私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが

雪丸

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15.助け

1話

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 ローズマリーさんに山小屋に置き去りにされてから、私はただじっと部屋の隅で縮こまっていた。

 外は相変わらずの雨で、窓を打ち付ける雨音はどんどん強くなっていく。

 肌寒さに自分で自分を抱きしめるように腕を抱える。

「私ってだめね……」

 今まで違和感を持ったことは何度かあったのに、それを無視して嵌められるなんて。今日だって、どんどん山奥へ進んでいくローズマリーさんをきっぱり止めていれば、こんなことにはならなかったのだ。

 自分で自分が嫌になる。

 私がここに置き去りにされていることを、そのうち誰かが気づいてくれるだろうか。この辺りには全然人の姿が見えなかったから、山に来ている人に気づいてもらうのは難しいかもしれない。

 さすがに夜になっても帰らなければ、両親や兄は私を探してくれるはずだ。しかし、見つけてもらえるのはいつになるのだろう。

 私は夜中の間ずっとここで怯えていなければならないのかもしれない。

 そう考えると心が一層重くなる。


「……?」

 ふいに、小屋の外で低い声が聞こえたような気がした。扉の近くに行き耳を澄ませる。

 声はだんだん近づいてくるようだった。よく聞いていると、それは声というより、獣の鳴き声のようであることに気づく。


「まさか、魔獣がもう集まって来たの……?」

 恐怖に思わず後退りする。

 胸に染み付いた液体を、青ざめながら眺めた。ローズマリーさんの言っていたことは、脅しではなく本当だったのか。

 まだ置き去りにされてから一時間も経っていないはずだ。夜が明けるまでには何時間もある。明け方までこの小屋の中にいて、無事でいられるのだろうか。

 獣の鳴き声は、そう考えている間にもどんどん近づいてきていた。一匹の声ではない。何匹もの獣が、こちらに集まってくるのを感じる。

「やだ、やめて、来ないで……!」

 私は何をすることもできないまま、両耳を手で押さえて床にしゃがみ込んだ。

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