君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 第三王子が僕の相手をしてくれる…。

 ん?冷静に考えたらこれってとてつもないことなんじゃない?夕食の時はシンやリーンの「なんで外に出るって言わなかった?」という説教で全然気付かなかったんだけど、こうしてベットの中で改めて考えてみると、第三王子が僕の体術の先生をするってすごい字面じゃない?あれ、二人っきりってこと?
 …いやいやそんなはずはない!相手だなんてそんな…!まず、第三王子だって男と二人っきりで体術の練習なんてしたいはずがない!きっと殿下のいつもの気まぐれだ。じゃなきゃなんかの小説で読んだ、特別講習会とかで凄い高額のお金を徴収されるやつだ。王子だもん。きっとそうだよ!それくらいの利益がなきゃ!「いやぁ、まったく殿下の気まぐれにはいつも振り回される…。」って大人たちがよく頭抱えていたもん!
 でも、もしあの約束が本当だったらどうしよう?僕きっと心臓持たないな…。王子に万が一、万が一けがを負わせるようなことがあれば、今度こそきっと死刑だ…。捕らえられてそのまま首をバスン!だ。第三王子は気まぐれな性格をしていらっしゃるし…。
 ...うん、きっとあの約束は気まぐれだ!気まぐれ!じゃなきゃ想像だけで僕の心が死んじゃう…!!でもなぁ…。










 …いつの間にか朝になっていた。色んなことを考えて、頭を働かせていたせいで体はだるいのに目は冴えてる。体が重すぎて動けない…。でも、もたもたしていると二人を待たせちゃうから急がなきゃ…。


 食堂につくとそこそこ混んでいて三人で座れるところを探すのに少し苦労する。ようやく三人そろって座れるところを見つけ朝食を食べる。寝不足もあって朝食は軽く済ませ、僕達は授業を受ける準備をするために部屋に戻ろうとする。

「あ!ソーン君!」僕達の前を歩いていたソーンくんをリーンが呼び止める。今日も可愛いなぁ。
 昨日の傷が完全に癒えたといえば嘘になるが、普通に接することができるくらいには回復した。
「おはよう!三人とも!」そういえばソーンくんには敬語をやめてもらった。だって友達に敬語ってなんだかむずかゆいじゃん。それに友達に距離を感じるのは嫌だしね。ソーンくんも最初は渋っていたけど、最終的に僕の粘りに負けて敬語をやめてくれた。
「これから教室に行くところ?」
「ううん、さっきまでご飯食べてて、今から部屋に戻って準備するとこ。」
「そうなんだ!あのさ、教室まで僕も一緒に行ってもいい?一限目が経済学なんだけど教室分かんなくて。」
「全然いいぜ!丁度俺達も一限目は経済学だし。じゃあさ、共有スペースで待っててくんね?」
「うん分かった!待ってる!」じゃあね!と言って、たたたたたと走っていくソーンくん。走り方も可愛いなぁ。

 待ち合わせの共有スペースにシンと行くと、二人はもう待っていてソファで楽しそうに笑っていた。ん、そういえばシン、リーン、ソーンって韻踏んでてなんだか面白いな…。
「お待たせ!ごめん。教科書探すのに手間取って…。」
「寝る前に用意してないからでしょ!」
「ん!ごめん…。」まずい。これは、お小言コースか…?
「まぁまぁ、ほらそろそろ行こうよ!」あぁ!助けてくれてありがとうソーンくん。

 一限目の経済学の教室につき、いつものように談笑をする。すると、昨日の三人が僕達の席にやってきた。
「これ、返します…。昨日は本当にすみませんでした…。」ぺこりと頭を下げる3人組。昨日とは打って変わり、しおらしい態度で接してくる。
「あぁ、懐中時計。うん。返してくれてありがとう。」公爵らしくちゃんとニコッと笑って対応する。別に昨日のこと根にもってる訳じゃないけど、公爵らしく優雅にふふと笑ってみせる。
「…っす。じゃ、それじゃ…。」と言ってそそくさとどこかに消える三人組。心なしか顔が赤かったような…?風邪かな。とにかくあの三人とはもう友達になれることはないのかもな…。

「ねぇ、アル。昨日外出中何があったかもう一回詳しく教えてもらってもいいかな…?」後ろから冷気を感じる。

 あ、忘れてた。昨日説教中これ以上怒られるのが嫌で、さっきの三人組と第三王子に会ったことを言わなかったんだった…。
「いや、あの…。」あはは...。リーンの目が笑ってないや…。
「あれれ、昨日アルは懐中時計失くしたから体育館に探しに行ったんだよな?見つけたって言わなかったっけ?なんでさっきの人が持っているんだろうな?」シンも目が笑ってない…!
「あ、だからその…。えぇっと…。」
「そういえば、制服泥だらけだったよね?アルのことだから盛大にこけたのかと思ったけど、どうやら違うようね…。詳しく教えてもらえるかしら。」このリーンの改まった言い方は確実に説教態勢に入ったな…。もう逃げられないよな…。

 観念して僕は昨日起こったことを詳しく話した。もちろん第三王子との約束も話さざるを得なかった。
「なんでそれを昨日話さなかったの?」
「だって、もっと怒られると思って…。」
「言わない方がもっと怒るに決まってるでしょ!」
「あのなアル。お前も一応公爵なんだぞ?もうちょっと危機感持てよ!」
「だって…。」
「だって、じゃない!その時はメルロス殿下が助けてくださったからよかったものの、もし誰も助けに来なかったらどうするつもりだったの!?」
「いや、それは…。あの時は状況が悪かったんだよ…。状況が…。でもいつもなら絶対対処できてた!」
「できてないから助けられたんだろ。アルの兄ちゃんに言って護衛つけてもらうか…?」
「それはやだ‼」
「なら今度から外出るときは必ず俺に言え。このやり取り前もしたよな?」
「…ごめんなさい。」
「まぁまぁ、二人とも!ほらアルも反省してるみたいだし、もういいんじゃない?」ソーンくん…!君はなんていい子なんだ...!
「ソーン君。これはすごい大切なことなの。だからここで妥協するわけにはいかないのよ…!」あぁ、そんな…。



 その時いいタイミングで入ってくる先生。この時だけは嫌いな経済学の授業も少しは真面目に受けようっていう気になった。
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