私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが

雪丸

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15.助け

3話

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 ドアにぶつかる音はどんどん激しくなっていく。さらに後ろの方からも、木製の壁を引き裂くような嫌な音が聞こえてきた。

 何度も叩きつけるような音が響き、ついにより一層大きな音と共に、扉が破られる。扉の前に置いていたテーブルや椅子は、あっけなく跳ね飛ばされた。

 震えながら、扉の向こうから現れたその獣を見つめる。

 真っ黒な毛に、血のように赤い目をした狼型の魔獣だ。荒い息をするその口元に鋭い牙が見え、体から血の気が引く。

 魔獣はじりじりとこちらに近づいてきた。

 私はそばにあった椅子を持ち上げるが、こんなもので魔獣に勝てるわけがないのはわかりきっていた。

 魔獣はじっと観察するようにこちらを眺める。

 それから勢いよく飛びかかってきた。

 反射的に投げた椅子は、魔獣の脇をあっさりすり抜けて地面に落ちる。近づいてくる魔獣に、ぎゅっと目を瞑った。

 ああ、もうだめだ。私はきっとこの獣に喰い殺される。

 頭の上で、何かが引き裂かれるような鈍い音がした。


「……?」

 目を瞑ってこれから来るであろう痛みに構えていたのに、痛みは一向に襲ってこない。

 おそるおそる目を開けると、目の前には背中から血を流して倒れている魔獣の姿がある。

「え……」

「エミリア!!」

 聞き慣れた声に反射的に顔を上げる。

 するとそこには汗だくで息を切らしてこちらを見るクロード様がいた。彼の右手には真っ赤な血の滴る剣が握られている。

「クロード様……?」

「ああ、エミリア。無事でよかった……」

 クロード様は私の腕を掴む。その顔は今にも泣き出しそうだった。

 どうしてクロード様がここに、と尋ねようとした途端、後ろから別の魔獣が近づいてくる。


「クロード様、危ない!」

 クロード様はばっと後ろを振り返り、襲い掛かってきた魔獣を切りつけた。魔獣は苦しそうに呻いて倒れ込む。

 魔獣は次から次へと襲ってきた。クロード様はその度に剣を突き立て倒していく。

 その間も決して私の前から離れようとしなかった。魔獣が近づかないように私を背でかばいながら、襲ってくる魔獣を切り伏せていく。

 最後の魔獣を倒すと、クロード様は息を切らして血を流す魔獣を眺める。

 そしてぱっとこちらを振り向いて、私の両肩を掴んだ。
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