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13.憎しみ
2話
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「————というのが、今回の事件の経緯だ」
エリオットが立ち去った後、生徒会と風紀委員会を始めとした、委員長会の会議を行っていた。
先日行われた新入生歓迎会についての情報交換の会議であり、エリオットが巻き込まれた事件についての経緯を説明していた。
「でもさぁ、僕ずっと思ってたんにゃ」
アランの事の経緯の説明が終わると、リルが口を開いた。
「用意した膨大の料理が破棄されるからって、新入生歓迎会を中止しなくていい理由にはならないと思うにゃ。どう考えても、人の生命の脅かす事件があったのなら中止するのが正常な人間の判断だと思うというのに、どうしてアーくんはその正常な判断が出来なかったのかにゃ?」
鋭い眼光が、アランに向けられる。
リルが言うことは尤もだ。
だというのに、俺様はその判断を下すことは出来なかった。
被害者が悪くないとしても中止になった原因が露呈してしまえば糾弾され、せっかく復学してくれたというのにまた休学まで追い込まれてしまう。
それに対処するために生徒会が関与してしまえば、ディアナが言う通り親衛隊が動き出してしまう可能性も無きにしも非ず。
被害者のことを考えると、どうしても中止という答えが出せなかった。
料理が破棄されてしまうからという理由は、ただのカモフラージュにしか過ぎない。
「……まぁ、僕はアーくんの考えてることは解るから別にいいんだけど」
じっとアランを凝視していたリルは、息を吐くように呟いた。
もし『俺様の力があれば大丈夫だ』と、キリッとした表情でそんな戯言を言い出したら、寝不足が原因で頭がおかしくなったという記事でも書こうと思ってたんだけどにゃぁ……。いや、それは僕が炎上するからやめておいた方が吉かにゃ。
「僕からはもういいかにゃ。他の委員長たちは何か言いたいことがあったりするのにゃ?」
リルは両の手の甲に顎を乗せると言葉を発した。
「べつに、強いていえば今すぐ水に浸かりたい」
「水に……って、ハーくんは相変わらず水に浸かりたがるね~」
双葉のようなアホ毛を生やしている彼は、ハイド・クルシアナシンシア。緑化委員会の委員長である、3年生。
毎日のように光合成や水に浸かって瞑想するのが日課……というか、いつ見ても噴水に浮かんでいる謎の人物だ。
水を操る能力に長けていて、よくその力で花たちに水やりしているのを見掛けたりしている。
「それなら、体育祭のことでも話そう!! そうだ!! 今年こそ、ボディービルダーコンテストでもするべきだ!!」
「昨年も言っただろ。需要がお前にしかない、却下だ」
アランに却下されたこの人物は、ニコラス・ノルドランデル。体育委員長であり、筋肉馬鹿。
厚い胸板に、発達した上腕二頭筋を始める筋肉。
僕はこっそり筋肉ダルマと呼んでいるのにゃ。
とにかく暑苦しく声が大きくて脳筋。
脳筋に関しては、風紀副委員長であるジェラールといい勝負である。
「…………で、ラディリアス。いい加減起きてくれ」
ディランが声を掛けると、ゆっくりもそもそと動き出す人物。
クマの抱き枕から顔を出すと、口を開く。
「……何? もう、終わった?」
「まだ終わってない。せめて会議中くらいは起きてくれ」
彼の名前はラディリアス・アールクヴィスト。保健委員長である。
相棒と呼べるほど持ち歩いているクマの抱き枕に、アイマスクを身に付けている。
いつ見掛けてもアイマスクを付けており、その下の素顔は誰も見た事がないと言われている。
……まぁ、僕は一度見たことがあるんだけどね。
一応自分と同じ眼を持つ者として、興味深いが、ああいうぽけ~としている人物こそ要注意だったりする。
あまり深く関わって地雷でも踏んでしまえば、一大事になりそうだ。
「じゃあ、終わったら起こして……」
ラディリアスは、また再度抱き枕に突っ伏して寝息を立てた。
「ラディリアスっ」
「ディラン、もう今日は終了にしよう。一応新入生歓迎会についての会議は出来たからな」
「……アランがそれでいいなら」
こうして一応会議は終了し、委員長たちは会議室を後にする。
「リル」
アランは、この場を後にしようとしているリルを引き止めるように声を掛けた。
「ん? なんだい、アーくん」
「あの事件の一件だが、お前が言った通り被害者に処分を一任させた」
「お! そうかそうか、で? 結果はどうなったんだ!!」
きらきらとした真っ直ぐな目で此方を正視しているリルに、アランは不思議そうに首を傾げる。
どう考えても、リル本人に全て伝わっていると思っているからだ。
「被害者は今回の一件を不問にするようだ」
「————え?」
豆鉄砲を食らったかのように、リルは目を丸くした。
「それだけだ。じゃあな、俺様は仕事に戻る」
そんなリルの表情には気が付かず、アランは生徒会室へと戻って行った。
「……おかしいなぁ……。てっきり国の衛兵を呼び寄せ、事件化させると思ってたんだけどにゃぁ……」
自分の予想が大ハズレし、顎に手を添える。
すると、いい事を思いついたと言わんばかりの笑顔を浮かべた。
「それなら、この広報委員会委員長である僕が直々に取材するべきにゃ!!」
それは名案だと、軽くスキップしながら廊下を歩いて行った。
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