君の瞳は月夜に輝く

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幕開け

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 馬車の扉が開くまで僕を抱きしめて離さなかった兄と別れて僕は講堂の入口に向かう。既にシンは待っていた。シンはフィンオール侯爵家の一人息子でかなりの情報通だ。

「お待たせ。」
「…なんか屋敷以外の場所でアルの姿見るの新鮮だな。」
「まぁ僕も、外出ること自体が久しぶりだからね。」
「今日アルの兄ちゃんは?」
「さっきまで一緒だったけど…ほら会長だから。」
 

 そう、僕の兄はこの学園の生徒会長でもあるのだ。すごいだろ!


「そっか、じゃあもう中にいるのか。」
「多分ね。リーンは?」
「リーンも中。周りの貴族さん達に挨拶中。」

 リーンはアシュレ侯爵家の3人姉妹の末っ子。アシュレ家は貴族界の中で1番顔が広いと言っても過言ではない。
僕ら3人は小さい頃からの幼馴染なのだ。

「あ、そういえばお前の兄さんで思い出したけど、この学園に平民の子が来るんだよ。」
「それがうちの兄となんの関係があるの?」
「いや、どうやらその子光属性操れるらしいんだ。」
「あ、そう言うことか。お兄ちゃんと一緒ってことね。てか、よく知ってるねそんなこと。さすがは情報通というか。」
「結構有名な話だよ。そんな調子じゃ第3王子も同じ学年って知らないな?」
「いや、それはお父さんからほんのり聞いたというか…。」
「まぁもっと他人に関心もてって。でさ、もう1人話題の人がいてこっちの方がもっと有名。」
「だれ?」
「シャンブルク公爵家んとこのリュークさんも入学するんだってよ。」
「シャンブルク公爵家?リューク?」
「いや、さすがに交友関係狭すぎるお前でもそれは知ってるだろ!シャンブルク家はお前んとこの家の対抗馬で、リュークさんはそこの息子。あの、闇属性が得意な人だって。」


 リューク=シャンブルク。
 思い出した。あの全体的に黒い人か。小さい頃に1度見かけたきりだったから忘れてたな。

 シャンブルク家は昔からシューベルト家と何かとぶつかっているところである。(僕は全く関わってないんだけどね。)確か今までは貴族界において、勢力的にはシューベルト家の方が優勢だったけど、このリュークって人がこれまた扱える人の少ない闇属性の魔術を最大限まで引き出せちゃって(しかもその限度も日々更新しているらしい)シューベルト家と肩を並べれる以上に勢力を盛り返したということで昔おじいちゃんが焦っていた気がする。
 光を持するシューベルト家と闇を持するシャンブルク家。しばらくは話題になってたっけ?(まあ僕はびっくりするくらい関与してないんだけどね。)




「あ、あの人!!」
と、シンが指を指した先には何年か前に見た時と変わらず、黒い髪に黒い目更に黒いローブをまとった全身黒人間ことリューク=シャンブルクがいた。同い年とは思えぬ風貌に、溢れ出すただならぬオーラ。その人の登場で周りの空気がぴんっと張り詰めた気がする。
 あの鋭い目と目が合ったら凍りついちゃうだろうなぁなんて考えていると一瞬、ほんの一瞬だけ目が合った。
 あれ?息が苦しい。吸えないし、吐き出せない。心臓の鼓動が早くなる。耳のそばで心臓が鳴っているのかと思うくらい鼓動がうるさい。頭もグラグラしてきた。そのまま立っていることも出来ずその場に座り込んでしまう。

「おい、大丈夫か?急にどうした!?」とシンが話しかけてくれる。
「アル!深呼吸しろ!深呼吸!!」
 シンが呼吸するタイミングに合わせて僕は何度も深呼吸をする。


 徐々に落ち着いていく呼吸。
「...も、もう大丈夫。」
まだ鼓動は少し早いけど、じきに落ち着くはずだ。大丈夫。
もう一回だけ深く呼吸をして立ち上がる。
「落ち着いた。ありがとう。」
「医務室行く?」
「それほど酷かったわけじゃないし、もう落ち着いてきてるから大丈夫。それに僕達入学式遅れちゃう。」
「うわ!ほんとだ!!急ごう!」
周りを見渡すと僕達以外人はほとんどいなかった。








「終わったー。疲れたー。いやーどこの学園も学長の話は長いもんなんかな?」
 入学式は無事に終了した。始まる前にあった発作も起こることなく無事に終了した。式の途中兄が在校生代表として祝辞を述べていたけど、なんか、かっこよかった。家とは違うキリッとした姿にドキドキしたのは内緒。
「あんた、ほとんど寝てたじゃん。」今度はリーンも一緒だ。僕達は3人で一緒のベンチに座っている。
「だってすんごい話長いんだもん。お経聞いてんのかと思ったわ。それよりさ、見た?噂の平民の子。」
「見た!天使かと思うくらい可愛かった!!」
「天使って、天使ならここにもいるだろ!」と言って僕を指すシン。
「え?」びっくりする僕。
「冗談!!」にかっと笑って手を振るシン。冗談...。
「確かにアルはパーツは整ってるけどなんか地味。でもあの子はなんというか...輝いていた...!!本物の天使のように!!…仲良くなれないかな?」
「地味って、ちょっと傷つくな…。」
「光属性だから輝いてんじゃね?てかさ、仲良くなるならぜってーあの黒人間だろ!」
「あ!リューク=シャンブルクさん!」覚えたぞ!
「あーあのすこぶる黒い人?」
「なんかカッコいいじゃん!落ち着いてるけど堂々としてるオーラ!!男の中の男みたいな感じがさ!」拳を握るシン。
「えー?世界は自分中心に回ってるって考えてそうだからヤダ。私はやっぱりあの天使の子がいい!みた?あの透き通るような髪の毛。輝く瞳。あれを天使と言わずしてなんというの?あぁ名前とか調べとかなくちゃ!」
「はぁ?ぜってー黒人間の方がいいって!!アルはどう思う?」
「えぇ…。どっちにせよ僕には関わりを持つことない人間だと思う。だってそもそも僕は魔力ないし。あの2人はとてつもない魔力を持っているから有名なのであって、僕には遠い存在だよ。」
「まぁな。」
「でもひょんなことから、っていうこともあるし分かんないよ?」
「そーかな?でも可能性は低い気がする。」
「ね、ねぇ。」リーンが呟く。
「あ、あれ噂の…」瞠目した目線の先には

あの平民の子がいた。



 リューク=シャンブルクとは違う意味で空気を一変させたその子。天使の生まれ変わりかと思うくらい可愛らしい見た目。颯爽と歩く後を花が咲いていっても違和感はない。周囲にホンワカとした空気が流れる。

 その子がハンカチを落とした。その子は全く気付く様子もなく、歩みを止めない。ましてや周りの人達はその子に見蕩れて誰も気づかない。僕はおもむろに立って、その子のハンカチを拾う。


「あの!!これ落としましたよ?」






これが僕達の出会い。
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