シールドランド物語 第一部 カタ=リナの少女

第六章

第六章第四節 奏上

宮殿の王座の間には緊張が走った。アレンがリザ男への疑念を声に出すと、国王エドモンドが彼を制した。「控えよ、アレン。この者は先の武闘会で類稀なる成績を残した。誠に天晴れであった。故に、無作法の極みなれど、この場での口述を許す。申せ」

リザ男は深く一礼し、畏まって言葉を紡ぎ始めた。「ありがたき幸せ。私の怒りは、すべて、そこにいる宮廷賢者に起因するのでございます。カタ=リナの聖女殿が蘇生の秘術を使えるのは、その男が聖女殿に送った黒い首飾りを身につけていたからなのであります！」アレンは激しく反論した。「いい加減なことを、何を証拠に！」

その時、凛とした女性の声が王座の間に響き渡った。「わたくしが証人です。」カタ=リナの聖女だった。
彼女は堂々と歩みを進める。足元には薄汚れた黒猫がいて、その周りの全てに気を向け、彼女に危害を及ぼそうとする者に無言の警告を発していた。

聖女の姿を見た宮殿内の全員が息をのんだ。彼女の存在がリザ男の言葉に重みを加え、王座の間にいた者たちの間に疑念の種をまき散らした。アレンは口を閉ざし、エドモンド国王は深く思索に耽る。

聖女はゆっくりと前に進み、自らが目の当たりにした真実を語り始めた。彼女の言葉は、王座の間にいる全員に、これまで隠されていた陰謀の全貌を明らかにしていく。
「黒い首飾りは、その恐ろしい呪いで、人に治癒の力を与える代わりに、大量の生命力を要求しました。そして、その極たる蘇生の術を使う際には、更に大きな代償を必要とたのです。」

彼女の声は震えていた。「私が、私が将来孕っていたであろう、赤子の‥ 私の大切な赤ちゃんの命です。」その告白は、王座の間にいる全員の心を重くした。

国王エドモンドの表情が一瞬にして曇り、深い悲しみが彼の顔に浮かんだ。「そのような代償を‥。」彼は言葉を失い、ゆっくりと聖女のもとへ歩み寄った。

「自らの赤子の命と引き換えに、其方は息子の命を救ってくれたのか‥。」エドモンドの声には深い感謝と同時に、その代償の大きさに対する哀れみが込められていた。聖女に対する彼の感謝の気持ちは計り知れないものがあったが、それに伴う悲劇の重さに、彼自身も心を痛めていた。

王座の間にいた全員が、聖女が払った犠牲と勇気に心を打たれた。彼女が選んだ過酷な選択が、国王エドモンドの息子、そしてバークレン王国自体を救ったのだ。聖女の告白は、王座の間に新たな絆と理解をもたらし、彼女の行動がどれほど大きな意味を持っていたかを、改めて全員に思い知らせたのであった。

アレンの声が王座の間に響き渡る。「そのような世迷いごとを信じてはなりません、陛下!」
しかし、その言葉は国王エドモンドによってすぐさま制された。「控えよ、宮廷賢者。」

アレンは言葉を失い、顔を引きつらせる。「‥っ」彼の反論が空しく響いた瞬間、エドモンドの言葉が続く。「その方のこれまでの働き、深く感謝する。さて、我としては其方との契約をこのまま続けるかどうかを迷っていたところなのだが‥」

王座の間は緊張に包まれ、アレンは国王の次の言葉に息を呑んだ。「アレン、その方を現時点をもって罷免する。今日までご苦労だったな。後はどこへなりとも行くがいい。」この言葉が、アレンの運命を決定づけた。

アレンの顔色は青ざめ、彼は一瞬で全てを失った。彼の野望、長年にわたる計画、そしてバークレン王宮での地位が、この瞬間に崩れ去ったのだ。