君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 とても長い物語を見ていた気がする。なんのと言われても思い出せない。ただ、その物語に僕は全く関係していないはずなのに、何故か手放しで楽しめない。そんな感覚が後味の悪さと共にする。





 それが夢だと分かったのは、眼前に広がった涙でびしょびしょに両親の顔を見た時だった。






 目を開けてその光景に驚く間もなく、僕はお母さんの胸に抱かれる。お父さんは年甲斐もなく大泣きをし、大丈夫か?どこか異変はないか?と尋ねしきりに僕の顔や体を触り、兄は眉根を寄せ今にも泣きそうな顔で何度もすまなかったと、謝ってくる。僕は状況が一切把握出来ず、ただ困惑するしかできなかった。


 現状を理解するために周りを見渡してみる。

 

 ここは僕の部屋だ。部屋といっても寮の部屋ではなく僕の家の部屋だ。
 よかった…。こんどこそ、ここは僕の部屋だ。

 ん?よかった?なんでだろう…。それに僕、いつの間に帰ってきたんだ…?あれ、待って…。僕がこの家を出る前って、あそこの棚にある護身術セットってあんなにあったっけ…?ん、待て待て、泥棒とか僕の呪いとかその他諸々色々な対策としてこの部屋に張られていた魔術の結界ってよくこの部屋に来るメイドのサリーが入れないほど強かったっけ…?あれ、なにこの大量のスコーン…。色んなお店の銘柄がみえるし、しかも全部クランベリー入ってる…。あれ、僕新入生歓迎会で倒れただけだよね…?

「ちょ、ちょっと待って!いくら何でも大げさすぎじゃない?」
「大げさなもんか。三日も目を覚まさなかったんだぞ!三日間熱もなかなか下がらなかったし、お父さんたちどれほど心配したか…。」
「そうよ、お母さんアルが倒れたって聞いてとってもびっくりしたのよ!慌てて王宮の仕事を放ってきたんだから!」
 三日…?僕、三日も寝てたの?そんなに寝てたってことは、もしかして今回月の光に当たった?



 新入生歓迎会の時の記憶をたどろうとしても、メルロス殿下にお会いした辺りからの記憶が曖昧で思い出せない。一体僕はどのタイミングで気を失ったんだろう…。そんな表情を読み取ってくれたのか、お兄ちゃんが申し訳なさそうな顔をしたまま
「学校の中央の広場で倒れたんだ。それを近くにいたロストが医務室まで運んだんだ。その後は熱がなかなか下がらないし、反応も収まらないから母さんと父さんが到着してすぐに家に帰ったんだ。」
「そう、なんだ…。え、待って、ロストさんが運んでくれたの…?」
「…そうだ。」
 その辺の記憶はいまだに曖昧だけど、本当にロストさんが運んでくれたのかな…。なんだか違う気がするのはどうしてだろう。

 あまり釈然としていない僕をよそに、お父さんとお母さんは二人で今後について話し始める。
「とりあえず、アルが目を覚ましたことを学園に言わないといけないな…。」
「そうね、心配だから学園に戻るのは少なくとも一か月後にしましょう。」
「そうだな。」え?一か月!?
「ちょっと待った!!いくらなんでもそれはさすがに休みすぎじゃないの?」
「だって、三日も目を覚まさなかったのって、今までなかったじゃない。それに今回は昼間に倒れて、月の光に当たっていないはずなのに、反応は当たった時の日のようにひどかった。何か呪いが変化をしたのかもしれない…。少なくとも次の満月まで様子を見なきゃ。」
「でも…。」
「お願いだ、アル。とっても心配なんだ。魔力が少し不安定になっているし、こんな状態でかわいいアルを外に出すわけにはいかないんだ。」
 ここまで言われれば僕も反論できず、黙り込んでしまう。それを肯定ととったのかお母さんが
「そうと決まればとにかく学園に報告をしましょう。サリー、学園に連絡する用の手紙を用意して頂戴...って、そんなところで何をしてるの?」
「・・・リアン、どうやら少々結界が強すぎたようだ。」



 お父さんとお母さんが学園に手紙を書いたり医者に連絡している間、部屋には僕はお兄ちゃんと二人になる。お兄ちゃんはさっきまでお父さんが座っていたところに座り、僕の手を握っている。それはいつも通りなんだけど、でも今回はなんだか様子がおかしい。さっきから何かを言いかけては口を閉じることを繰り返しているし、どうしたんだろう…。

「ねぇ、お兄ちゃん。何か言いたいことあるの?」
「…何でもない…。それより体調は大丈夫なのか?」そう言いながら目を合わせようとしない。

 ほら、やっぱりおかしい...。もしかしてお兄ちゃん、なにか隠している?

「それにしても、今回はなんでこんなにひどかったんだろう…。ねぇお兄ちゃん、僕が倒れた時なにかいつもと違うところはなかったの?」僕がそう言うと、またお兄ちゃんは何かを言おうと口を開くが、その口から言葉が発せられることはなく、1度口を閉じ「...分からない。」とだけ言った。
 お兄ちゃんは僕に何を言おうとしているのだろう。



 






もしかして、お兄ちゃんは今回呪いが大きく反応したことについてなにか知っているのかな…?








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