント表を見てみる。名前は書いていない代わりに出場番号がたくさん書かれてあった。僕の番号は一番端っこにあり、他のと違って一本少し長めに線が引かれていた。
「アル、シード枠じゃないか。」一緒にトーナメント表をのぞき込んでいたお父さんがそう呟く。
「シード枠…?」
「うん。ほらほかの人と違ってアルは第二試合からになっているだろ?まぁ、あれだけテストで動いていたら当たり前か…。それにしてもアル、かなりトレーニングしたんだなぁ。あんなに動けてしかも魔術も使えるなんてお父さん知らなかったよ。成長したなぁ…。」
お兄ちゃんが言うには、シード枠を獲得する人は測定テストでかなり好成績を残した人なんだそうだ。つまり、唯一のシード権を獲得している僕は中級部門内で一位だったということになる。……僕本当にテストで何しちゃってたんだ…?
「アル、本当に大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
「…う、うん。大丈夫…。」
今日は闘技会一日目、つまり僕が初めて闘技会に出場する日。緊張のせいか朝からずっとおなかが痛い。お兄ちゃんがさっきからしきりに「大丈夫?」って聞いてくるから、顔色も相当悪いんだと思う。とはいえ、受付をしないと出場ができないから、とりあえず入り口に向かう。
「アルス=シューベルト様ですね。今日の午後、第二戦からの参加となりますね。はい、受付いたしました。こちら参加賞です。」そう言い、受付のお姉さんはハンカチを手渡した。隅に小さく闘技会のロゴが入ったものだ。
「この後開会式がございます。観客席にて参加が可能ですので、ぜひ行ってみてくださいね。」
僕たちはお姉さんにお礼を言って観客席に向かった。
観客席にはすでにたくさんの人が集まっていた。僕たちはかろうじて二つ空いている席を見つけそこに座る。息をつく暇もなくトランペットの盛大な音楽とともにアナウンスが入った。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます!これから開会式を始めたいと思います。まず、最初に今大会をサポートしていただきますスペシャルゲストにお越しいただきましょう!皆様!ぜひ、拍手でお迎えください!それでは、どうぞ!!」
「スペシャルゲストって誰なんだろうね?」
「さぁな…。今までこういうことなかったからな…。」
観客の拍手の中、フィールドの真ん中に現れたのは、
……あれ、ちょっと距離があるからはっきりとは分からないんだけど…あの人、シャーマール先生じゃない?や、でも髪がいつもより短いような…?…あ、違う!あの人リカード=フォルストさんだ!お兄さんの方だ!
思わず僕の隣に座っている大ファンを見る。小さな声で「…なんで、ここに…?」と呟いていたが、その眼はすごくキラキラしていた。
リカードさんは今回審査員として招かれたらしい。今までこういったスペシャルゲストが来ることはあったけれど、それでもリカードさんほどの有名人が来ることは初めてらしく、周囲の人たちも興奮を隠せないようだった。お兄ちゃんは依然として「俺の戦いが見られてしまうってことか…!?ま、まずいぞ…。」とかなんとかつぶやいていた。
開会式が終わり、ほどなくして初級部門が始まる。僕は午後のしかも第二試合からなので、かなり時間がある。特にすることもないので、ぼくたちはその辺を散歩することにした。
…してるのはいいんだけど…。すれ違う人、すれ違う人に「あれが呪われてるっていう…。」「シューベルト家なのに魔術が…。」ってささやかれてる…。やっぱりこの雰囲気苦手だな…。いや、僕が気にしなければいい話なんだけど、どうしても真に受けちゃうな…。あ、やばいもっとおなかが痛くなってきた…。
不意にお兄ちゃんが立ち止まり、周囲を一瞥する。その視線の冷たさに一気にみんなが静かになる。
「言いたいことがあるなら直接言ったらどうだ?こそこそと、恥ずかしくないのか?」そう言って僕の噂を言っていた人たちのことを見る。お兄ちゃんの毅然とした態度に気圧されているようだった。お兄ちゃんはその人たちが何も言えなくなったのを確認して、「腰抜けめ…。」と吐き捨てその場を去った。慌てて僕はそれを追いかける。
やっぱり、お兄ちゃんかっこいいな…。あんなにきっぱりとモノが言えるなんて…。僕にはできないな…。とはいえさっきのお兄ちゃんのセリフ、もしかして…。
少し人気のないところにつく。僕は気になっていることをお兄ちゃんに聞いてみた。
「ねぇねぇ、さっきの言葉って…「気のせいだ。」
「やっぱり、リカーd「そんなことはない。」
「だって、あれ有め…「気のせいだ!」
語気は強いけれど、お兄ちゃんの耳が赤くなっているのを見て確信する。さっき言ってた言葉、全部リカードさんについての本に書かれてあるセリフの一つだ。いつもは温厚でやさしいリカードさんが唯一激怒したっていうエピソードに出てくる。しかも、お兄ちゃん「腰抜けめ…。」って言った後ポケットを手に入れるところまで再現しちゃってたし、わかる人にはわかる気がするんだけどな…。
「ちょっと、言ってみたかったんでしょ?」
「頼む、もう何も言わないでくれ…。今更羞恥心が込み上げてきた。とっさに出てきた言葉とはいえ、まさかあれを言うとは…。もういっそ殺してくれ…。」そう言って顔を覆う。
お兄ちゃん、首まで真っ赤だ…。なんか、お兄ちゃんっていっつもカッコいいところしか見てこなかったから、こういう姿新鮮に感じるな…。
「ありがとうね。お兄ちゃん、すごくかっこよかったよ。」
いつの間にか緊張はどこかに行っていた。
それからトーナメント表を見てみる。名前は書いていない代わりに出場番号がたくさん書かれてあった。僕の番号は一番端っこにあり、他のと違って一本少し長めに線が引かれていた。
「アル、シード枠じゃないか。」一緒にトーナメント表をのぞき込んでいたお父さんがそう呟く。
「シード枠…?」
「うん。ほらほかの人と違ってアルは第二試合からになっているだろ?まぁ、あれだけテストで動いていたら当たり前か…。それにしてもアル、かなりトレーニングしたんだなぁ。あんなに動けてしかも魔術も使えるなんてお父さん知らなかったよ。成長したなぁ…。」
お兄ちゃんが言うには、シード枠を獲得する人は測定テストでかなり好成績を残した人なんだそうだ。つまり、唯一のシード権を獲得している僕は中級部門内で一位だったということになる。……僕本当にテストで何しちゃってたんだ…?
「アル、本当に大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
「…う、うん。大丈夫…。」
今日は闘技会一日目、つまり僕が初めて闘技会に出場する日。緊張のせいか朝からずっとおなかが痛い。お兄ちゃんがさっきからしきりに「大丈夫?」って聞いてくるから、顔色も相当悪いんだと思う。とはいえ、受付をしないと出場ができないから、とりあえず入り口に向かう。
「アルス=シューベルト様ですね。今日の午後、第二戦からの参加となりますね。はい、受付いたしました。こちら参加賞です。」そう言い、受付のお姉さんはハンカチを手渡した。隅に小さく闘技会のロゴが入ったものだ。
「この後開会式がございます。観客席にて参加が可能ですので、ぜひ行ってみてくださいね。」
僕たちはお姉さんにお礼を言って観客席に向かった。
観客席にはすでにたくさんの人が集まっていた。僕たちはかろうじて二つ空いている席を見つけそこに座る。息をつく暇もなくトランペットの盛大な音楽とともにアナウンスが入った。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます!これから開会式を始めたいと思います。まず、最初に今大会をサポートしていただきますスペシャルゲストにお越しいただきましょう!皆様!ぜひ、拍手でお迎えください!それでは、どうぞ!!」
「スペシャルゲストって誰なんだろうね?」
「さぁな…。今までこういうことなかったからな…。」
観客の拍手の中、フィールドの真ん中に現れたのは、
……あれ、ちょっと距離があるからはっきりとは分からないんだけど…あの人、シャーマール先生じゃない?や、でも髪がいつもより短いような…?…あ、違う!あの人リカード=フォルストさんだ!お兄さんの方だ!
思わず僕の隣に座っている大ファンを見る。小さな声で「…なんで、ここに…?」と呟いていたが、その眼はすごくキラキラしていた。
リカードさんは今回審査員として招かれたらしい。今までこういったスペシャルゲストが来ることはあったけれど、それでもリカードさんほどの有名人が来ることは初めてらしく、周囲の人たちも興奮を隠せないようだった。お兄ちゃんは依然として「俺の戦いが見られてしまうってことか…!?ま、まずいぞ…。」とかなんとかつぶやいていた。
開会式が終わり、ほどなくして初級部門が始まる。僕は午後のしかも第二試合からなので、かなり時間がある。特にすることもないので、ぼくたちはその辺を散歩することにした。
…してるのはいいんだけど…。すれ違う人、すれ違う人に「あれが呪われてるっていう…。」「シューベルト家なのに魔術が…。」ってささやかれてる…。やっぱりこの雰囲気苦手だな…。いや、僕が気にしなければいい話なんだけど、どうしても真に受けちゃうな…。あ、やばいもっとおなかが痛くなってきた…。
不意にお兄ちゃんが立ち止まり、周囲を一瞥する。その視線の冷たさに一気にみんなが静かになる。
「言いたいことがあるなら直接言ったらどうだ?こそこそと、恥ずかしくないのか?」そう言って僕の噂を言っていた人たちのことを見る。お兄ちゃんの毅然とした態度に気圧されているようだった。お兄ちゃんはその人たちが何も言えなくなったのを確認して、「腰抜けめ…。」と吐き捨てその場を去った。慌てて僕はそれを追いかける。
やっぱり、お兄ちゃんかっこいいな…。あんなにきっぱりとモノが言えるなんて…。僕にはできないな…。とはいえさっきのお兄ちゃんのセリフ、もしかして…。
少し人気のないところにつく。僕は気になっていることをお兄ちゃんに聞いてみた。
「ねぇねぇ、さっきの言葉って…「気のせいだ。」
「やっぱり、リカーd「そんなことはない。」
「だって、あれ有め…「気のせいだ!」
語気は強いけれど、お兄ちゃんの耳が赤くなっているのを見て確信する。さっき言ってた言葉、全部リカードさんについての本に書かれてあるセリフの一つだ。いつもは温厚でやさしいリカードさんが唯一激怒したっていうエピソードに出てくる。しかも、お兄ちゃん「腰抜けめ…。」って言った後ポケットを手に入れるところまで再現しちゃってたし、わかる人にはわかる気がするんだけどな…。
「ちょっと、言ってみたかったんでしょ?」
「頼む、もう何も言わないでくれ…。今更羞恥心が込み上げてきた。とっさに出てきた言葉とはいえ、まさかあれを言うとは…。もういっそ殺してくれ…。」そう言って顔を覆う。
お兄ちゃん、首まで真っ赤だ…。なんか、お兄ちゃんっていっつもカッコいいところしか見てこなかったから、こういう姿新鮮に感じるな…。
「ありがとうね。お兄ちゃん、すごくかっこよかったよ。」
いつの間にか緊張はどこかに行っていた。
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