レガロ~私が見えている好感度は、私が相手に抱いている好感度です~

文字の大きさ
上 下
5 / 9
序章

五話

しおりを挟む
 慎からの勧めを断る間もなく、遥はその場に控えていたメイド達によってあれよと言う間に検査着に着替えさせられた。
 優斗が全く動じず、何なら他のメイドから紅茶のおかわりまで貰って黙々とマカロンを頬張っているのを見て、遥は、そんなところもさまになっていると呑気に考えてしまった。
 実際、優斗が異論を述べないのは、彼女にも思うところがあるという事だろう。
 そんな優斗を置いて、遥は慎に連れられ応接間の外に出た。

 検査室へ行くらしく、足取りに迷いがない慎を追うように歩いていく。
 慎は歩きながら、遥に、心底申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「本当に突然ですまない。だが、どうしても確認しておきたいことがあるんだ」

 慎の申し訳なさそうにする姿に対しても、流石兄妹、と遥は思う。
 優斗のそういった表情をあまり見たことはないが、美男美女というのはどんな顔をさせても似合ってしまうものだ。

「とんでもない。こちらこそ、お手を煩わせてしまいましたね」

 遥が、やはりキラキラと輝かんばかりの笑顔で答える。

「うっ、まぶしっ…きみ、本当になんというか…女性に対して言うのはあれかと思うが、王子様みたいだな…」
「最高の褒め言葉ですよ」

 笑顔を振りまく遥に、慎は呆気にとられてばかりだった。

「きみを保護下に置くからある程度──」
「保護ではなく協力者です」

 遥が大人しく保護されるわけないのだ。

「…はぁ。ここは国が所有する、贈り物に関する研究や取り締まりを行っている、国家贈り物レガロ研究機構という場所だ。表向きは、国が贈り物を研究している場所になっているが、実際は、贈り物の力を使った犯罪の取り締まりに関係する部署の人間も、多く身を置いている」
「取り締まり?」
「ああ。贈り物を使った犯罪は、なにも、組織的なものだけではないんだ。例えばちょっとした万引きとか、他者の人権を脅かしかねないものとか、個人の感情で起こり得るものもあるんだよ」

 遥は納得した様に頷いた。
 贈り物を持っていない人間でも道を踏み外せばやらかしそうな犯罪だが、贈り物を持っている者とそうでない者とでは、その巧妙さが格段に違う。

「それらを取り締まる、贈り物持ちを専門にした警察機関と、研究所が一体化しているんだ」
「大規模ですね」
「ああ。なにせほとんど国家機密に相当するからね」

 なかなかハードな内容ではないのか、と思いながらも、自分のために、好感度ゼロと言えど斎藤が巻き込まれたともなれば、放っておくことは出来ない。
 それは遥のちょっとしたプライドなのだが、そのおかげで今、落ち着いて話を聞いていられるというものだった。

 暫く歩くと、周囲の人たちの姿はスーツからドクターコートへと変わっていった。
 どうやら研究部門の人たちの様だったが、すれ違う慎に次々と会釈をしていく。
 慎は制服姿で、特にスタッフ証の入ったネックホルダーをぶら下げていないのだが、まるで誰もが慎の顔を知っている様だった。

「みんな、先輩の顔を知ってるんですね」
「ああ。俺はここの一員だからね。言っただろう?」
「それにしたってカオ広すぎやしませんか?自分がいる部門ならまだしも、明らかに部門が違いますよね」

 美男美女というのは、やはりそれだけで有名になるというものなのだろうか。
 そう考えたあとに、遥はまじまじと慎を見あげる。
 うん、顔がいい、眼福だ。
 慎が視線に気付いたのか、微かに顔を赤くして遥へと顔を向ける。

「な、なんだい?ジロジロ見て」
「いやぁ、眼福の極みだなと思って」

 遥は慎が照れている事に、もちろん気付いている。
 気付いているが、笑顔でさらりと返す。
 これが検査着ではなければさまになっていたが、悲しいかな、遥の今の格好は検査着だ。
 だが、遥はそんなことに構いやしなかった。

「よしてくれ…慣れてないんだ」
「愛でたいものを愛でて何が悪いんです?」

 遥の笑顔は、それはもう清々しいものだった。

 暫く歩くと、先程の応接間同様、『検査室』と書かれた扉の前につく。
 やはり自動ドアの隣にはセキュリティリーダーが設けられ、セキュリティーカードがないと開かない様になっている。
 当然中を見ることも出来ない。
 慎がポケットからストラップを出し、先ほどと同じようにセキュリティリーダーにタッチする。

「そういえば、予約とかしてないですよね?検査できるんですか?」
「ああ、そこは問題ないよ。安心してくれ」

 自動ドアの向こう側には、ドクターコートを着た何人もの人が忙しなく動いていた。
 パソコンのモニターが置かれたデスクの前で、ああでもない、こうでもないと口にしてる数人のグループや、書類を抱えて移動する人、遥には使用目的がわからない機械の前で顎に手を当て考え込んでいる人。
 かなり広い空間で、恐らく遥が認識しているよりも更に多くのスタッフが働いているだろう規模だった。

「きみ、ちょっと良いかな」

 慎が遠慮なしに、近場にいたドクターコートの女性に声をかけた。
 声をかけられた女性は嫌な顔一つせず、寧ろ、慎を見て深く頭を下げた。

「彼女の検査をしたいんだ」
「畏まりました」

 鶴の一声ならぬ慎の一声で、スタッフが動き出す。
 そばで聞いていた数人のスタッフが同時に準備に取り掛かった。
 遥はその様子を見ると、目を丸くした。
 予約どころか事前連絡すらしていない様だった。
 慎一人の言葉で、何人ものスタッフが同時に動きだすとは、ただ美男美女の兄妹だからという理由で、なんてレベルの話からはだいぶ遠い気がしてならない。
 広い応接間には多数のメイドや執事、迎えのリムジン、リムジンで初老の執事がしていた『お嬢様』『お坊ちゃま』という呼び方。

「う~ん、美男美女の兄妹、ただモノじゃないって事か」

 遥は口元を引きつらせ、呟いた。
 慎の耳にそれが届いたのか、「だからその呼び方はやめてくれ!」と顔を赤くして言う。

「準備が整いました。こちらへどうぞ」

 慎が声をかけた女性のほか、機械の前で顎に手を当てていたスタッフも、パソコンの画面を見ながらああでもない、こうでもないとディスカッションしていた複数人のスタッフも、慎と遥に視線を向ける。
 いつでも準備万端といった具合で、遥は言われるままに検査を受けることになった。

 血液検査から始まり、MRIの様な機械で身体内部の検査、唾液による遺伝子検査…
 複数の検査が終わった頃には、すっかり夜の七時を回っていた。
 検査の結果が出るまでには数日かかるようで、遥はリムジンに乗せられて家に送ってもらったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

一夜の男

詩織
恋愛
ドラマとかの出来事かと思ってた。 まさか自分にもこんなことが起きるとは... そして相手の顔を見ることなく逃げたので、知ってる人かも全く知らない人かもわからない。

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

処理中です...