上 下
12 / 16
Renの記憶

新しい生活 〜謎〜

しおりを挟む
〔カナダ〕
ぼんやりと目に映るものが天井だとわかるまでかなりの時間を要しました。
瞼以外のパーツは全てシャットダウンされピクリとも動きませんでした。
僕は諦めてまた深い眠りに落ちて行きました。


〔日本〕
“ピッピ ピッピ ”
“ポコ ボコ”

“Renく…    Re…”

“先せぃ…   バイ  ルが… ”

幾度となくその音を耳にしていました。でもやはり身体のどの部分も動こうとしません。そしてまた闇の中に落ちて行くと言う繰り返しです。



でもその時はいつもと違う感覚でした。
いつもの暗く冷たいものとはまるで違った…そう、安堵感すら感じていました。

逆光の中のその子は僕の手を引いて走り出しました。
羽毛の上の様な、泡の上の様な不思議な感触の中で僕はその子に抱きつかれました。
気がつくと僕らは裸でした。
温かく柔らかく僕を包むその子の顔を見ようとしますがその子は僕の背後に回り込み僕の胸と股間に手を伸ばして来ます。
不快な感情は無くむしろ身を任す僕でした。
身体中愛撫されとても幸せな気分になりました。

『君とはいつもこうしていたね』

言葉が僕の心に聞こえました。

『待ってたよ…ずっと。ほら、僕をよく見て…』

その子は言いました。




「先生⁈  Ren君が!」

慌ただしく白衣の人が行き交う中で僕はジッと天井を眺めていました。

『あの子は   誰…?』



その日から更に半年、僕はポンコツになった身体をレストアする必要がありました。
指示されたリハビリは僕の身体を順調に復活させて行きましたが『記憶』と言う部分だけはリカバリーできませんでした。

僕が色とりどりのコードやチューブに繋がれている時から小柄で少年の様な女性が頻繁に病室を出入りしている事に気付いてはいました。僕はベッドの上からその人の動きを目だけで追っていましたが僕の視線を感じ取ると彼女は僕の視界から姿を消すのでした。

『美しい人だなぁ、どこかで見た事あるような…』

そして何故か彼女の姿を見た日の夜は決まって淫らな夢を見るのでした。でも不思議な事にそこに登場する人物は老若男女全ての顔に霧がかかり表情を読み取る事が出来ないのです。

それらの人達は音も無く近づき僕の服を全て剥ぎ取り時に僕を拘束し、時に僕に膝まずき、そうして僕の全身を愛撫するのです。濡れた舌がヌラヌラと僕の身体を這い回り尖った乳首を捉えさらに硬く脈打つ肉棒に絡みつき喉の奥まで吸い込まれては吐き出され時折りカリ首に歯を立てられます。またそのイキリたった肉棒に容赦ないバラ鞭の洗練を受ける日もありました。

夢の中の僕はそれを無抵抗で受け入れているのですが、ただ一人その中のある男の子にだけは僕からも彼に対して愛撫の手を伸ばしているのでした。
彼の乳首も背中もお尻も肉棒も独り占めしている自分がいるのです。その時だけ僕は満足し幸せすら感じいるのでした。



そんな日を何日も何日もやり過ごしたある日リハビリを終え部屋に戻るとそこに例の彼女が窓際で外を眺めながら立っていました。

『あれ?彼女久しぶりだなぁ… 』
『 うグッ!』

その背中を見た瞬間に強烈な光と耳鳴りが僕を襲いました。こめかみを押さえ壁に寄り掛かりながら僕は何かを見ました。

『フラッシュバック…か』
『その背中にあるのは…鞭の痕?』

そんな事を考えて体勢を戻した僕に彼女は外を見つめたまま

「Ren君…リハビリは辛いですか?」

そう問いかけて来ました。

「えっ?いえ、もう慣れました」

彼女はやはり外を見たまま微笑み頷いた様でした。

「Ren君は強い子だから。いえ、もう立派な青年ですね」

「失礼ですが…どちら様ですか?」

僕が眉間に皺を寄せて質問すると顔だけをこちらに向けわずかに悲しそうな目で僕を見ました。

コツコツと病室に不釣り合いなハイヒールの音を響かせて彼女は僕の前に立ちました。その顔を間近で見つめるとまたフラッシュバックが…

『ウッ』

軽くこめかみを押さえフラつく僕を支えてくれた彼女の手を掴んだ瞬間にまた映像が浮かびました。
それはとても妖しいもので数人の男女の裸体に鎖や縄が絡みつき皆恍惚の表情を浮かべて床を這う絵でした。その中に僕と彼女もいた様な…

「大丈夫ですか?」

「すみません、今日はリハビリを頑張り過ぎたかな」

「ご無理をなさってはいけませんよ。申し遅れましたが私はお父様の会社の者です」

彼女は僕の手を取りながらベッドに向かいました。

『こうやって以前も肩を借りて歩いた気がするけど…そんな訳無いか』

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

彼女は僕をベッドに座らせるとまた窓際に戻り外を見ながら腕を組み一呼吸置いてから

「今から辛い話をしなくてはなりません。もし…Ren君の体調がすぐれなければ別の日に致しますが」

「大丈夫です。どの道聞かなくてはならない話でしょうし、おおよその見当はついていますから」

「強い人ですね」

彼女は振り返り窓ガラスに背を向けて病室の入口の扉が閉まっているのを確認してから話し始めました。

「まず今回の事でRen君は2つの病院にお世話になっています。最初はカナダの病院、そしてここ日本の病院です。Ren君のお祖父様とお祖母様の強い希望によりカナダの病院から有能な専門医がいるこちらの病院に転院する事ができました。」

「カナダ…僕はカナダにいたのですか?」

「はい、お父様のビジネスパートナーがカナダにいらっしゃる関係で昨年お母様とRen君もそちらに」

「へぇー」

僕は間の抜けた返事しかできずにいました。なぜならカナダについての記憶はおろかそこに至るまでの成り行きも何一つ思い出す事ができませんでしたから。

「話を…続けますか?」

いつの間にか右手の親指の爪を噛み険しい顔になっていた僕に向かって彼女は問いました。

「あっ、すみません。続けてください」

両手をベッドの縁に下ろし頭を下げる僕を見て彼女は話し始めました。

「Ren君がこの様に重傷を負った原因は飛行機事故です。ご一家はファーストエア6560便墜落事故に巻き込まれました」

その内容は次の通りでした。

《ファーストエアが運航するチャーター機のボーイング737-210Cが、20◯◯年◯月◯日に墜落。

乗客数は18名、乗員数3名、生存者数3名
死者数18名。

20◯◯年◯月◯日、現地時間午前11時頃、カナダ北部のイエローナイフからレゾリュートへ向かっていたチャーター便が着陸進入中に乗務員の意図なく自動操縦装置が解除されたことによって、機体が航空路から左に逸れ、乗務員がそれに有効な手を打つ時間がなかったために空港から離れた丘に墜落した。
乗客・乗員21名のうち18名が死亡し、3名が重傷を負いながらも一命を取りとめたのだった。》

そして運悪くRenの両親は18名の内に含まれRenは重傷を負ったものの奇跡的に生き延びたのだった。


その時の僕はただ事故の経緯を事務的に聞いていました。悲しみも驚きも見つけられないでいました。そして神経は正直事故の経緯を冷静に語る彼女の唇の動きに集中していました。

『あの柔らかそうな唇に触れたい…あの赤い唇に肉棒をねじ込みたい』

そんな淫らな事を考えているとパジャマの股間がムクムクと膨らんで行くのを感じ慌てて枕を掴み膝に乗せて股間を隠しました。そんな僕を見ながら彼女は言いました。

「ご両親の事は大変残念ですがお力落としの無い様に、あなたは決して一人ではありません。」

「はい、でも退院後は…僕はどう…」

「ご心配には及びません。明日会長…いえ、お祖父様がRen君のお見舞い方々今後の生活の説明に参られます」

「会長?お祖父さん…が」

「はい、お祖父様ご夫妻もまた長い間国外にお住まいでお父様に社長を譲られ会長になられ…」

「・・・・・」

「全く覚えがありませんか。そちらの話は追々。会長もお年を召している為に私がRen君のの面倒を見る様に仰せつかっているJiJi…失礼、あ~ “Jun”と言います」

そう言って不意に僕の隣に腰掛けました。僕はJunの顔を間近で見つめながら

「全ての…面倒を?」

「そう、全て。この私が」

そう言って枕と太腿の間に指を這わせました。

「怪我は 痛みはありませんか?」

「(はぅ) は、はい もうそれほど」

「無理してはダメですよ。焦らない事です」

そう言いながら細い指は奥へ進み硬い肉棒をひと撫でして去って行きました。自分の意思とは別に僕の身体はピクピクと痙攣を起こし意識が薄れました。

『あぁ もっと触れて、強く握って欲しいィ  虐めて欲しいの』

不思議な感覚が僕を包み込んで僕はだらしなく口を開き舌を伸ばしていました。

「さあ、少し横になって」

彼女は僕を見下ろしながら

「あなたはどちらの道を歩くのかしら」

Junの声を遠くで聞きながら僕はベッドに横になりそのまま軽い眠りに落ちて行きました。



『ああ JiJi  また逢えたね』
僕の中で声がしました。
しおりを挟む

処理中です...