君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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「ふむふむ今回も熱が出たり手が震えたり気絶したりはしなかったんだね。」
「はい、体調も良かったですし。特に異変とかはなかったです。」

 満月の次の日ということもあり、今日は一応医務室に来ている。

「う~ん、それはそれでいいことなんだけどね…ちょっと心配なんだよね~。」
「心配、ですか?」
「ほら、入学したてのころはそれこそ気絶しちゃったり倒れちゃったりしてたでしょ?でも急にそういうのが無くなって、満月の日でもいつもと同じように過ごせるようになったから、少し不安なんだよね~。ちょっと突然すぎて何か要因とかあるんじゃないかな~って思ってるんだけど、心当たりとかないかな?」
「それ、兄にも聞かれた気がするんですけ、本当に心当たりないんですよね。」
「本当?誰かの魔術受けたりとか、道に落ちてた変なもの食べたりとかない?」
「...ないと思います。」
 誰かから呪いの効果が軽くなるような魔術を受けた覚えもないし、そんな風な食べ物も食べた覚えがない。ていうか僕、エドガー先生から道に落ちてるもの食べる子って思われてるんだろうか…。

「そっか~。まぁ、こればっかりははっきりした原因も分からなし、途中経過を見るしかないかな…。」う~ん、と言いながらエドガー先生がカルテに何かを書いている。






「そういえば、今日ってシャーマール先生いないんですね。」
「あ~最近研究で忙しいみたいでね。ずっと引きこもってるよ。………...あとさ、一個聞いてもいいかな?フォルスト、シャーマールのことずっと『シャーマール先生』って呼んでるでしょ?あれってもしかしてアラン君の影響?」
「あ、たぶん、そうですね…。お兄ちゃんがずっとシャーマール先生って呼んでたからてっきりそうなんだと思ってて。なんだかフォルスト先生だと違和感あるんですよね…。」
「だと思った!!だって、僕のことはルーク先生じゃなくて、エドガー先生って呼ぶのに、フォルストのことをシャーマール先生って呼んでるからもしかしたらそうなのかな?って。」
 あはは~と快活に笑うエドガー先生。
 そっか...お兄ちゃんがずっとそう呼んでるからそういうものかと特に気にしてなかったけど、今考えたら結構失礼だったかな…。

「君のお兄ちゃんが何でシャーマール先生って呼んでたか分かる?」
「え、何でですか?」
「あれね、一時あの人がお兄ちゃんにファーストネームで呼ぶことを強要してたからなんだよ。それまでアラン君もフォルスト先生って呼んでたけど、フォルストが急に『シャーマールだ。』ってあまりにもしつこく訂正するもんだからいつの間にか『シャーマール先生』になったんだよ。なんでも仲良くなりたいからファーストネームで呼び合おうとしていたらしいんだけど、絶対逆効果だったよね!アラン君最初のほう名前呼ぶたびに顔ひきつってたし!何よりもファーストネーム呼べば仲良くなるって考えるの安直すぎだよね~。あはは。」
 その言葉を聞いて少しドキッとする。だって僕もファーストネームを呼ぶことで親近感が出ると思ってるから…。あれって、もしかして逆効果だったの…?

「その感じ、もしかして君もそう思ってたのかな?かわいいね~。あ、でもフォルストのことはこれからも『シャーマール先生』って呼んであげてね。彼いまだにその呼び方結構嬉しいらしいから。いつも君の診察が終わった後とかうきうきで帰ってるよ。」とにやにやしながら言うエドガー先生。
 そっか、シャーマール先生、診察の時すごい真剣な顔してるけど、あの感じで帰る時うきうきしてるのか…。
 




「先生って、シャーマール先生とずっと仲がいいんですか?」
「そうだね~もう20年とかになるのかな?そもそも家が隣同士で小さい頃はずっと一緒にいたんだよね。今もそれがずるずる続いてる感じかな?でも特に仲がいいって感じはしないんだよね~。ほんとに腐れ縁って感じで。」
「え~そうなんですね。小さい頃のシャーマール先生ってどんな感じだったんですか?」
「性格で言ったら今と変わらないかな?すごく好奇心旺盛で一度気になったら最後まで追求するところとか。人見知りのくせに感情がすぐに顔に出るところとか。あとはね~、お兄ちゃんのことがすごく大好き。」
「え、お兄ちゃんって…?」
「あぁ!もちろんリカードのことだよ!安心して。君のお兄ちゃんじゃないよ。」
 一瞬僕のお兄ちゃんのことかと思ってびっくりしちゃった。
「でも、わかる気がします。この間先生がリカードさんの話をしてたんですけど、その時の表情が好きでたまらないんだろうな~って感じだったんで。」
「あそこはね、お互いにすごいブラコンなんだよね。リカードも普段は完璧人間で好青年って感じなんだけど、シャーマールが絡むと、もーだめだね。シャーマールのことしか見えなくなっちゃう。」
「へぇ~、そうなんですね…。」前のシャーマール先生の話に続き、意外だな...。
「それこそ君のお兄ちゃんといい勝負くらいなんじゃないかな?とにかくすごいブラコンでちょっと過保護気味なんだよね~。」
 そういってエドガー先生は背もたれにもたれかかる。その目はどこか遠くを見ているような気がした。


「…もしかして、ちょっとうらやましかったりしてますか?」僕は特に深く考えずそんな質問をしていた。エドガー先生は少し驚いたような顔をしていたけどすぐにいつもの笑顔に戻っていた。
「…うらやましくないって言ったら嘘になっちゃうね。…ほら、僕ずっと一人っ子だったし。兄弟自体に憧れはあるかな?」

 ………なんとなく、そう感じる理由は他にもあるような気がしたけれど、あえて深く追及することはしなかった。







 


 医務室を出てから、兄と一緒に部屋に戻る。次の日の試験のための勉強を十分にし、少し早いけれど寝る準備を始める。満月の日が過ぎたとはいえ、月が出ている手前気が抜けない。しっかりカーテンが締まっていることを確認し、ベットに入る。


 まどろみの中、部屋のカーテンが揺れた。…ような気がした。

 お兄ちゃんが来たのかな…?


 夢と現の中で誰かに頭を撫でられる。





 …あ、この手は………。

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