君の瞳は月夜に輝く

文字の大きさ
上 下
57 / 99
幕開け

54

しおりを挟む
 いよいよ夏休みが始まった。人生で初めての長期の休みに、あれをしようかなこれをしようかなとワクワクしている。どうやら、家に来たシンやリーン、ソーン君も同じみたいで、全身から楽しみにしていたことがわかる。テオ君は家の手伝いがあるからって来れなかったけど、きっと僕たちみたいに楽しみにしていたに違いない。

 今日はとりあえずその浮足立った気持ちを沈ませるべく、夏休みみんなで何をして遊ぶか予定を立てている。テーブルを囲み、真ん中にはお母さんが作ってくれたお菓子、その周りには一枚の白紙と夏祭りや闘技会などのたくさんのパンフレットが積みあがっている。想像するだけで胸が躍る。

「さて、夏休みの予定を立てていくわけなんだけれども、まずはアルのなんちゃらテストみたいなやつね。あれっていつだっけ?」そう言いながら、リーンが目の前の二枚の白紙に『アル:テスト』と書き込んでいく。なんで違う紙に同じこと書いてるんだろう…。
「測定テストね。えっとね…たしか来週の頭だね。」改めて口にすると緊張してきたな…。
「あ、僕の地元の祭りもそれくらいにあるよ。」ソーン君がパンフレットの山から一つ抜き出し、ぱらぱらとめくる。
「だったら、一旦測定テストお疲れっていうので夏祭り行くのは?」
「いいわね、それ。」先ほどと同様に紙に書いていくリーン。

「アルのお父さんとお母さんも夏祭り来るのかな?」
「今の感じで行くと絶対に来るわね…。」
「まぁ、試験の時も隣にアランさん来たぐらいだし…。来るな…。」
 せっかくの夏祭りなのに…。想像したくないな…。

「そ、そういえばさ!夏祭りって何があるのかな?」話題を少しでも変えるべく、僕もパンフレットを手に取る。
「う~ん、そうだな…。いつもだったら、屋台がたくさん出てて、山が割と近いから山菜使った料理食べれたりするかな。他は…夜でも結構暑いから果物をキンキンに冷やしたものとか氷を砕いてシロップかけたものとかもおいしいし…う~ん結構食べ物がメインって感じかな。あ、あとは中央の広場では音楽に合わせて踊ったり、終わりのほうにはお菓子配られたりするよ。」
 聞いているだけでおなかがすいてくる…。
「音楽に合わせて踊るの楽しそうだな。」
「うん、すごく楽しいよ。皆テンション上がってて、とにかく笑いが絶えないし、なんていうのかな…謎の一体感?みたいなのあるんだよね…。」
 そういって僕たちにパンフレットを見せてくれる。詳しい説明の隣に、みんながノリノリで踊っているイラストが描かれてあった。

 楽しそうだな…。
 このイラストみたいにノリノリで踊っている僕たちを想像していると、不意にソーン君が誰かに連れていかれそうになっている映像が頭に流れ込む…。まただ…。『気のせい。気のせいだ。』と何度も自分に言い聞かせて、どうにかその映像を頭から追い出す。


「次は…闘技会かしらね…。」何個かのパンフレットを流し見していたリーンが言う。
「あれ、闘技会ってもっと後のイメージだったけど、違うっけ?」ソーン君が闘技会のチラシを見ながら言う。
「なんかね。王都の夏祭りが盛大に行われるから、その準備でいろいろ前倒しになっているんだって。」
「あ、ほんとだ。」ソーン君と一緒にチラシを見ていたシンが呟く。

「闘技会って誰が出るのかな?」
「噂ではあるんだけど、カルロ殿下とメルロス殿下。あとはロストさんとアランさんの出場は固いんじゃないかしら…。」
「まぁ、だろうな。って感じはするけどな。」別のパンフレットをあさりながら言うシン。
「え、リュークさんって出ないのかな?」
 無意識に言葉にしていたことに気づき、思わず手で口を押える。そーっと周りを見渡してみるけど、よかった、誰も気づいていないみたいだ。
「出ないんじゃないかな?あの人研究とかで色々忙しいみたいだし。」
「そっか…。」
「でも、誰が優勝するんだろうな?無難にロストさん?そもそもの経験値が違うし。」
「それはちょっと安直すぎない?アランさんも純粋な強さで言ったら負けてないと思うし。」
「そうね、カルロ殿下も、筋肉で全部解決しちゃうロストさんと違って強い上に頭脳派で常に冷静だし。意外と読めないわよ…。」
 あ、そっか今まで出場する側でしか考えてなかったけど、本当に強い人同士の戦いが見れるのか…。不安ばっかりだったけど、ちょっと楽しみになってきたな…。

「それでそれで、最後は王都の夏祭りかしらね…。」そう言ってリーンがパンフレットの山から一番分厚いものを引き出す。
「とにかく、今年は規模が大きそうだよね。だってほら、ここ見て『開催期間は3週間に及び、最終日には特大の花火が用意されています。暑い夏を締めくくるのにはピッタリ!』だって。」分厚いパンフレットに書かれた文字を指で追いながら言うソーン君。
「えーなになに…。食べ物は全国各地から取り寄せたもので、オリジナルの料理も多数出品。これ見ろよ。すげーおいしいそうじゃね?」
「たしか、その期間中世界中からいろんな偉い人が来て、結構警備とかも厳重らしいよ。」
「へ~アル、よく知ってるわね。」
「うん。なんかそんなことをお父さんが言ってた気がするんだよね…。ただでさえ大変なのに、って。」
「いずれにしよ、人が多そうだし、大変そうよね…。でも、この最終日の花火は外せないわよね…。」花火、と聞いて何かが引っかかったけど、気のせいかな…。
「そうだね。花火ってめったに見る機会が無いし、夏祭り盛大に行われるんでしょ?だったらきっと花火もかなり忘れられないものになると思うし、行こうよ!」ソーン君のその言葉を受けて、リーンは紙の最後のほうに『王都の夏祭り』と書き加える。

「そういえばさ、さっきからずっと疑問に思っていたんだけど、なんで同じことを二枚書いてるの?」僕はさっきから抱いていた疑問をリーンに素直に聞いてみた。
「あぁ、これ?こっちは保存用でこっちは提出用。」
「提出って、誰に?」
「それは、もちろんアルのお父さんお母さんによ。夏休みの詳しい予定が決まったら教えてね、って言われてるからね。こっちは私が確認するための保存用。」
「それ、僕の両親に渡すの…?」
「もちろん。いつもそうしてるわよ。何かが起きてもいいようにね。」
 これは、ちょっと心配症が過ぎるぞ…お父さんとお母さん……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

目の前の魔法陣と男に巻き込まれて

葵桜
BL
※厨二病時の厨二病による厨二病異世界BL王道?ファンタジー さっきから根暗くん根暗くんって何なんだ。 名前くらい覚えろやぁ! ってなんで壁ドンされてんのかなぁ...? あ、なんか君の後ろに魔法陣が見えるな!ハハハ! 勇者ぽい自己中顔面アイドル君に巻き込まれなんか異世界転移をとげるらしい。 どうか恋人ができますように。 いや、無双ができますように? 年に数回ぼちぼちとリメイクしています。 終わったあと興味があればぜひもう一度読んでください。 完結は…。できないかもしれないです。気長にお待ちください。申し訳ございません。

平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!

彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。 何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!? 俺どうなっちゃうの~~ッ?! イケメンヤンキー×平凡

お迎えから世界は変わった

不知火
BL
「お迎えに上がりました」 その一言から180度変わった僕の世界。 こんなに幸せでいいのだろうか ※誤字脱字等あると思いますがその時は指摘をお願い致します🙇‍♂️ タグでこれぴったりだよ!ってのがあったら教えて頂きたいです!

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

総長の彼氏が俺にだけ優しい

桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、 関東で最強の暴走族の総長。 みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。 そんな日常を描いた話である。

処理中です...