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幕開け
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あちこち回って用事を済ませ、次の魔術史の授業がある教室に向かう途中、毛先を遊ばせ服も崩して着ているような男子生徒に出会った。恐らくソーンくんの可愛さに釣られて来たのだろう。片手間に話を聞いていると窓の外にリュークさんがいるのに気付いた。そういえば、僕リュークさんに会う度に気を失っている気がするんだけど、離れているからなのかな?今回はどうやら平気みたいだ。
あれ?でも、この間会った時は、割と近くにいたけど気絶しなかったよな…。今見ていても気絶しないってことは、見るだけでは別に気絶しないってことだし…。気絶するには、何か要因があるはずなんだけど、うーん。分からないなぁ…。なんなんだろうあの人。
そんなことを考えているうちに、話は終わったみたいで話しかけてきた男子生徒はすごすごと帰って行った。ソーンくんはたくさんの人の目を引くような可愛い見た目をしているから、男女関係なくご飯などのお誘いを受けることが多々ある。話しかけてくる人達を見て、最初は『また何か言われる!?僕が守らなきゃ!!』と謎の正義感を持っていたが、ソーンくんの方がしっかりしていて、僕が慣れてない誘い事にわたわたとしているうちに、きっぱりとお誘いを断っていた。その時下手に僕が手を出さない方がすんなりと事が済むと学んだ。以来僕にも話しかけてこない限りは口を閉じておこうと決めている。
今回も、恐らく断られたのだろう。話しかけていた男子生徒の背中がなんだか暗い。
「何見てたの?」あ、他所見してたのばれてたっぽい。
「あぁ、えっとね、リュークさん見てた。」
「リュークさん?」
「ほら、あそこにいる人。」と言ってさっきまで見ていた方を指さす。
「誰もいないけど?」
「え?うそ。」振り返って見てみると、もうその場にはリュークさんはいなかった。
「あれ…おかしいな…。さっきまでいたのに。」僕が考えているうちにどこかに行ってしまったのだろうか?
「リュークさんってもしかして、リューク=シャンブルク様?」
「そうだけど、知ってるの?」
「もちろんだよ!」そっか、結構有名な人だもん。そりゃ、知ってるか。
「アルはリューク様に会ったことがあるの?」
「うん。あの入学式の日、ソーンくんに言われたとこ行こうとしたけど行けなかったって話したでしょ?あの時会ったんだよね。」
「あの日!そう!そうなんだ…!」なんだか嬉しそう。もしかしてソーンくん、リュークさんと仲良くなりたいのかな?喜んでる顔も可愛いけど、あの人だけはやめておいた方がいいよ…。
「それで?何か話したりはしたの?」
「いや、特には話してないんだよね…。」
ソーンくんに『出会ってすぐ倒れちゃったんだよね!あはは!』なんて格好がつかなくて言えない。
「そうなんだ…。」さっきとは打って変わってなんだかしょんぼりしているソーンくん。どうしたのかな?もしかして仲良くなれないと思っているのかな?なんだか、ごめんね。でもなんでそんなに仲良くなりたいんだろう?特別な理由があるとか?
「あ、いた!」
「ごめん遅くなった~!」
そんな考えはシンとリーンの声にかき消された。
魔術史の授業が終わって、この後の時間ってなんだっけ?と考えていると、いきなり
「おい!アルス=シューベルト!!いくぞ!!」と教室中に大きな声が響いた。
突然のことで誰の声か識別できなかったが
「え?第3王子…?」
「メルロ殿下が何でこんなとこに…?」
という周りのざわめきでメルロス殿下の声だと分かる。
え?メルロス殿下…?え?なんで?
「何をしているんだ!俺を待たせるつもりか!」ずんずんと近付いて僕の手首を掴む笑顔の殿下。そのまま引っ張られて連れて行かれそうになり、とっさに僕の持ち物を拾う。
廊下を全速力で走る殿下と僕。殿下を見て人々がさっと端に避けお辞儀をするのは、王子の威厳なのか、ただ単純にぶつかりたくないだけのかは分からない。
じゃなくて!!なんだこの状況!第3王子とはいえ廊下は走っちゃいけませんって習いましたよね!?
「お前、」急に話しかけてくる殿下。走っていても息切れをしていないようではっきりと声が聞こえる。
「…は、い?」片や僕は体力に自信があったはずなんだけど、いきなり走ったからか息が切れ切れで返事するのが精一杯だ。
「分かってないようだから聞くが、次の時間の授業はなんだ?」
酸素の回っていない頭で必死に考える。
次の授業。次の授業…。えっと、たしか…。
「ぶ、ぶじゅつ!、っです!!」
「分かったか?なら行くぞ!」ニヤリとしながらそう言ってさらに加速する第3王子。
えっと、ちょっと待ってください。やっぱりそれでも分からないです!それに手!痛いです!!もげそうです!!もう体力もないです!!廊下はこんな速さで走るものじゃないです!!というかそもそも走るものでもないです!メルロス殿下!!
走りすぎて肺が痛い。口の中に血の味が広がる。息が整いきれておらず、深呼吸で落ち着こうにも酸素を求め喘いでしまう。何とか息を整えるが、今度は全身に疲労感が広がる。これから体を動かすっていうのに、既にもう一歩も動きたくない。
「何してんだ?お前も早く着替えろ。」
「…はい…。」
それでも王子を待たせてはいけないと思い、急いで動きやすい服に着替える。
僕達よりも先に何人かの生徒が来ていて準備体操や会話をしていたが、腕を組みながら堂々と入るメルロス殿下を見て動きが止まる。はっと我に返って挨拶をするが、表情は驚きを隠せないでいる。それもそうだ、昨日までいなかったはずの生徒、それも第3王子が今日になって急に現れたのだから。僕だってさっきからずっと混乱しっぱなしだ。そんな僕達を気にせず王子は準備体操を始めている。
「何してんだ、お前も体動かすんだろ?準備くらいしたらどうだ?」そう言われ、慌てて僕も体操を始める。
「今は弓術をしているらしいな。」
「へ?あ、はい。そうです。」
「そうか。弓はあまり好きではないが。ま、いいだろう。」
「は、はぁ...。」
「なんだお前?もしかして、なんで俺がここにいるのかまだ分かってないのか?」
「すみません。」
「約束しただろ?相手をすると。忘れたのか?」
約束って...あ!!あれかぁ!!助けてもらった時に思わず『お願いします!』って言っちゃったやつか!!でも僕、てっきり気まぐれでそんな話はなかった事になっているものだと思っていたし、あったとしても空いた時間で、とかだと思ってたし!!でも、そうだよね!王子が僕なんかに時間を割くわけないもんね!それに授業なら少なくとも2人きりじゃないから、ちょっとは気が楽になりそう!!よかった~!
「先生に頼んで、この授業を取れるようにしたんだ。お前の実力を見るためにもな。」さすが王子様...。
「それで俺が暇な時、運動相手として動いてくれればいい。手加減はしないからな!」
「それって、授業以外にもってことですか...?」
「何を言ってる?そうしないとお前、強くなれないだろう。」
うそ...だろ...。
あれ?でも、この間会った時は、割と近くにいたけど気絶しなかったよな…。今見ていても気絶しないってことは、見るだけでは別に気絶しないってことだし…。気絶するには、何か要因があるはずなんだけど、うーん。分からないなぁ…。なんなんだろうあの人。
そんなことを考えているうちに、話は終わったみたいで話しかけてきた男子生徒はすごすごと帰って行った。ソーンくんはたくさんの人の目を引くような可愛い見た目をしているから、男女関係なくご飯などのお誘いを受けることが多々ある。話しかけてくる人達を見て、最初は『また何か言われる!?僕が守らなきゃ!!』と謎の正義感を持っていたが、ソーンくんの方がしっかりしていて、僕が慣れてない誘い事にわたわたとしているうちに、きっぱりとお誘いを断っていた。その時下手に僕が手を出さない方がすんなりと事が済むと学んだ。以来僕にも話しかけてこない限りは口を閉じておこうと決めている。
今回も、恐らく断られたのだろう。話しかけていた男子生徒の背中がなんだか暗い。
「何見てたの?」あ、他所見してたのばれてたっぽい。
「あぁ、えっとね、リュークさん見てた。」
「リュークさん?」
「ほら、あそこにいる人。」と言ってさっきまで見ていた方を指さす。
「誰もいないけど?」
「え?うそ。」振り返って見てみると、もうその場にはリュークさんはいなかった。
「あれ…おかしいな…。さっきまでいたのに。」僕が考えているうちにどこかに行ってしまったのだろうか?
「リュークさんってもしかして、リューク=シャンブルク様?」
「そうだけど、知ってるの?」
「もちろんだよ!」そっか、結構有名な人だもん。そりゃ、知ってるか。
「アルはリューク様に会ったことがあるの?」
「うん。あの入学式の日、ソーンくんに言われたとこ行こうとしたけど行けなかったって話したでしょ?あの時会ったんだよね。」
「あの日!そう!そうなんだ…!」なんだか嬉しそう。もしかしてソーンくん、リュークさんと仲良くなりたいのかな?喜んでる顔も可愛いけど、あの人だけはやめておいた方がいいよ…。
「それで?何か話したりはしたの?」
「いや、特には話してないんだよね…。」
ソーンくんに『出会ってすぐ倒れちゃったんだよね!あはは!』なんて格好がつかなくて言えない。
「そうなんだ…。」さっきとは打って変わってなんだかしょんぼりしているソーンくん。どうしたのかな?もしかして仲良くなれないと思っているのかな?なんだか、ごめんね。でもなんでそんなに仲良くなりたいんだろう?特別な理由があるとか?
「あ、いた!」
「ごめん遅くなった~!」
そんな考えはシンとリーンの声にかき消された。
魔術史の授業が終わって、この後の時間ってなんだっけ?と考えていると、いきなり
「おい!アルス=シューベルト!!いくぞ!!」と教室中に大きな声が響いた。
突然のことで誰の声か識別できなかったが
「え?第3王子…?」
「メルロ殿下が何でこんなとこに…?」
という周りのざわめきでメルロス殿下の声だと分かる。
え?メルロス殿下…?え?なんで?
「何をしているんだ!俺を待たせるつもりか!」ずんずんと近付いて僕の手首を掴む笑顔の殿下。そのまま引っ張られて連れて行かれそうになり、とっさに僕の持ち物を拾う。
廊下を全速力で走る殿下と僕。殿下を見て人々がさっと端に避けお辞儀をするのは、王子の威厳なのか、ただ単純にぶつかりたくないだけのかは分からない。
じゃなくて!!なんだこの状況!第3王子とはいえ廊下は走っちゃいけませんって習いましたよね!?
「お前、」急に話しかけてくる殿下。走っていても息切れをしていないようではっきりと声が聞こえる。
「…は、い?」片や僕は体力に自信があったはずなんだけど、いきなり走ったからか息が切れ切れで返事するのが精一杯だ。
「分かってないようだから聞くが、次の時間の授業はなんだ?」
酸素の回っていない頭で必死に考える。
次の授業。次の授業…。えっと、たしか…。
「ぶ、ぶじゅつ!、っです!!」
「分かったか?なら行くぞ!」ニヤリとしながらそう言ってさらに加速する第3王子。
えっと、ちょっと待ってください。やっぱりそれでも分からないです!それに手!痛いです!!もげそうです!!もう体力もないです!!廊下はこんな速さで走るものじゃないです!!というかそもそも走るものでもないです!メルロス殿下!!
走りすぎて肺が痛い。口の中に血の味が広がる。息が整いきれておらず、深呼吸で落ち着こうにも酸素を求め喘いでしまう。何とか息を整えるが、今度は全身に疲労感が広がる。これから体を動かすっていうのに、既にもう一歩も動きたくない。
「何してんだ?お前も早く着替えろ。」
「…はい…。」
それでも王子を待たせてはいけないと思い、急いで動きやすい服に着替える。
僕達よりも先に何人かの生徒が来ていて準備体操や会話をしていたが、腕を組みながら堂々と入るメルロス殿下を見て動きが止まる。はっと我に返って挨拶をするが、表情は驚きを隠せないでいる。それもそうだ、昨日までいなかったはずの生徒、それも第3王子が今日になって急に現れたのだから。僕だってさっきからずっと混乱しっぱなしだ。そんな僕達を気にせず王子は準備体操を始めている。
「何してんだ、お前も体動かすんだろ?準備くらいしたらどうだ?」そう言われ、慌てて僕も体操を始める。
「今は弓術をしているらしいな。」
「へ?あ、はい。そうです。」
「そうか。弓はあまり好きではないが。ま、いいだろう。」
「は、はぁ...。」
「なんだお前?もしかして、なんで俺がここにいるのかまだ分かってないのか?」
「すみません。」
「約束しただろ?相手をすると。忘れたのか?」
約束って...あ!!あれかぁ!!助けてもらった時に思わず『お願いします!』って言っちゃったやつか!!でも僕、てっきり気まぐれでそんな話はなかった事になっているものだと思っていたし、あったとしても空いた時間で、とかだと思ってたし!!でも、そうだよね!王子が僕なんかに時間を割くわけないもんね!それに授業なら少なくとも2人きりじゃないから、ちょっとは気が楽になりそう!!よかった~!
「先生に頼んで、この授業を取れるようにしたんだ。お前の実力を見るためにもな。」さすが王子様...。
「それで俺が暇な時、運動相手として動いてくれればいい。手加減はしないからな!」
「それって、授業以外にもってことですか...?」
「何を言ってる?そうしないとお前、強くなれないだろう。」
うそ...だろ...。
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