君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 やっぱりこの学園広いよな…。

 すべての時間割が終わって放課後。偶々さっき会ったソーンくんがなにか忙しそうにしていたので思わず声を掛けたら、シャーマール先生のとこにすぐに書類を届けなければならないのにまだ授業が一時間残っているので行けそうにないのだという。真面目なソーンくんは僕とは違い授業をたくさん取ってるようだ。どうしよう、とアワアワしているソーンくんを見ていたら、
「それなら僕が書類を提出しに行こうか?」と声をかけていた。書類をもって意気揚々と先生のいる研究室に行こうとするが如何せんこの学園が広すぎる。誰かに場所を聞こうとしてもやっぱり避けられるし、だったら僕一人でたどり着いてやる!と思って今に至る。

 まぁ、簡単に言うと迷ったよね…。似たような建物は多いし、ここかな?と思っても似たような部屋が多いし。これ、下手に僕が行くより授業が終わったソーンくんが行くほうが早いんじゃないのか?とか考え始めてる。

 若干諦めかけて廊下の端にたたずむ僕。その時視線の先に黒い何かが見えて反射的に僕はその場から逃げようとする。

「ちょっと待て。」

 とてつもなく低い声。自然と背筋が伸び直立不動の体勢になる。



 この声…やっぱり、リュークさんだ…。



「こっちを、いやそのままでいい。お前魔力はあるか?」
「はぇ!?」突然の問いに変な声が出る。

 あれ、この人僕が魔力無いの知らないのかな?自分で言うのもなんだけど僕が魔力持ってないの結構有名な話じゃない?確かに、ちょっとはあるけど、ほとんどないような物だし…。もしかして、僕今試されてる?嘘ついたら殺されるとか?

 顔を合わせていないせいか、心の中であれこれと考えれる余裕がある。思考はちょっと斜めに行ってるが。
「な、な、ない、ですけ、ど…。」
 でもやっぱりはっきり発言する余裕はないみたい。
「だよな…。」
 しばらくの無言。この間とてもつらい。あぁ、早くここから立ち去りたい。もしかして、これでもう会話は終わったのか?下手に後ろを向けないからリュークさんの様子をうかがうことができない。どこかに行きたいけど、どこかに行ったらそれはそれで怒られそうだし…。あれ、今結構ピンチだぞ。

 結局、この場から去りたいという気持ちが勝った僕は、リュークさんにばれないように少しずつ前に進む。ゆっくりと慎重に。
「おい、待て。まだ聞きたいことがある。」
 あ、ばれてた。てか聞きたいことってなんだ…?僕達特にこれといった接点なかったはずだ。

 もしかして兄のことかな?それなら直接兄に聞けばいいのに。あーあ、誰か助けて...。
「お前、もしかしてきょ、「何をしているリューク=シャンブルク。」
凍り付くような低い声に温かく落ち着く声が被さる。この声は!
「お兄ちゃん!!」助かった!お兄ちゃん、あとは任せた‼

 そう思い後ろを振り返ろうとすると、思ったより近くにいた兄にぶつかる。鼻が痛い。ちょうどリュークさんと僕の壁になっているようで向こうの様子が見えない。意外と背中大きかったんだな。
「弟に何か用かな?なければこの後用事があるから、もうお暇したいんだけど。」
 柔らかいが有無を言わさないような、そんな初めて聞くような兄の声色にすこし不安になり、顔を見ようとする。が、その前に腰に手を回され兄に連れていかれる。





 少し歩いて腰に回された手を解かれる。
「どこかに行こうとしていたのか?」兄に聞かれる。
「あ、うん。この書類をシャーマール先生にもっていこうとしたんだけど迷っちゃって。シャーマール先生ってどこにいるか分かる?」
「…この時間だと研究室にいるんじゃないか?」
「研究室ってどこにあるか分かる…?」
「当たり前だろ。案内するから、一緒に行こう。」
「ありがとう‼」
 いつもなら、ここで「いや、大丈夫!ひとりで行けるよ!」と言うのだがここは兄と一緒に行ったほうが賢明だろう。広すぎて際限がない。


 兄に着いて行ってやっとのことで研究室にたどり着く。こんな奥まったとこの場所初めて来た人は誰にも分からないよ…。
「ここだ。外で待ってるから行ってくるといい。」
「うん。お兄ちゃんありがとう‼行ってくるね!」
「あぁ。」
 扉をノックして一言断りを入れて中に入る。






 中はゴチャゴチャしていてしかもなんだか薄暗い。部屋の窓自体大きいのだけれども、その前にたくさんの箱や本が積み重なっていて太陽の光がほとんど入ってこない。
「シャーマール先生、いらっしゃいますか…?」返事がない。もしかして居ないのかな。
「あのー。シャーマール先生…?」
「……ん?あぁ、ここだ。なんか用か?」
 積み重なった山の一つだと思っていたのがどんどん高くなる。びっくりして思わず後ずさってしまう。
「すまん、少し研究に没頭していたようだ。で、なんか用か?」
 山だと思っていたものこそがシャーマール先生で、今は大きな壁となって僕の前に立ちはだかっている。た、高い…。

 間近で見るあまりにも高さに呆然とするが、すぐに我に返り慌てて返事をする。
「あ!一年のアルス=シューベルトです。この書類なんですけど、ソーン=エンゲルスくんが今授業中ですぐに届けれそうにないと言っていたので僕が代わりに持ってきました。」
「アルス..。あぁ、君がアランの弟君か。お初にお目にかかります、だな。よろしく。」ども、と僕も軽く会釈する。僕はあなたのこと何度か見かけたことあるんですけどね…。
「ていうか、授業中って言ったって、あと少しで最後の授業終わるけどな。」ちらと時計のほうを見てはっ、と鼻で笑う先生。笑うと片方の口端が上がるタイプだ。
「まぁ、迷ったんだろ。一年だし、仕方ないな。ご苦労だった。書類を渡してくれ。」この人、見た目に反して意外と優しいな…。あと、凄い喋る。
「…今なんか失礼なこと考えただろ。」
「いえ、そんなまさか!あ、これです。」どうぞと言って先生に書類を渡す。あれ、心の声聞こえてるのかな…?
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