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7.花と妖精のお祭り
4話
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クロード様の言っていた『妖精と花の迷路』という作品を好きだと言ったのは、三年も前のことだ。
お祖母様のお屋敷に行ったときに原作の本を読んですごく好きになったのだけれど、古い作品なのでその本を元に作られたと言う映画を観られる場所はどこにもなかった。
それをクロード様に残念だと話したのを覚えている。
あの時のクロード様は曖昧にうなずくばかりで、私の話なんて聞いてもいないように感じたのに。まさか覚えていたなんて。
「クロード様」
後ろから呼びかけると、クロード様はぴたりと足を止めてこちらを振り返った。
「なんだ?」
「本当に『妖精と花の迷路』の観られる劇場を予約してくれたんでしょうね」
尋ねるとクロード様は目をぱちくりする。それから私の言いたいことがわかったのか、大きくうなずいた。
「もちろんだ! しっかり二人分の席を取ってある!!」
「それなら……行ってあげてもいいですよ。あの映画を観られる機会なんて滅多にないでしょうし、この際一緒に行く相手は選べませんわ」
自分でもどうかと思うほど可愛げのない言い方で了承すると、クロード様はぱっと目を輝かせた。
「本当か!? ありがとう、エミリア! 今度は誰が声をかけてきても、絶対エミリアを一人にしないから!」
「期待はしないでおきます」
澄まして答えたのに、クロード様は嬉しげな顔をするばかり。
クロード様がそんな態度だと、調子が狂ってしまう。なんで今さらになって態度を変えるのだと、不満で仕方ない。
けれど、クロード様の笑顔を見ていたら、無意識のうちに私の頬も緩んでいた。
お祖母様のお屋敷に行ったときに原作の本を読んですごく好きになったのだけれど、古い作品なのでその本を元に作られたと言う映画を観られる場所はどこにもなかった。
それをクロード様に残念だと話したのを覚えている。
あの時のクロード様は曖昧にうなずくばかりで、私の話なんて聞いてもいないように感じたのに。まさか覚えていたなんて。
「クロード様」
後ろから呼びかけると、クロード様はぴたりと足を止めてこちらを振り返った。
「なんだ?」
「本当に『妖精と花の迷路』の観られる劇場を予約してくれたんでしょうね」
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「期待はしないでおきます」
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クロード様がそんな態度だと、調子が狂ってしまう。なんで今さらになって態度を変えるのだと、不満で仕方ない。
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