私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが

雪丸

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13.憎しみ

3話

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 大変だけれど、山を歩くのは楽しかった。珍しい植物がたくさんあって、時折小鳥やウサギの姿が見える。ローズマリーさんとそれらを見つけてはきゃっきゃと騒いで、とても楽しい時間だった。

「エミリア様、今度はあっちへ行ってみましょう!」

 ローズマリーさんははしゃいだ様子で私の手を取って言う。

 けれど、私は少し迷ってしまった。

 ローズマリーさんは先ほどから、山の奥深く深くへと進んでいるのだ。

 まだほかの人もいる安全な範囲内の場所とはいえ、当初は低地を少し回って終わりにする予定だったので、これ以上進んでいいのか戸惑った。


「あまり進み過ぎると危険じゃありませんか? この山、奥には魔獣をいると言われていますし……」

「この辺りなら全然大丈夫ですよ! 魔獣がいるのはもっとずっと奥です! 私、前にここよりもっと深くに行ったことありますもの。それに、まだこんなに人もいるではありませんか」

 ローズマリーさんは明るい声で言うと、私の手を引っ張って行く。私は少し戸惑いながらも、彼女の後に続いた。

 ローズマリーさんはどんどん山の奥へ進んでいく。先ほどまではすれ違っていた人もほとんど見かけなくなり、道も獣道のようになってきた。空の色までだんだんと灰色がかってくる。

「ローズマリーさんっ!」

 それでもまだ生い茂る木の間を躊躇なく進もうとする彼女を見て、さすがに制止した。

 振り返ったローズマリーさんは、不思議そうに首を傾げる。

「どうしましたか?」

「どうしましたかじゃなくて……。これ以上進むのはさすがに危険ですよ。そろそろ戻りましょう? もう全然歩いている人もいませんよ」

 そう言うと、ローズマリーさんの目が一瞬鋭く光ったような気がした。
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