君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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「早めに来たつもりなのに、もう人がいるんだな…。」
「そう、みたいだね…。」

 今日は、闘技会に出るための測定テストを受けに王都から少し離れた会場に来ている。開場をしてからそんなに経っていないはずなのに、もうすでに入り口には人があふれかえっている。周りを見渡してみると、ちらほらと見知った顔もいる。

「受付がまだ済んでいない方は、こちらにお並び下さーい!!」入り口から少し離れたところでプラカードを持った人が大きく手を振って案内をしている。僕たちはそれに従って列に並ぶ。それにしても人が多いな…。

 受付で僕の名前とあらかじめ知らされていた受験番号を言ってテストの内容や今日の流れが書かれた紙と番号札をもらう。番号札は首からかける形式になっているみたいだった。…うわ~いよいよ始まるんだな…。
「あ、あとこちらの紙にサインをお願いします。」そう言われ、渡された紙に目を落とす。すっごい色んな事が書かれているけど、要約すると『大会中ケガとかしても自己責任でお願いね。』みたいなことだった。………まぁ、闘技って名前についてるくらいだから、ある程度のけがは仕方ないだろうし…そんな致命的なケガをこの歴史ある大会で負うことは、きっとないよね………。きっと……。
 一抹の不安を覚えながらも、サインをする。ちょっと字が震えちゃったような気がするけど、気づかなかったことにする。


「アルは、何番だった?」
「僕はね、130番だったよ。お兄ちゃんは?」
「俺は、131番だった。一緒に受付をしたからかな。」どうやら受け取る番号は来た順で配られるらしい。それなりに早く来たはずなのに、受け取った番号から人の多さがうかがえる。

 僕はテストの内容が書かれた紙を見る。どうやら測定テストは本番形式で行われるみたいだった。一つ違うとしたら戦う相手は人ではなく、ダミーの人形ということぐらいだった。ダミーと言っても実際に攻撃をしてくるから、それを処理しつつ反撃をしなければいけない。その俊敏性とかそもそもの攻撃力とか、技術点だとかを総合的に鑑みて闘技会の部門分けが行われるみたいだ。

「今は…34番か…。結構先だな…。」あと、100人くらいいるのか…。
「時間あるし、一度会場の中を見ておくか?どういう地形でそういう人形が使われているか知っておいたほうが安心だろう。」
「そうだね、行こっか!」

 円形上に作られた観客席の真ん中の方から会場を見下ろす。…なるほど、結構広いな…。会場にはオブジェクトとか何も置かれていないから余計にその広さが目立つ。あとは、時折立ち込める砂ぼこりが目に入るから、すごく嫌だな…。ダミー人形の方は他の試合でも使われるものと一緒だった。等身大の人型に作られた人形に魔術をかけ、目標に魔術や攻撃をすることができるようにしたものだ。見た感じ、魔術に関しても武術に関しても基礎的な動きが多いようだ。まぁ、実力を測るためだしな…。

 35番の子のテストが終わり、36番の人に会場に入るようアナウンスが入る。そこで入ってきたのが…

「え、」
「うそ…。」
「あれって…。」


「「「ロスト様!!!???」」」

 まさかのロストさんだった。闘技会の優勝候補の登場に、観客席はざわつき始める。ところどころ黄色い声援が飛び交うものの、会場全体に緊張が走っているのを感じる。

「まさか、こんなに早くここでのあいつの戦闘姿を見れるとはな…。」隣で見ていたお兄ちゃんがつぶやく。
「…ロストさん、どうやって戦うのかな…?」今までの特訓でのロストさんを思い浮かべるが、これからどう動くのか全然想像ができなかった。




 そうこうしているうちに、ロストさんが会場の中央に立ち、人形に向かって一礼をする。さすが、所作の一つ一つがキレイだ。
 

 離れた所にいる審査員が赤い旗を揚げ、開始の合図を告げる。刹那、ドゴーンという轟音が会場中に響き渡り、大きく砂ぼこりが舞う。それは観客席にまで届き、思わず手で顔を覆う。

 徐々に砂ぼこりが落ち着き、周りの状況が分かるようになってくる。会場を見ると体についた砂を手で払うロストと、地面に深く跡を残しつつ端っこまで吹っ飛んでいる人形がいた。

「あの脳筋…!!!」砂ぼこりから守るために僕に覆いかぶさっていたお兄ちゃんが言う。


 何が起こったのかが全然わからないが、観客席にいる他の人達も同じようで、全員目の前の光景に唖然としている。

 ぱらぱらと誰かが手をたたく。すると、それに呼応するよう拍手がどんどん広がり大きな歓声につながる。いまだに何が起こったのか全然分からないが、僕もとりあえず手を叩く。
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