君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 ちょ、ちょ、ちょっと待って!!ここ…どこ!?

 後ろを振り向くとくぐってきたはずの扉はもうどこにもなかった。
 とても大きな屋敷みたいなんだけど…なんでかあちこちに火が広がっていてそれどころじゃない。遠くではドーンとかわー!とか大きな音がしてちょっと、いやだいぶ怖い。
 とりあえず外の景色を見てどこにいるのかを把握しようと窓を見る。




 え…?外もすごい火事なんだけど…。あれ?というか…なんか、いっぱい人が倒れてる…?あの人、背中に矢が刺さってる…?剣が胸元を貫通して…?

 え、これって…?


 思わず後ずさりをしてしまう。



 に、逃げないと…。ここから出ていかないと!!…で、でもどこに…。まずい…全然わからない!!出口に行けばいいのか…?いや、人がいたら…?ていうか、どこに行けばここから出られるの!?こっち…?いや、あっちか…?ど、どうしよ…。


『…か……。』

 え、今声が…。気のせい...?

『……だれか…。』

 やっぱり声してる!!

『たすけ…。』

 な、え!?誰!?どこから声してる?

『だれか…。』

 こっち!こっちだ!!こっちからしてる!!助けなきゃ!



 時折頭の中でこだまする声を頼りにひたすら走る。顔も知らない、正体も分からない相手なのにとにかく「助けなきゃ」という気持ちだけが先行する。長い廊下を走り抜け、ひたすら階段を下る。重い扉を開け石畳の部屋に出る。光がほとんど入らないジメジメした場所だった。鎖があちこちに置かれ、鉄格子で部屋が区切られている。

 …ここ、地下牢だ…。


「だれ。」

 今度ははっきりと耳に声が聞こえる。見渡してみると奥のほうに人影を見つけた。

 恐る恐る近づいてみる。その人影がわずかに動き、長い髪の隙間から白い肌が見える。もう少し近づいてみると、うつむいている顔がはっきり見えるようになる。その人がおもむろに顔を上げる。


 …この人…。









 …。


 ……。

 
 ……夢見てたな…。相変わらずどんな内容だったか覚えてないけど…。なんだか、疲れたな。


 背伸びをしようとしたとき部屋の扉がノックされた。
「アル、いるか?」
「あ、お兄ちゃん。今日はもう来ないのかと思った。どうしたの?」
「いや、カルロ殿下が急に来られてその対応をしてたからなかなか部屋に行けなかった。すまない…。」
「ううん!全然大丈夫。」

 そうか、カルロ殿下が来ていたのか。だから、少し外がバタついていたのかも…。

「勉強してたのか?」
「うん。試験あるからね。ほら、歴史学。」
「コシュート国との戦争か…。なにか分からないところはないか?」
「うーん…。今のところはないかな?」
「そう、それならよかった。あ、これカルロ殿下から。これから迷惑かかるだろうからって。」お兄ちゃんから木の籠を受け取った。
「なにこれ…?……こ、これって!!まさか!王室御用達の洋菓子店の一日五食限定の幻のプリン!?」を、しかも二個も!?
「俺はプリンは苦手だからアルが食べてくれ。」
「これ、全部もらっていいの!?」


 プリンのことで頭がいっぱいになり、夢で何を見たかなんてどうでもよくなっていた。
 
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