君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 先生が書類に目を通している間研究室の中を見渡す。本の表紙や箱の中のものを見るに無造作に積み上げている訳じゃなくて、一応分類ごとに分けて置いてあるようだ。



 ふと、壁に貼ってある一枚の紙に目が留まる。どうやら、頭の中を整理するためのメモのようだ。魔術の研究についてという内容で、最後のほうに、『人の考えていることが分かるのではないか?』と目立つ字で書かれてある。まさか、さっきのはこの魔術を使って…?

「それに目をつけるとはやはりアランの弟だな。」いつの間にかすぐ後ろにいる先生。
「聞きたいか?」前かがみになって顔を覗き込んでくる。長い前髪がはらりと落ち、隠れていた顔が露になる。この先生結構顔がいいぞ…!髪の毛とか整えたらいいのにな…。
 
 おもむろに立ち上がって研究室の中央に立つシャーマール先生。心なしかスポットライトが当たっている気がする。
「人は常に何かを考え、何かを感じている。しかし、自分から発しない限りそれは誰かに伝わることはない。表情から読み取れることはあるが、まぁ稀だ。思いというものは常に内に秘められているものだからな。誰かの気持ちを汲み取ることなんか大抵の人はできない。だから、女の言う『察して!』なんてどだい無理なことだ。君は結構分かりやすいけどな。」ビシッと僕を指さす先生。

 何か言いだしたな…。身振り手振りを交えて演劇の俳優みたいに動き回っている。これはあれだ、途中で話の腰を折ると気分を害するやつだ。そっとしておこう。
「でも、例外はある。こんな経験はないか?長年一緒にいると何となく言わんとすることが分かる、所謂以心伝心ってやつだ。そこからインスピレーションを得てな。人の心に探知魔法をかけて考えや感情を探れないか、と考えたんだ。俺はこれを読心術と呼んでいる。心を読む魔術と書いて読心術だ。しかし、この研究を行うにあたって一つ問題がある。会話というものは人間が二人以上いて初めて成立するが、研究者というものは孤独なものでな。実験のいわばモルモットがいないんだ。」要するに、ぼっちってことか…。 
 あ、
「…またなんか失礼なこと考えただろ…。」ジトッとした目を向けてくる先生。視線から逃れようと顔を逸らしてしまう。この先生がいう読心術という魔術はどうやらまだ完成してないらしいから、今までのも全部表情から読まれてるってことなのか...。ん?完成していない…?
 



 そこで僕はふと思いついた。この研究を手伝えば、アルス君すごい‼作戦が実行できるのではないかと。リベンジができるのではないかと。この先生のことだ、研究には結構な注目が集まるだろう。つまり、研究を手伝う→発表をするときに手伝った人で僕の名前を出してもらう→「え!研究手伝ったの!」→「すごい‼」→「友達になってください!」これだ!僕の計算は完璧だ。これで、僕の評価も変わること間違いなし!前の作戦はなんでか失敗しちゃったけどこれは大丈夫な気がする!だから、僕はここでモルモット役を買って出ればいいのだ!幸いにもその枠はまだ埋まっていない!












「僕、しましょうか?モルモット。」



 .........あれ、思っていた反応じゃない。なんだろう。もっとこう、「手伝ってくれるのか!ありがたい‼」ぐらいの反応するかと思ったんだけどな…。ぽかんって感じの顔をしていてけど、顔がいいからその表情すらも絵になる。...なんだか悔しい。

「モルモット…。手伝ってくれるということか?」
「そういうことです。魔術が使えない分ほかの人たちよりも探りやすいんじゃないかなとは思うんですけど。」実は下心があってなんて言えない。それっぽい理由をつけ足してごまかしておく。
「なるほど…。」そう言ってまたなにかぶつぶつと呟きながら歩き回るシャーマール先生。この感じ兄に似てるな。兄も何かの考えを整理するとき部屋の中を歩き回ってる。その姿がかっこいいからちょっと真似してみちゃったりなんかしてるんだよな…。
「君、友達はいるのかい?」唐突な質問。しかも結構痛い所をついてきている。「たくさんいます!」とか答えたいけれど、こんなところでうそを言っても信用を失うだけだしな…。ここは正直に...言った方がいいのかなぁ...。
「…二人ほどいます。」
「二人。名前を聞いてもいいかな?」案の定さっきのお返しと言わんばかりに鼻で笑う先生。ムカつく!!でも、僕は二人もいるもん!先生と違って!
「シン=フィンオールとリーン=アシュレです。」
「シン=フィンオールとリーン=アシュレ…。なるほど知力も魔術も申し分ない二人だな。いいだろう。まずは、君一人でこの研究室に来なさい。それでもう少し段階が進めば、その二人を連れて来て欲しい。魔術を持った人間にも通じるのか、反転魔術も作り出せるのかも試すことができるかもしれないからな。」
 
 これはどうやらモルモットになれることができたのではないだろうか…!
「ありがとうございます。」
「あと、これソーン=エンゲルスに言っておいてくれ。よくできていると。」書類をひらひらさせながら言う。
「分かりました。」
「次来てほしい日はまたこちらから連絡する。なにか気になることがあればここを訪ねてくるといい」
「はい!失礼します。」と言って研究室を後にする。







 外を出ると兄が腕を組みながら壁にもたれかかって待っていた。陽の光も相まって1枚の絵画のように見える。兄も先生に負けず劣らず顔がいいんだよな。
 兄は扉の音に気が付いてこちらに寄って来る。
「用事はすんだか?」
「うん。連れて行ってくれてありがとう!」
「困っていたら助ける。当然のことをしたまでだ。」
「そっか。」
「今日はこれでもう終わりか?」
「うん、もう用事はないから寮に帰ろうかなと思ってるんだけど。」
「そうか、送っていく。」
「うん。お願い。」ここから帰るのもまだ自信がないから今日はお言葉に甘えよっかな。
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