君の瞳は月夜に輝く

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アランの独り言

 俺の弟は魔術が使えない。それは、強大な魔力と高度な魔術を重視するシューベルト家において落伍者を意味する。本来なら弟はまともな人生を送れなかったはずだ。




 そもそも弟は生まれて間もない頃、我が一族の、いや、我が国の英雄である曾祖母のルーナ=シューベルトの生まれ変わりだと言われ続けていた。彼女と同じ琥珀色の瞳を持っていたからだ。将来は最も偉大な魔術師になる、この子は神の子に違いないと周りから期待されもてはやされていた。両親は俺たち兄弟に等しく愛を注いでくれていたが、周りは明らかに弟を贔屓した。それがとても悔しかった。周りから認められたかったのだ。しかし、弟には魔力がほとんどないと分かり、加えシューベルト家でも解くことができない呪いにかかってしまったということで、弟は一気に落ちこぼれとなってしまった。期待が大きかっただけに失望も凄まじいものだった。それまで弟に付いていた者も次第に、俺のほうに付き俺を褒めそやすようになった。弟を悪魔の子だと蔑み、光属性の魔術を使える俺を本当の神の子だと言うようになった。正直幼いころはいい気味だと思っていた。それまではいくら努力して成果を上げても注目されることはなく、魔術を発してすらいない弟に負け続けるという屈辱を味わい続け、更には弟の支持者の過激派からたくさんの嫌がらせも受けていたからだ。呪いのことも多少心配はしていたが、内心ほくそ笑んでいた節はある。俺が経験してきた苦しみを味わえばいいくらいに思っていたのだ。
当時は弟が心底気に食わなかった。






 自分がいかに愚かだったのかを思い知ったのは七歳の時。

 弟が誘拐された。両親の慌てようから幼心にもただ事ではないと察していた。会話の断片から弟の命が危ないことも知った。俺自身も幾度となく危ない目にあってきたから、それがどれほど怖いものかも知っている。だけど俺には魔術という絶対的なものがあったからどんな状況下でも落ち着いていられることができた。危機的状況において絶対的なものの存在はそれだけで安心感を得ることが出来る。
 しかし弟は魔術が使えない。それゆえに感じる恐怖がどれほどのものか俺には計り知れなかった。だから弟のことが大嫌いだったはずなのに、両親の腕に抱かれながら泣きじゃくる弟を見た時すごくほっとした。生きているんだと感じた。同時に兄としてこの子を守らなければならないんだと考えるようになった。



 それ以来弟のことをよく見るようになった。 
 見ていくうちにアルスという人物についていろんなことが分かった。例えば考えるとき顎をさわるという同じ癖を持っているということ。食べるとき一気に口に入れて小動物みたいにほっぺを膨らませてもごもごさせること。怖がりだし少しの大きな音でビクッとするのに本人は平気だと強がること。誰にでも同じように接するところ。また、嫌がらせを受けても、めげずに努力し自分なりの方法で成果を上げようとしている所や、馬鹿にされたのが悔しくて陰で泣いている所がかつての自分と重なり次第に応援するようになった。アルスを卑下するような奴らとは関係を断ち俺たち兄弟を平等に見てくれるような人たちとつながりを持つようになった。アルスと少しずつ一緒に行動するようにもなった。兄弟になり始めた。
 アルも自分の身を守れるようにと武術を始め、人脈を広げ友達も作ろうとした。立場やアルの評判から友達になろうとする人は少なかったが、それでも噂などではなくアルの本質を見てアルと友達になってくれる人はいた。それがシン=フィンオールとリーン=アシュレだ。二人とも器量がよく能力も非常に高い。とても頼りになる。



 今となってはアルのことをよく思ってない人は少なくなったが、それでもアルを傷つける人はいる。俺はそういうやつらからアルを守りたい。アルにはもう傷ついてほしくない。
 俺が言えた立場じゃないかもしれないが。




俺の隣ですやすやと眠る愛おしいこの弟を失いたくない。
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