君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 最初の的の燃え尽きぬうちにメルロス殿下が二本目の矢に手をかけようとしたところで「メルロス殿下!?」という先生の制止が入る。殿下は一度先生の方を一瞥し渋々といった感じで弓を下す。周りを見てみると、他の生徒達は燃え盛っている的と殿下を交互に見て顔を青ざめさせている。先生は顔を真っ赤にさせ、すごい剣幕でこちらに近付いてくる。王子といえども、さすがにこれは先生も咎めるだろうな、なんて思っているとなぜか僕が怒られていた。先生が言うには、僕が王子のことをしっかり見ていなかったから矢に火が着いちゃったんだそうなんだ。「そんなことないです!先生理不尽です!王子が勝手に!!」って弁解しようにも、先生が弾丸のように話を続けるので口を挟む隙がない。それほど王子の機嫌をとりたいのか..。
 それならば、せめて王子が何かを言ってくれれば何とかなるんじゃないか?と思い王子のほうを窺うと、こちらを見ながらにやにやしていた。どうやら楽しんでらっしゃるようで、助けてくださる望みが無いと悟りあきらめた。








 チャイムがやっと授業の終わりを告げ、僕は更衣室に行く。着替えている間中ずっとメルロス殿下がさっきの僕の状況を笑いながら着替えを妨げてくるから、いつもより時間がかかってしまった。慌てて外に出ると、もう3人は迎えに来ていた。


「あ!アル!」
「遅いよ~。もう俺お腹すいた~。」
「食堂早く行かないと、席なくなるよ!?」
「ごめん!着替える手間取って…。」瞬間怪訝な顔をするリーン。
「またいじめられたの?」
「違う!違う!ただその…。」メルロス殿下の話をしようか迷っていると、

「まだいたのか。」と後ろから声がかかる。声の主はもちろんメルロス殿下だった。

 3人はメルロス殿下に挨拶するが、すぐに額を合わせて
「もしかして殿下が?」
「なんだ殿下か…。」
「それならまだいっか…。」などと話していた。僕としては周りの生徒達のように驚くだろうと思っていたので、意外と反応があっさりとしている3人に僕のほうが驚いている。しかもなんだか、ちょっと馬鹿にしてない…?シンやリーンならまだしも、ソーンくんはメルロス殿下を初めて見るんじゃないのか…?その反応は合ってる...のか...?
 






 専属のシェフがご飯を作るので食堂には行かないらしい殿下と別れ、中庭を横切ろうとした時にリーンが
「ちょっと待って!」
と急に言い出し、僕達を低木の茂みに押しやった。枝とかが当たって思わず声が出そうになるが、その前にリーンが
「静かに!!」と真剣そのものの表情で一点を見つめているから僕も気になって目線の先を追う。


「あれって…。」
「もしかして…。」
「カルロ殿下?」
「しかも隣にロスト様もいない?」
「ほんとだ…。」
 中庭に置かれたベンチにこの国の第2王子であるカルロ殿下が座っており、その横に騎士団長の一人息子であるロストさんが立っていた。2人は同級生のようで、よく一緒にいるのを見かける。そこそこ仲がいいようで、カルロ殿下がロストさんに会いに騎士団の訓練場に顔を出しているという話はよく聞く。それにしても二方とも顔がいい。リーンによればカルロ殿下は愁いを帯びた美人系?で、ロストさんははっきりとした顔立ちでとにかく顔が強い?らしい。美人系はともかく顔が強いってどういうことなんだろう…?顔で人を倒せるってこと?覇気みたいな…?
 とにかく顔が整ってらっしゃるので、ベンチの辺りだけ少し輝いているような錯覚を覚える。眩しくて、目が開けにくい…。
 隣を見てみるとリーンが、呟きながら必死の形相で何かをメモに書いている。目の保養だとか、距離が近いだとか言ってる気がするけど、よく分からないな…。



 そうやって眺めていると、ロストさんが胸ポケットから徐に手紙を出した。そして皺をつけないように丁寧にカルロ殿下へと手渡す。シンやリーンは「手紙?」「もしかしてラブレターとか?」なんて騒いでる。僕はあの封筒にある模様をどこかで見たことある気がするけど、どこで見たのか思いだせずもやもやする。



 そうこうしているうちに用事がすんだのか、カルロ殿下とロストさんが立ち上がったので、僕達は慌ててその場を去る。








 遅れて来たからなのか、食堂の席がほとんど埋まっていて料理を持ちながら少しの間彷徨っていると、ようやく席が空き僕達は昼食を食べ始める。




 あらかた食べ終わったので、デザートのプリンを食べようとすると、
「アルス様でいらっしゃいますか?」と声を掛けられる。


「お初にお目にかかります。僕は隣国のコシュート王国から来ました。シェフラー=リュックザイテです。」そこにはブルーサファイアのきれいな瞳をした青年が立っていた。隣国から来たにしては発音がかなり流暢で違和感がない。







 コシュート王国とはリューシェハント王国の北に位置する国である。この国と同じく魔術が盛んな国で、昔はそこそこの国交があった。しかしコシュート王国の突然の国境侵攻をきっかけに戦争が起こり、一時関係は冷え込んでしまった。まぁ、今となっては時間が経ち、歴史上の出来事になってしまったが、今でもリューシェハント王国にはコシュート王国の人たちのことをよく思っていない人が多い。そのためか、シンもリーンもソーンも怪訝な顔をしている。



「あ、アルス=シューベルトです。初めまして。」一応立ち上がり、頭を下げる。
「他国の貴族様が我が国の公爵に何か用でも?」シンが唐突に尋ねる。顔には疑念が浮かんでいる。
「国は違えど同じ公爵として挨拶を、と思いまして。あ!この国に来たのは、単純に他国の魔術に興味があったからなんですよ。名目上は親善なんですけどね。仲良くしていただけませんか?」ふふ、と上品に笑うシェフラーさん。
「仲良く、ねぇ…。」リーンも疑心暗鬼といった感じで言う。
「他意はありませんよ。挨拶をさせていただいたのもお近づきになりたかったからで…。」
「それでアルに目をつけたんですか?」あぁ、ソーンくんまで…。そんな怖い顔をしないで…。
「学びに来たのはいいんですが、如何せん国が国ですから皆さんのように周りから敵対心を向けられて、友人と呼べる人がいないんです…。せめてアルスさん、あなたとは良い関係を築きたいと思いまして。最初は挨拶を返してくれるだけでいいんです。......それもだめですかね…。」今度は悲しそうに微笑むシェフラーさん。



 なんだろう。僕と似てるな…。周りからあまりよく思われてないし、僕も友達が欲しい。状況としてはシェフラーさんの方が深刻なんだろうな…。
「挨拶くらいなら…全然大丈夫ですよ…。」その言葉に3人が目を見開いて一気に振り返る。
「本当ですか!?わぁ~良かったです!!これからよろしくお願いしますね!」と手を差し伸べるシェフラーさん。
「こちらこそ、お願いします…!」その手を僕はつかむ。








「ねぇ、正気なの?だって、相手はコシュート人だよ?」
「なんであそこで、うん。って言っちゃうだ?」
「アル本当に大丈夫?」
 シェフラーさんと別れて3人から質問攻めにあう。
「だって…。別に友達になるくらいいいじゃん…。それにさ、親善で来るくらいなんでしょ?みんなが心配するようなことはないよ。きっと大丈夫だって。」
「でも…。」
「それにあの人、最初は挨拶だけって言ってたでしょ?途中で危ないって感じたら手を引くよ。」
「…。」
 ただの同情かもしれないけれど、僕はシェフラーさんのことが気にかかる。例えコシュート人だろうが「友達になりませんか?」と言われたら、僕は断ることができない。これはきっと誰に何を言われても変わらない。

「あ、ほら!次の授業遅れちゃうよ。急ごう!」

 3人はまだ納得いってないっていう顔をしているが次の授業がある教室に行く準備をする。
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