私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが

雪丸

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16.このままで

8話

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 その日の放課後、クロード様が用事があるというので校庭のベンチで終わるのを待っていると、校舎の影からこそこそと誰かが姿を現した。

 怪訝に思って目を向けると、そこにいたのはローズマリーさんだった。彼女は制服ではなく、白いブラウスに焦げ茶色のスカートという目立たない恰好をしている。

 ローズマリーさんは人目を避けるように周りを見回した後、真っ直ぐこちらへ歩いてきた。

「エミリア様、どういうおつもりですか?」

 ローズマリーさんは私の座っているベンチの前まで来ると、顔をしかめて言う。

 先日も誰かからも聞いたようなセリフに、溜め息が漏れる。彼女も私が山での件を学園に報告したことを抗議しにきたのだろうか。


「……確かに私は山小屋でのことを学園に報告しました。報告しないわけにはいかないでしょう? けれど、あなた方が役人に捕らえられたりしないよう、チャームに入れられた魅了薬の件は伏せて説明したのですから……」

「それが問題なんです! なぜわざわざ魅了の薬のことを隠したんですか!! 情けをかけたつもりですの!?」

 ローズマリーさんは苛立たしげに声を荒げる。私はぽかんとして彼女を見上げた。


「……全て話してよかったのですか? そうしたら牢獄に入れられるのは避けられなかったと思いますけれど」

「私は敵に情けをかけられるのが一番嫌いなんです! そんなことされるくらいなら、牢獄に入れられた方がましでしたわ!」

「敵って……」

 悔しそうに言うローズマリーさんに、戸惑いの目を向けることしかできない。殺人未遂の容疑をかけられて牢獄に送られることより、そんなプライドのほうが大事なのだろうか。

 私は困惑しつつ、言っておかなければならないことを告げる。

「……わかりましたわ。敵で構いません。それと、何もかもなかったことにするつもりはありませんので覚えておいてくださいね。ミアさんにも忠告しましたけれど、もし次に同じようなことがあればその時は今回の件も含めて全て公にしますから」

「次が起こらなければ大目に見てくださると? さすがエミリア様ですわ。育ちの良い方って考えが甘いのね!」

 ローズマリーさんは蔑むような笑みを浮かべて言う。今回は見逃してあげると言っているのに、なぜここまで攻撃的な態度なのかと、彼女の考えが理解できなかった。
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