君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 殿下に引っ張られ、というか引き摺られて着いた場所は学園の体育館。いつもなら生徒で賑わうはずだけど、今日は誰もおらずとても静かだ。


「どうして、体育館に?」
「武術の練習に決まってるだろ?」
 しまった…しばらくなかったから油断してた…。
「お前が倒れたり、試験があってなかなかできなかっただろ?だから試験終わって一番暇そうな今日、練習するんだ。あ、ほらあそこにいるのが今日のゲスト。」

 メルロス殿下が指をさした先には騎士団長の息子、ロストさんが立っていた。

「ロストさん!?がどうしてここに?」
「だーかーらー、ゲストとして俺が呼んだんだって。今回だけ特別だぞ。」感謝しろよ?と言わんばかりの笑みを浮かべる殿下。うぅ、なんだかお腹痛くなってきた…。



 目の前には相変わらず表情一つ変えないロストさん。と、とりあえずこの間のお礼言っとこ…。
「ロストさん!お久しぶりです。あの、新入生歓迎会の時はお世話になりました。倒れた僕を医務室まで運んでくれたみたいで…。」
「いえ、回復したようでなによりです。」
「ん?なんでこいつにお礼を言うんだ?俺もあの時見てたけど、お前を運んだのこいつじゃ…もごご。」ロストさんがメルロス殿下の口をふさいだせいで、殿下の声が途中でくぐもってしまう。
「お前!俺に向かって何をしてる!不敬だぞ!!」そう言ってメルロス殿下がロストさんの腕の中で暴れるけど、ロストさんが殿下の耳元で何かを話すと
「なんだそういうことか。」と急におとなしくなってしまった。


 入念に準備体操をして、いよいよ練習に入る。
「今日って何するんですか?」
「見ての通り剣術だ。ロストは俺の剣術の師匠だからな~。実力は俺が保証する。」
「剣術って…「わ!!」ロストさんに急に背後から話しかけられ思わず声が出てしまった...。
「すみません。驚かせるつもりは…。」一連の流れを見ていたメルロス殿下は隣で大笑いをしている。
「い、いえ!!大丈夫です!それで剣術が何か?」
「剣術ってやったことは?」
「本格的にはやったことないです。練習用の軽い木刀でなら何度か…。」
「それではこれを使いましょう。」差し出されたのは、体育館にあった木刀だった。
「とりあえず俺の動きを真似してみてください。最初は簡単な動きから…。」そう言われ早速練習が始まった。










「つ、疲れたー!!」
 ようやく休憩をもらい、へとへとだった僕はその場に倒れこむ。
「はい水。」
「あ、ありがとうございます。」殿下から受け取った水を一気に飲み干す。
「お前もうちょっと体力つけたら?」
「体力には自信があったんですけどね…。でもさすがにこれだけ動いたらきっとロストさんも疲れてるはずですよ。」
「本当か~?あれを見てみろよ。」

 殿下の視線の先には休憩にも関わらず、一定のリズムで素振りをしているロストさんがいた。

「え、まだ動いてる…。疲れてないの…!?」
「すごいだろ。ロスト今年の闘技会の注目株なんだ。」
「とうぎかい...?」
「夏の休み明けにある大会だよ。魔術とか剣術使って一番強いやつ決めるんだよ。知らない?」
「聞いたことあるような、ないような…。」
「去年はロストが騎士団の遠征でいなかったけど、今年は出るんだって。騎士団長の息子でなおかつ本人も騎士団に所属してるから何かしらのハンデはあるだろうけど、まぁまず負けないだろうな~。」
「それはすごいですね…。」
「お前、闘技会出ないの?申し込みの期限までまだあるし、もし出るんだったら追加で特訓つけてあげるけど?」
「あ~いや、大丈夫です。まだまだ実力不足ですし…。」
「そうか?俺が特訓すればお前でもいけると思うけど?」
「本当に!!大丈夫なんで!」
 これ以上殿下と特訓なんてしてたら、僕の体とメンタルが持たないし、そもそも魔術が許容されている時点で僕の勝ち目はほとんどない。でも、闘技会か…。ちょっと興味あるな…。





「そういえば、」さっきとは打って変わって真面目な顔をして殿下が話始める。
「ロストじゃないんだ。」
「え、何がですか?」
「新入生歓迎会の時お前を運んだの。」
「...え、どういうことですか?みんなロストさんが運んだって…。」
「ロストじゃない。リュークだったぞ。」

 そう言われた時「まさか。」と思ったけど、同時に心のどこかで納得していた。

「え、リュークさんが…?」
「あぁ、その様子じゃ本当にみんなからロストだって言われてたんだな…。さっきロストから言われた時は黙ってたけど、一人だけのけものとかお前そういうの嫌だろ?」
「なんでみんな僕に嘘を?」
「それは分らんが、お前の兄貴が話を合わせたのは確かだ。あれ、じゃあこれ言ってよかったのか…?」




 お兄ちゃんが…?じゃあ、もしかしてあの時家でお兄ちゃんの様子がおかしかったのはこれが原因…?
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