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幕開け
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久しぶりの学園は少し緊張した。
僕が新入生歓迎会で倒れたという話は予想以上に広まっていて、僕たちが廊下を歩いているだけで好奇な目とひそひそ声がついてくる。
それは、教室に入っても続いている。もう慣れっこだといいたいところだけど、どうしても心地悪く感じてしまう。けれど、ちょっとだけいつもと違うところがあった。それは一緒の班だった子たちが話しかけてくれたことだった。「体調はどう?」とか「授業でわからないことがあったら何でも聞いてね。」とか他愛のない話だったけれど、僕にはそれで十分だった。いつの間にか周りの視線なんて気にならなくなっていた。
そして今、学園復帰の条件である健康観察の報告をするためシャーマール先生の研究室に来ている。なぜか、部屋にはぶつぶつ何かを言いながら片づけをしているエドガー先生もいた。こうしてみるとエドガー先生、シャーマール先生のお母さんみたいだ。
「体温はいつも通り、体調もよさそうだな。」
「そうだね、魔力の波も安定している。あれ、もしかして魔力量ちょっと増えた?」片づけを一時中断したエドガー先生がそう言った。
「え、増えてますか?」
「うん、若干ね。体調がいいからかな~。」魔力量が増えているのは単純にうれしいけれど、ほぼ皆無に等しいものが若干増えたくらいじゃあ、大した変化ないんだろうな…。
一通りの報告が終わり、それをまとめて僕の家へ報告するためにエドガー先生は医務室へと戻った。
「そういえば、実験の”親睦を深める”ってどの程度深めればいいんですか?」僕は前から少し気になっていたことを、エドガー先生に半ば脅されて部屋の片づけをしているシャーマール先生に聞いた。
「それはだな、前に言った通り弟君が俺に心を開いてくれるまでだよ。」
「僕、先生に対して結構心開いているつもりですよ?小さいころから先生のこと知ってますし。」
「そうはいっても、弟君は俺に対して敬語で話しているじゃないか。先生と生徒という立場の手前上、どうしてもそこに壁ができてしまう。例えばそうだな…君は今、俺の膝で寝ろと言われたら熟睡することができるか?」
「それは、さすがにちょっと…。」ていうか絵面的にまずくないか…?
「だろ。まぁ膝で寝るっていうのは例えにすぎにない。要はそれくらい俺に対して警戒心がなくなれば読心術ができるんじゃないかってことだ。」
「は、はぁ。」
「まぁ、人の感情のことだ。俺もすぐにできるとは思ってない。気楽にいけばいい。」と重そうな箱を持ちながら言うけど、別の箱につまずいたのを僕は見逃さなかった。
僕も何か手伝おうかな…。
やっぱり一人でやるより二人のほうが早く済むよね。部屋もきれいに明るくなったし、お礼としておいしそうな紅茶まで入れてもらってるし、いいことしたかも!
「授業はどうだ。追いつきそうか?」紅茶の入ったカップを渡しながらシャーマール先生がいう。
「まぁ…なんとかって感じですね。」ソーンくんのノートのおかげで休んでいた分の復習は何とかりそうなんだけど予習が…。
「もうすぐ試験だし、今のうちに不明点や質問があったら聞いておくが、どうだ?」
そうだな…。今のところ授業を聞いていて分からないところはないし、なによりもソーンくんのノートが優秀すぎて完璧とまではいかないけれど、授業の内容は理解できている。
でも、そんなソーンくんのノートの中でも一つだけ気になっていることがある。
「それなら、共鳴について聞いてもいいですか?」
ソーンくんの中で一番といっていいほど強調されていた単語。どこかで聞いたことあるような単語だったけれど、教科書に説明はおろか、共鳴という字すら載っていなかった。
「共鳴についてか?そんな話授業でしたかな…。まぁ、いいか。」そう言い、シャーマール先生はいつものように歩き回りながら説明を始める。
「簡単に言えば魔術属性の相性だ。主に扱う魔術の属性が関係しているといわれている。俺でいう風だな。」僕はノートを出し、それらの言葉を書き足していく。
「属性の相性がよければ、お互いの魔術が反応しあい魔力量が爆発的に増えるだの、魔術だけでなく自身が番いのように反応するからどこにいるか分かるようになるだのなんだの言われているが、いかんせんデータがなさ過ぎてな。少なくとも俺はそんな人を見たことがない。俺含め共鳴について研究している奴は少なくないが、どういった属性同士で共鳴が起こるのか、氷と水のような似た属性か、火と水のような相反する属性か。魔力量はどのくらい増えるのか、共鳴が起こった人たち同士で増えるのかそれとも一方か。そもそも共鳴は二人でしか起こらないのか、三人以上でも起こるのかすら分かっていない。ただ、そういった描写のある昔の文献がこの国だけじゃなく、よその国でも見つかっているから、長い間研究対象とされているが…まぁ伝説扱いだな。共鳴なんて運命みたいだしはっきりと分かってないだろ、小説とかの題材になっていたりするから君もどっかで聞いたことあるんじゃないのか。」
なるほど、なかなかロマンのある話なんだな…。そういえば、小説じゃないけど、昔大おばあ様が共鳴をどうのこうのっていう話をおじいちゃんからこっそり聞いたことあったんだっけ?なんて言っていたか忘れちゃったけど…。
それにしても、なんでソーンくんこんな詳細のはっきりしてない話を強調してたのかな。もしかして、ソーンくんもロマン感じたのかな?やっぱりソーンくんも男の子なんだな~!
僕が新入生歓迎会で倒れたという話は予想以上に広まっていて、僕たちが廊下を歩いているだけで好奇な目とひそひそ声がついてくる。
それは、教室に入っても続いている。もう慣れっこだといいたいところだけど、どうしても心地悪く感じてしまう。けれど、ちょっとだけいつもと違うところがあった。それは一緒の班だった子たちが話しかけてくれたことだった。「体調はどう?」とか「授業でわからないことがあったら何でも聞いてね。」とか他愛のない話だったけれど、僕にはそれで十分だった。いつの間にか周りの視線なんて気にならなくなっていた。
そして今、学園復帰の条件である健康観察の報告をするためシャーマール先生の研究室に来ている。なぜか、部屋にはぶつぶつ何かを言いながら片づけをしているエドガー先生もいた。こうしてみるとエドガー先生、シャーマール先生のお母さんみたいだ。
「体温はいつも通り、体調もよさそうだな。」
「そうだね、魔力の波も安定している。あれ、もしかして魔力量ちょっと増えた?」片づけを一時中断したエドガー先生がそう言った。
「え、増えてますか?」
「うん、若干ね。体調がいいからかな~。」魔力量が増えているのは単純にうれしいけれど、ほぼ皆無に等しいものが若干増えたくらいじゃあ、大した変化ないんだろうな…。
一通りの報告が終わり、それをまとめて僕の家へ報告するためにエドガー先生は医務室へと戻った。
「そういえば、実験の”親睦を深める”ってどの程度深めればいいんですか?」僕は前から少し気になっていたことを、エドガー先生に半ば脅されて部屋の片づけをしているシャーマール先生に聞いた。
「それはだな、前に言った通り弟君が俺に心を開いてくれるまでだよ。」
「僕、先生に対して結構心開いているつもりですよ?小さいころから先生のこと知ってますし。」
「そうはいっても、弟君は俺に対して敬語で話しているじゃないか。先生と生徒という立場の手前上、どうしてもそこに壁ができてしまう。例えばそうだな…君は今、俺の膝で寝ろと言われたら熟睡することができるか?」
「それは、さすがにちょっと…。」ていうか絵面的にまずくないか…?
「だろ。まぁ膝で寝るっていうのは例えにすぎにない。要はそれくらい俺に対して警戒心がなくなれば読心術ができるんじゃないかってことだ。」
「は、はぁ。」
「まぁ、人の感情のことだ。俺もすぐにできるとは思ってない。気楽にいけばいい。」と重そうな箱を持ちながら言うけど、別の箱につまずいたのを僕は見逃さなかった。
僕も何か手伝おうかな…。
やっぱり一人でやるより二人のほうが早く済むよね。部屋もきれいに明るくなったし、お礼としておいしそうな紅茶まで入れてもらってるし、いいことしたかも!
「授業はどうだ。追いつきそうか?」紅茶の入ったカップを渡しながらシャーマール先生がいう。
「まぁ…なんとかって感じですね。」ソーンくんのノートのおかげで休んでいた分の復習は何とかりそうなんだけど予習が…。
「もうすぐ試験だし、今のうちに不明点や質問があったら聞いておくが、どうだ?」
そうだな…。今のところ授業を聞いていて分からないところはないし、なによりもソーンくんのノートが優秀すぎて完璧とまではいかないけれど、授業の内容は理解できている。
でも、そんなソーンくんのノートの中でも一つだけ気になっていることがある。
「それなら、共鳴について聞いてもいいですか?」
ソーンくんの中で一番といっていいほど強調されていた単語。どこかで聞いたことあるような単語だったけれど、教科書に説明はおろか、共鳴という字すら載っていなかった。
「共鳴についてか?そんな話授業でしたかな…。まぁ、いいか。」そう言い、シャーマール先生はいつものように歩き回りながら説明を始める。
「簡単に言えば魔術属性の相性だ。主に扱う魔術の属性が関係しているといわれている。俺でいう風だな。」僕はノートを出し、それらの言葉を書き足していく。
「属性の相性がよければ、お互いの魔術が反応しあい魔力量が爆発的に増えるだの、魔術だけでなく自身が番いのように反応するからどこにいるか分かるようになるだのなんだの言われているが、いかんせんデータがなさ過ぎてな。少なくとも俺はそんな人を見たことがない。俺含め共鳴について研究している奴は少なくないが、どういった属性同士で共鳴が起こるのか、氷と水のような似た属性か、火と水のような相反する属性か。魔力量はどのくらい増えるのか、共鳴が起こった人たち同士で増えるのかそれとも一方か。そもそも共鳴は二人でしか起こらないのか、三人以上でも起こるのかすら分かっていない。ただ、そういった描写のある昔の文献がこの国だけじゃなく、よその国でも見つかっているから、長い間研究対象とされているが…まぁ伝説扱いだな。共鳴なんて運命みたいだしはっきりと分かってないだろ、小説とかの題材になっていたりするから君もどっかで聞いたことあるんじゃないのか。」
なるほど、なかなかロマンのある話なんだな…。そういえば、小説じゃないけど、昔大おばあ様が共鳴をどうのこうのっていう話をおじいちゃんからこっそり聞いたことあったんだっけ?なんて言っていたか忘れちゃったけど…。
それにしても、なんでソーンくんこんな詳細のはっきりしてない話を強調してたのかな。もしかして、ソーンくんもロマン感じたのかな?やっぱりソーンくんも男の子なんだな~!
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