君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 本格的な夏が始まりはや二週間。夏休み前の試験が始まり、教科書を片手に校内を移動している人をよく見かけるようになった。

 今回の試験はソーン君やテオ君のおかげでかなり手応えを感じているし、リーンの過去問のおかげか試験の問題も見たことあるようなものばかりだった。

 今日は試験の中間日、満月ということもあって一応家に帰っている。けど本当に一応。だって、前回に続き体調はすこぶるいいんだもん。
 試験期間が始まる前、「やっぱり試験をずらせないか」と、両親やお兄ちゃんに言われたけれど、僕一人のせいで全員の試験の返却とか成績開示が遅れるのは申し訳ないから「僕だけ特別扱いはヤダ!!」とこれでもかってくらい大泣きをして無しにしてもらった。ただ、その代わり一日中何か行動するにつけて誰かが絶対いるようになったし、試験中だって学年が違うはずのお兄ちゃんが隣の席で自分の試験を受けていて、教室の後ろにはエドガー先生が必ずいる。これはこれで悪目立ちしてるな…。


 今日だって本当は誰かが部屋に必ずいるはずだったけれど……朝「部屋で”おとなしく”勉強しててね。」とくぎを刺されて以来誰もこない…。へんなの。まぁ、一応試験中ではあるし、くぎを刺された以上は部屋でおとなしくしておこうか…。


 そう考えながら机の上に開かれた教科書とノートを見る。今回の試験範囲はコシュート国との戦争についてだった。この戦争で大おばあ様は大活躍をし、リューシェハント王国を勝利に導いた。だから教科書に「ルーナ=シューベルト」と大きく名前が書かれてある。ちょっと、いやかなり誇らしい。
 
 




 
 コシュート国と我が国リューシェハント王国は、お互いに独自の魔術が大きく発展していたことからもともとそれなりの国交を持っていた。けど、ある真夜中、コシュート国の軍が急に国境を越えたことをきっかけに大規模な戦争が始まった。不意を突かれた形での侵攻だったが、大おばあ様率いる騎士団はそれをものともせず制圧をしていき、当時のコシュート国王の首を取る寸前までいった。しかし、大おばあ様は首を取ることをせずコシュート国に再興の機会を与えたとされている。人々はこれを女神たる所以だと考えている。まぁざっとした流れはこんな感じかな?



 この急な侵攻にも関わらず制圧をすることができたのはとあるコシュート人のおかげだという話をおじい様から聞いたことがある。そういうことを聞いたためか、この戦争について強い違和感を覚えている。頭のどこかで、あれこんな感じだったっけ?みたいな疑問がいつも思い浮かぶ。歴史的な事実としていろいろな書物に書かれているし、そもそもその時代を生きていないから実際に何があったかなんて知りえないのに違和感を感じる。きっと、話で聞いていたコシュート人と教科書や本で書かれているコシュート人とでは人物像が乖離しているからなんだと思う。多分。


 コシュート人みんながみんな悪い人たちって言うわけでなく、良い人たちもたくさんいるんだと思う。だからこそ昔は交流が盛んだったし、魔術も教えて教わってを繰り返してきた。確かに戦争っていうのは1度でそれらを蔑ろにして、今までの関係もぶち壊してしまう行為だけど、それでもずっと壊されたままっていうのも違う気がする。もっと、こう......うーん...みんなで仲良くできないのかなぁ......?













————————————————————————・・・





 あれ、いつの間にか寝ちゃってたみたい...。





 気がつくと、またあの白い空間に立っていた。目の前にはもちろん、しかめっ面で腕を組んでいるあの子が立っていた。




「……なんだか会うのすごく久しぶりな気がする…。」
「………気のせいだ。」
「そう、なのかな…。」
「…そういえばお前はコシュートの人間が好きなのか?」
「ん…?なんで?」
「コシュートの人間は卑劣な奴らばかりなんだぞ?」
「でも、きっと優しい人たちもいるよ?」
「でもそれは根拠の無いことだろう?何を考えているか分からないし、1度裏切った人間なんだぞ!?」
「それでも、信じてあげることも必要だと、思う...よ?」
「............お前みたいな考えが出てれば違ったのかもな...。」
「え、どういうこと...?」


 
 僕の質問を聞かずどこかに行ってしまう。その背中はどこか寂しそうだった。僕は慌てて追いかける。目の前に見たことのない扉が現れた。

「この扉は?」
「お前の違和感を解決してくれるはずだ。」
「なんか前見た扉とは違うんだね。」
「そりゃあな。今日行くところは別のところだから…。」
「別の、ところ…?どこ?」
「とりあえず扉を開けてみろ。」

 そういわれて素直に目の前の扉を開けてみる。



「ちょ、ちょっとまって!!ここはどこ!?」
「行ってみればわかる。」
「いや、ちょっと行きたくない...。」
「真実を知ることも必要だ...。」そのまま背中を強く押されて扉の向こうへと行ってしまう。

 その瞬間目の前が火に包まれる。
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