君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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「おい!アル!!大丈夫か!?」
「ん…あれ、お兄ちゃん…?」お兄ちゃんが焦った顔をしてこちらを見ている。時計を見ると、まだ真夜中になったばかりだった。
「大丈夫か、うなされていたぞ?悪い夢でも見たか?」

 正直、どんな夢を見ていたのか覚えていないけど、うなされていたのだからきっと悪夢を見ていたのだろう…。それに、戻ってこれたっていうあの安心感をまた感じている。一体、僕は夢の中でどこに行っていたのだろう…?

「熱は?なさそうだし…。手が震えているわけでもない…。顔色は少し悪いけど、それ以外おかしなところはない…。気分悪くなったりは?」お兄ちゃんが僕の額や手を触り、顔をのぞき込んだりしてどこか異変がないかを見る。
「大丈夫、元気だよ。」
「本当か?」そう言って今度は体のいたるところを触ろうとしたので慌てて止めた。
「本当に大丈夫だって!!ちょっと変な夢見てただけで…。」
「変な夢ってどんな?」
「それは…えっと…。」覚えていないんだよな…。でも変な夢を見たって言った手前、どう言い訳をしようか…。夢の内容をでっちあげる?
「あ、やっぱり言わなくていい。悪い夢は思い出さないに限る。」
 言いあぐねていたのをあまり思い出したくないからだと勘違いしてくれたのかそれ以上深くは追及してこなかった。

「アル、眠れそうか?眠れそうになかったら手を握るぞ?」
 悪夢を見た僕を心配してくれているのかな…。せっかくだから甘えることにした。










 朝、満月の日特有の気怠さは感じられず、体調も良好だった。昨日の夢以外は比較的落ち着いた満月の日だったんじゃないかな。


 せっかく元気なんだし、何か体を動かしたいな…。散歩でもしてみようかな。そういえば、お兄ちゃんが今日は武術の練習するって言いてたから、庭のほうに行ってみようかな。ついでに僕も弓の練習しよ。

 

 部屋の近くにいたメイドのサリーに庭に行くことを伝え部屋を出る。

 

 庭への近道である気が生い茂った場所を通ろうとしたとき、誰かに腕をつかまれ、中へと引っ張られた。そのまま目を手で覆われ、視界が真っ暗になる。頭に誘拐の二文字がよぎり、一気に不安になる。




「だ、誰ですか…。僕に何か用ですか…?」
「安心しろ、俺だ。」
「え!?リュ、リュークさん!?が、こんなところで何をしてるんですか!?」リュークさんの低い声を聞いて、一気に緊張が解ける。
「少しお兄さんの方に用があってな。」
「あ、そうなんですね…。兄に、用事が…。ところでなんで僕は目を覆われているんでしょう…?」
「気絶するかもしれない。」
「なるほど…。でも、この間は目を合わせても気絶しなかったじゃないですか、だから大丈夫なんじゃ…?」
「満月の直後だからな、一応。それより体調はどうだ?」
「まんげつ…あ、体調ですか?それが今回はすこぶる元気なんです。熱とか手のしびれとか無いし、前回ひどかった分今回は軽かったみたいです。」
「そう、みたいだな。今回は異変がないようでよかった。」
「…あの、そろそろ手を外していただけませんか…?気絶を心配してるのであれば、僕ほかのとこ見て話すので…。」

 目を覆われている分いつもより距離が近く、さらに視界が遮られていることで他の感覚が研ぎ澄まされてしまい、その、なんだか変な気持ちになってしまう。だから少しでも距離を取ろうと提案してみる。



「ん?あぁ…。分かった。そうしてくれると助かる。」ずっと耳元で話しかけられていたからか、耳がぽわぽわする…。






「そういえば、あの本すごくよかったです。物語も面白かったし、登場人物も本当にいた人がモデルになっているから、この人のモデルはあの人かな?とか考えながら読むのも楽しかったです!」
「そうか。面白かったのならよかった。」
「あ、でも一つ気になることがあって、あの本に出てくるお姫様って誰が基になっているんでしょうか?」
「…それは、だな…。」
「大おじい様かな?って思ったんですけど、どうも違う気がして。他の誰かかな?って思って家系図とか調べてみたんですけど、少なくとも僕の親戚には瞳が黒い人っていないんですよね。一体誰なんだろう…。」
「…作者が考えた空想上の人物なんじゃないのか?物語をもっと魅力のあるものにするために考えた人物とか…。」
「確かにそうかもしれませんね。あるいは、全部そっくりそのまま書くのはちょっと気が引けたから主人公の相手は空想の人物を、とか?」
「それもあるかもしれないな。とにかく俺はあの姫は作者の完全なオリジナルの人物だと思っている。」
「僕もそんな気がします。」

 え~と、他になにか話題はないかな、と考えていた時どこからか僕の名前を呼ぶ声がした。


「呼ばれてるぞ。」
「みたいですね…。行かなきゃ。」もっと話したかったのにな…。
「じゃあな、またあそこで会おう。」そう言って前みたいに頭を触られる。気づいた時にはリュークさんはいなくなっていた。









「アル、そんなところにいたのか!サリーが庭に行ったはずだと言っていたのになかなか来ないから心配したぞ。ん、どうした?アル、顔赤くないか?」
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