よっしー

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ある所に、精神が病んでしまった女がいました

女には、訳もなく沸き上がる怒りや悲しみに飲み込まれ、錯乱し、泣き叫んでしまう事が度々おこります

自分が自分でなくなってしまう病気なのです


女には男の子が一人いて、心からその子を愛していました

けれど一度、たった一度だけ、男の子に手を上げてしまった時がありました

愚かな女はその時の男の子の顔を、きっと一生忘れないでしょう

その時の手の痛み、心の痛みがいつまでも残り、一生苦しみ続けるでしょう

それが、愛する弱きものへ手を上げてしまった事の罰なのです


それ以来、女は怒りを自分自身に向け始めました

自分の足を、腕を、力任せに殴るのです

頭を壁に打ち付け、腹に爪をつきたて、感情の波が引くのを待つのです

そんな時、男の子はいつも懇願します

「ぼくをぶって! ママが痛いのはいや!」


そんな事を言わせるために産んだのではないのです

そんな思いをさせるために育てているわけではないのです

愛しているから、幸せになってもらいたいから

誰よりも何よりも、ましてやおかしくなってしまった自分などよりも、ずっとずっと大切だから

なのに……


男の子はいつも言います

「ママ大好き。ぼくはママ大好き」

泣き崩れる女の頭を撫でるのです

小さな小さな腕で、抱き締めるのです

男の子の優しさが女をますます苦しめ、罪悪感ばかりがつのります


ああ神様

どうかどうか普通の暮らしをさせてください

心がいつでも平穏で過ごせるだけで良いのです

私はもうおかしくなっていくばかりなのですか?

それならばこの子の前からいなくなってしまいたい


もうあなたを傷つけたくないの……

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