万能少女、天ヶ瀬月夜

楪 紬木

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第1話 私、なんでもできますから

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 三日月がよく映える、夜。街の灯りがきらめいており車通りもさかんな都内……そのはずれ、閑散かんさんとした通りにて。とある事件が発生していた。

 「ニャ―ン」 

 廃ビルの十階。窓のふちに座り、困り果てた黒猫が助けを求めている。

「通報を受けて来てみたが……これはどうしたものか」 

 初老の警察官が顔をしかめて思案しあんふけっていた。

「何かして助けてあげてください! お願いしま!」 

 通報した本人である茶髪の女性が両手を合わせて懇願こんがんしている。
 ……酒瓶を小脇にかかえた酩酊状態よっぱらいだが。

「しかしなぁ……」 

 うーん、とうなり声を上げる警官。

 と、そこに。
 
「お困りですか」 

 凛と透き通る声が、響き渡った。

 警官と茶髪の女性がおもむろに振り返ってみると。

 夜のとばりのようにさらりと流れる長い黒髪。美術館の彫刻さながらに端麗たんれいな顔立ちと、ぷるりとした瑞々みずみずしい唇。その切れ長なひとみは、見る者全てをとりこにしてしまうだろう。そして恰好かっこうは……メイド服。
 そんな相貌そうぼうをした少女が、長い背筋をピンと伸ばして立っていた。

「え……っと、君は……」 

 警官は思わずたじろいでしまった。そうしているうちに。

「状況は概ね理解しました、わたくしに任せてください」 

 警官と茶髪の女性の間を通り過ぎて、ずんずんと廃ビルの方へ歩を進めていくメイド姿の少女。

「……あっ、ちょっと! そっちは危険だからこっちへ来なさい!」 

 はっとして気づいた警官が、手招きしながら呼び止める。

「大丈夫です」 
「だ、大丈夫って……何が!」 

 メイド姿の少女は警官へと振り向き、三日月を背にして月光を浴び、黒髪をなびかせながらこう言い放った。

「私、なんでもできますから」 

 そしてその台詞セリフの、刹那せつな――。

 廃ビルの十階へと跳躍し、窓際へ着地した。

 跳んだ衝撃波で突風が巻き起こる。

「おおう、ごい」 
「………………」 

 茶髪の女性は、素っ頓狂な反応をした。
 警官は目を丸くして、絶句。当然である。華奢きゃしゃに見える少女が、突然とんでもないジャンプ力で遥か上空へと向かったのだから。

 少女は黒猫を優しく抱きかかえた。
 そして、飛び降りて戻ってくる。着地音はカッ、という静かな靴音だけだった。
 
「ニャオン」 

 するりと少女の繊手せんしゅから抜けて、どこかへ走り去った黒猫。 それを見てメイド姿の女性が微笑みながら、一息ついた。しかし。

 次の瞬間、なぜか屋上から瓦礫がれきが落下してきた。

 「ッ、危ない!」 

 走り込みながら警官が叫んだ。

 ――くそっ、間に合わない……! 

 しかし、メイド姿の少女は落ち着いた様子で。
 ふところから短刀ダガーを一つ、取り出した。そして。

「ハァッ!」 

 それを上空へ風切り音を立てて投擲とうてき。短刀は瓦礫に直撃し、もろとも粉々に砕け散った。

「えぇっ……」 
ごい手品らねー」 

 警察官、ドン引き。酔いどれ女性、感動。

「……はっ」 

 そんな二人を見て、何かに気づいたメイド姿の少女。
 スカートの両端をつまみながら、しずしずとお辞儀をして。

「申し遅れました。わたくしは、天ヶ瀬月夜。リイン邸、専属のメイドでございます」 
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