私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが

雪丸

文字の大きさ
上 下
103 / 138
13.憎しみ

2話

しおりを挟む

◇◇◇

「————というのが、今回の事件の経緯けいいだ」

 エリオットが立ち去った後、生徒会と風紀委員会を始めとした、委員長会の会議を行っていた。
 先日行われた新入生歓迎会についての情報交換の会議であり、エリオットが巻き込まれた事件についての経緯いきさつを説明していた。

「でもさぁ、僕ずっと思ってたんにゃ」

 アランの事の経緯いきさつの説明が終わると、リルが口を開いた。

「用意した膨大の料理が破棄されるからって、新入生歓迎会を中止しなくていい理由にはならないと思うにゃ。どう考えても、人の生命の脅かす事件があったのなら中止するのがだと思うというのに、どうしてアーくんはその正常な判断が出来なかったのかにゃ?」

 鋭い眼光が、アランに向けられる。
 リルが言うことはもっともだ。
 だというのに、俺様はその判断を下すことは出来なかった。
 被害者が悪くないとしても中止になった原因が露呈してしまえば糾弾され、せっかく復学してくれたというのにまた休学まで追い込まれてしまう。
 それに対処するために生徒会が関与してしまえば、ディアナが言う通り親衛隊が動き出してしまう可能性も無きにしも非ず。
 被害者のことを考えると、どうしても中止という答えが出せなかった。
 料理が破棄されてしまうからという理由は、ただのカモフラージュにしか過ぎない。

「……まぁ、僕はアーくんの考えてることは解るから別にいいんだけど」

 じっとアランを凝視していたリルは、息を吐くように呟いた。
 もし『俺様の力があれば大丈夫だ』と、キリッとした表情でそんな戯言を言い出したら、寝不足が原因で頭がおかしくなったという記事でも書こうと思ってたんだけどにゃぁ……。いや、それは僕が炎上するからやめておいた方が吉かにゃ。

「僕からはもういいかにゃ。他の委員長たちは何か言いたいことがあったりするのにゃ?」

 リルは両の手の甲に顎を乗せると言葉を発した。

「べつに、強いていえば今すぐ水に浸かりたい」
「水に……って、ハーくんは相変わらず水に浸かりたがるね~」

 双葉のようなアホ毛を生やしている彼は、ハイド・クルシアナシンシア。緑化委員会の委員長である、3年生。
 毎日のように光合成や水に浸かって瞑想するのが日課……というか、いつ見ても噴水に浮かんでいる謎の人物だ。
 水を操る能力に長けていて、よくその力で花たちに水やりしているのを見掛けたりしている。

「それなら、体育祭のことでも話そう!! そうだ!! 今年こそ、ボディービルダーコンテストでもするべきだ!!」
「昨年も言っただろ。需要がお前にしかない、却下だ」

 アランに却下されたこの人物は、ニコラス・ノルドランデル。体育委員長であり、筋肉馬鹿。
 厚い胸板に、発達した上腕二頭筋を始める筋肉。
 僕はこっそり筋肉ダルマと呼んでいるのにゃ。
 とにかく暑苦しく声が大きくて脳筋。
 脳筋に関しては、風紀副委員長であるジェラールといい勝負である。

「…………で、ラディリアス。いい加減起きてくれ」

 ディランが声を掛けると、ゆっくりもそもそと動き出す人物。
 クマの抱き枕から顔を出すと、口を開く。

「……何? もう、終わった?」
「まだ終わってない。せめて会議中くらいは起きてくれ」

 彼の名前はラディリアス・アールクヴィスト。保健委員長である。
 相棒と呼べるほど持ち歩いているクマの抱き枕に、アイマスクを身に付けている。
 いつ見掛けてもアイマスクを付けており、その下の素顔は誰も見た事がないと言われている。
 ……まぁ、僕は一度見たことがあるんだけどね。
 一応自分ととして、興味深いが、ああいうぽけ~としている人物こそ要注意だったりする。
 あまり深く関わって地雷でも踏んでしまえば、一大事になりそうだ。

「じゃあ、終わったら起こして……」

 ラディリアスは、また再度抱き枕に突っ伏して寝息を立てた。

「ラディリアスっ」
「ディラン、もう今日は終了にしよう。一応新入生歓迎会についての会議は出来たからな」
「……アランがそれでいいなら」

 こうして一応会議は終了し、委員長たちは会議室を後にする。

「リル」

 アランは、この場を後にしようとしているリルを引き止めるように声を掛けた。

「ん? なんだい、アーくん」
「あの事件の一件だが、お前が言った通り被害者に処分を一任させた」
「お! そうかそうか、で? 結果はどうなったんだ!!」

 きらきらとした真っ直ぐな目で此方を正視しているリルに、アランは不思議そうに首を傾げる。
 どう考えても、リル本人に全て伝わっていると思っているからだ。

「被害者は今回の一件を不問にするようだ」
「————え?」

 豆鉄砲を食らったかのように、リルは目を丸くした。

「それだけだ。じゃあな、俺様は仕事に戻る」

 そんなリルの表情には気が付かず、アランは生徒会室へと戻って行った。

「……おかしいなぁ……。てっきり国の衛兵を呼び寄せ、事件化させると思ってたんだけどにゃぁ……」

 自分の予想が大ハズレし、顎に手を添える。
 すると、いい事を思いついたと言わんばかりの笑顔を浮かべた。

「それなら、この広報委員会委員長である僕が直々に取材するべきにゃ!!」

 それは名案だと、軽くスキップしながら廊下を歩いて行った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ
恋愛
 伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。  けれど。 「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」  他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

処理中です...