君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 いよいよ夏休みが始まった。人生で初めての長期の休みに、あれをしようかなこれをしようかなとワクワクしている。どうやら、家に来たシンやリーン、ソーン君も同じみたいで、全身から楽しみにしていたことがわかる。テオ君は家の手伝いがあるからって来れなかったけど、きっと僕たちみたいに楽しみにしていたに違いない。

 今日はとりあえずその浮足立った気持ちを沈ませるべく、夏休みみんなで何をして遊ぶか予定を立てている。テーブルを囲み、真ん中にはお母さんが作ってくれたお菓子、その周りには一枚の白紙と夏祭りや闘技会などのたくさんのパンフレットが積みあがっている。想像するだけで胸が躍る。

「さて、夏休みの予定を立てていくわけなんだけれども、まずはアルのなんちゃらテストみたいなやつね。あれっていつだっけ?」そう言いながら、リーンが目の前の二枚の白紙に『アル:テスト』と書き込んでいく。なんで違う紙に同じこと書いてるんだろう…。
「測定テストね。えっとね…たしか来週の頭だね。」改めて口にすると緊張してきたな…。
「あ、僕の地元の祭りもそれくらいにあるよ。」ソーン君がパンフレットの山から一つ抜き出し、ぱらぱらとめくる。
「だったら、一旦測定テストお疲れっていうので夏祭り行くのは?」
「いいわね、それ。」先ほどと同様に紙に書いていくリーン。

「アルのお父さんとお母さんも夏祭り来るのかな?」
「今の感じで行くと絶対に来るわね…。」
「まぁ、試験の時も隣にアランさん来たぐらいだし…。来るな…。」
 せっかくの夏祭りなのに…。想像したくないな…。

「そ、そういえばさ!夏祭りって何があるのかな?」話題を少しでも変えるべく、僕もパンフレットを手に取る。
「う~ん、そうだな…。いつもだったら、屋台がたくさん出てて、山が割と近いから山菜使った料理食べれたりするかな。他は…夜でも結構暑いから果物をキンキンに冷やしたものとか氷を砕いてシロップかけたものとかもおいしいし…う~ん結構食べ物がメインって感じかな。あ、あとは中央の広場では音楽に合わせて踊ったり、終わりのほうにはお菓子配られたりするよ。」
 聞いているだけでおなかがすいてくる…。
「音楽に合わせて踊るの楽しそうだな。」
「うん、すごく楽しいよ。皆テンション上がってて、とにかく笑いが絶えないし、なんていうのかな…謎の一体感?みたいなのあるんだよね…。」
 そういって僕たちにパンフレットを見せてくれる。詳しい説明の隣に、みんながノリノリで踊っているイラストが描かれてあった。

 楽しそうだな…。
 このイラストみたいにノリノリで踊っている僕たちを想像していると、不意にソーン君が誰かに連れていかれそうになっている映像が頭に流れ込む…。まただ…。『気のせい。気のせいだ。』と何度も自分に言い聞かせて、どうにかその映像を頭から追い出す。


「次は…闘技会かしらね…。」何個かのパンフレットを流し見していたリーンが言う。
「あれ、闘技会ってもっと後のイメージだったけど、違うっけ?」ソーン君が闘技会のチラシを見ながら言う。
「なんかね。王都の夏祭りが盛大に行われるから、その準備でいろいろ前倒しになっているんだって。」
「あ、ほんとだ。」ソーン君と一緒にチラシを見ていたシンが呟く。

「闘技会って誰が出るのかな?」
「噂ではあるんだけど、カルロ殿下とメルロス殿下。あとはロストさんとアランさんの出場は固いんじゃないかしら…。」
「まぁ、だろうな。って感じはするけどな。」別のパンフレットをあさりながら言うシン。
「え、リュークさんって出ないのかな?」
 無意識に言葉にしていたことに気づき、思わず手で口を押える。そーっと周りを見渡してみるけど、よかった、誰も気づいていないみたいだ。
「出ないんじゃないかな?あの人研究とかで色々忙しいみたいだし。」
「そっか…。」
「でも、誰が優勝するんだろうな?無難にロストさん?そもそもの経験値が違うし。」
「それはちょっと安直すぎない?アランさんも純粋な強さで言ったら負けてないと思うし。」
「そうね、カルロ殿下も、筋肉で全部解決しちゃうロストさんと違って強い上に頭脳派で常に冷静だし。意外と読めないわよ…。」
 あ、そっか今まで出場する側でしか考えてなかったけど、本当に強い人同士の戦いが見れるのか…。不安ばっかりだったけど、ちょっと楽しみになってきたな…。

「それでそれで、最後は王都の夏祭りかしらね…。」そう言ってリーンがパンフレットの山から一番分厚いものを引き出す。
「とにかく、今年は規模が大きそうだよね。だってほら、ここ見て『開催期間は3週間に及び、最終日には特大の花火が用意されています。暑い夏を締めくくるのにはピッタリ!』だって。」分厚いパンフレットに書かれた文字を指で追いながら言うソーン君。
「えーなになに…。食べ物は全国各地から取り寄せたもので、オリジナルの料理も多数出品。これ見ろよ。すげーおいしいそうじゃね?」
「たしか、その期間中世界中からいろんな偉い人が来て、結構警備とかも厳重らしいよ。」
「へ~アル、よく知ってるわね。」
「うん。なんかそんなことをお父さんが言ってた気がするんだよね…。ただでさえ大変なのに、って。」
「いずれにしよ、人が多そうだし、大変そうよね…。でも、この最終日の花火は外せないわよね…。」花火、と聞いて何かが引っかかったけど、気のせいかな…。
「そうだね。花火ってめったに見る機会が無いし、夏祭り盛大に行われるんでしょ?だったらきっと花火もかなり忘れられないものになると思うし、行こうよ!」ソーン君のその言葉を受けて、リーンは紙の最後のほうに『王都の夏祭り』と書き加える。

「そういえばさ、さっきからずっと疑問に思っていたんだけど、なんで同じことを二枚書いてるの?」僕はさっきから抱いていた疑問をリーンに素直に聞いてみた。
「あぁ、これ?こっちは保存用でこっちは提出用。」
「提出って、誰に?」
「それは、もちろんアルのお父さんお母さんによ。夏休みの詳しい予定が決まったら教えてね、って言われてるからね。こっちは私が確認するための保存用。」
「それ、僕の両親に渡すの…?」
「もちろん。いつもそうしてるわよ。何かが起きてもいいようにね。」
 これは、ちょっと心配症が過ぎるぞ…お父さんとお母さん……。
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