君の瞳は月夜に輝く

文字の大きさ
上 下
13 / 104
幕開け

11

しおりを挟む
 あちこち回って用事を済ませ、次の魔術史の授業がある教室に向かう途中、毛先を遊ばせ服も崩して着ているような男子生徒に出会った。恐らくソーンくんの可愛さに釣られて来たのだろう。片手間に話を聞いていると窓の外にリュークさんがいるのに気付いた。そういえば、僕リュークさんに会う度に気を失っている気がするんだけど、離れているからなのかな?今回はどうやら平気みたいだ。
 
 あれ?でも、この間会った時は、割と近くにいたけど気絶しなかったよな…。今見ていても気絶しないってことは、見るだけでは別に気絶しないってことだし…。気絶するには、何か要因があるはずなんだけど、うーん。分からないなぁ…。なんなんだろうあの人。


 そんなことを考えているうちに、話は終わったみたいで話しかけてきた男子生徒はすごすごと帰って行った。ソーンくんはたくさんの人の目を引くような可愛い見た目をしているから、男女関係なくご飯などのお誘いを受けることが多々ある。話しかけてくる人達を見て、最初は『また何か言われる!?僕が守らなきゃ!!』と謎の正義感を持っていたが、ソーンくんの方がしっかりしていて、僕が慣れてない誘い事にわたわたとしているうちに、きっぱりとお誘いを断っていた。その時下手に僕が手を出さない方がすんなりと事が済むと学んだ。以来僕にも話しかけてこない限りは口を閉じておこうと決めている。
 今回も、恐らく断られたのだろう。話しかけていた男子生徒の背中がなんだか暗い。



「何見てたの?」あ、他所見してたのばれてたっぽい。
「あぁ、えっとね、リュークさん見てた。」
「リュークさん?」
「ほら、あそこにいる人。」と言ってさっきまで見ていた方を指さす。
「誰もいないけど?」
「え?うそ。」振り返って見てみると、もうその場にはリュークさんはいなかった。
「あれ…おかしいな…。さっきまでいたのに。」僕が考えているうちにどこかに行ってしまったのだろうか?
「リュークさんってもしかして、リューク=シャンブルク様?」
「そうだけど、知ってるの?」
「もちろんだよ!」そっか、結構有名な人だもん。そりゃ、知ってるか。
「アルはリューク様に会ったことがあるの?」
「うん。あの入学式の日、ソーンくんに言われたとこ行こうとしたけど行けなかったって話したでしょ?あの時会ったんだよね。」
「あの日!そう!そうなんだ…!」なんだか嬉しそう。もしかしてソーンくん、リュークさんと仲良くなりたいのかな?喜んでる顔も可愛いけど、あの人だけはやめておいた方がいいよ…。
「それで?何か話したりはしたの?」
「いや、特には話してないんだよね…。」
ソーンくんに『出会ってすぐ倒れちゃったんだよね!あはは!』なんて格好がつかなくて言えない。


「そうなんだ…。」さっきとは打って変わってなんだかしょんぼりしているソーンくん。どうしたのかな?もしかして仲良くなれないと思っているのかな?なんだか、ごめんね。でもなんでそんなに仲良くなりたいんだろう?特別な理由があるとか?
「あ、いた!」
「ごめん遅くなった~!」
そんな考えはシンとリーンの声にかき消された。







 魔術史の授業が終わって、この後の時間ってなんだっけ?と考えていると、いきなり
「おい!アルス=シューベルト!!いくぞ!!」と教室中に大きな声が響いた。
突然のことで誰の声か識別できなかったが

「え?第3王子…?」
「メルロ殿下が何でこんなとこに…?」

という周りのざわめきでメルロス殿下の声だと分かる。


 え?メルロス殿下…?え?なんで?
「何をしているんだ!俺を待たせるつもりか!」ずんずんと近付いて僕の手首を掴む笑顔の殿下。そのまま引っ張られて連れて行かれそうになり、とっさに僕の持ち物を拾う。



 廊下を全速力で走る殿下と僕。殿下を見て人々がさっと端に避けお辞儀をするのは、王子の威厳なのか、ただ単純にぶつかりたくないだけのかは分からない。
 じゃなくて!!なんだこの状況!第3王子とはいえ廊下は走っちゃいけませんって習いましたよね!?


「お前、」急に話しかけてくる殿下。走っていても息切れをしていないようではっきりと声が聞こえる。
「…は、い?」片や僕は体力に自信があったはずなんだけど、いきなり走ったからか息が切れ切れで返事するのが精一杯だ。
「分かってないようだから聞くが、次の時間の授業はなんだ?」
 酸素の回っていない頭で必死に考える。
次の授業。次の授業…。えっと、たしか…。
「ぶ、ぶじゅつ!、っです!!」
「分かったか?なら行くぞ!」ニヤリとしながらそう言ってさらに加速する第3王子。
 えっと、ちょっと待ってください。やっぱりそれでも分からないです!それに手!痛いです!!もげそうです!!もう体力もないです!!廊下はこんな速さで走るものじゃないです!!というかそもそも走るものでもないです!メルロス殿下!!








 走りすぎて肺が痛い。口の中に血の味が広がる。息が整いきれておらず、深呼吸で落ち着こうにも酸素を求め喘いでしまう。何とか息を整えるが、今度は全身に疲労感が広がる。これから体を動かすっていうのに、既にもう一歩も動きたくない。
「何してんだ?お前も早く着替えろ。」
「…はい…。」
それでも王子を待たせてはいけないと思い、急いで動きやすい服に着替える。



 僕達よりも先に何人かの生徒が来ていて準備体操や会話をしていたが、腕を組みながら堂々と入るメルロス殿下を見て動きが止まる。はっと我に返って挨拶をするが、表情は驚きを隠せないでいる。それもそうだ、昨日までいなかったはずの生徒、それも第3王子が今日になって急に現れたのだから。僕だってさっきからずっと混乱しっぱなしだ。そんな僕達を気にせず王子は準備体操を始めている。

「何してんだ、お前も体動かすんだろ?準備くらいしたらどうだ?」そう言われ、慌てて僕も体操を始める。

「今は弓術をしているらしいな。」
「へ?あ、はい。そうです。」
「そうか。弓はあまり好きではないが。ま、いいだろう。」
「は、はぁ...。」
「なんだお前?もしかして、なんで俺がここにいるのかまだ分かってないのか?」
「すみません。」
「約束しただろ?相手をすると。忘れたのか?」
 約束って...あ!!あれかぁ!!助けてもらった時に思わず『お願いします!』って言っちゃったやつか!!でも僕、てっきり気まぐれでそんな話はなかった事になっているものだと思っていたし、あったとしても空いた時間で、とかだと思ってたし!!でも、そうだよね!王子が僕なんかに時間を割くわけないもんね!それに授業なら少なくとも2人きりじゃないから、ちょっとは気が楽になりそう!!よかった~!

「先生に頼んで、この授業を取れるようにしたんだ。お前の実力を見るためにもな。」さすが王子様...。
「それで俺が暇な時、運動相手として動いてくれればいい。手加減はしないからな!」
「それって、授業以外にもってことですか...?」
「何を言ってる?そうしないとお前、強くなれないだろう。」









うそ...だろ...。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

嫌われものの僕について…

相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。 だか、ある日事態は急変する 主人公が暗いです

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

処理中です...