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第五章

第五章第一節 決勝

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決勝の日がついに訪れた。朝の光が闘技場を照らし出し、観客たちの期待で場内はすでに沸騰していた。マントに身を包んだリザ男は、闘技場の舞台に続く回廊を堂々と進んで行く。彼の足取りは確かで、目前に迫った戦いへの決意がその姿勢からも感じ取れた。

舞台に登った瞬間、割れんばかりの歓声がリザ男を包み込む。観客たちは、この大一番を目撃するために集まった。彼らの期待を背負い、リザ男は中央へと歩を進めた。

立ちはだかる相手は、「北の」ゼファー・ノースハンド。両手に持った片手斧で数多の敵を切り裂いてきた彼は、まさに強敵そのものだった。ゼファーは、先に入場していたためか、リザ男の登場を待ちわびていたかのように声を上げた。「とうとう来たか、我が敵にして終生のライバル、リザ男よ!」

リザ男は、その挑戦を受けて立つ。「応よ!「北の」!お主との再戦、焦がれぬ日はこれまで無かった!」彼の声には、戦いへの熱い情熱が込められていた。

ゼファーは大笑いしながら返答した。「はははは、我の斧に切り裂かれることを、そこまで待ち望んでいたとは、お主も物好きなものだ!」

「なんの!貴様こそ、我が槍「千本針」の前にひれ伏すがいい!」リザ男の返しに、さらなる笑い声が交差する。

その大笑いする二人を見下ろす観客たちはどよめいた。決勝戦を前にして、これほど豪胆なやり取りが繰り広げられるとは、誰もが驚愕した。闘技場は、まるで古の戦いを彷彿とさせる勇壮な雰囲気に包まれていた。この瞬間、リザ男とゼファーの両名はただの戦士ではなく、伝説への道を歩む戦士として観客たちの記憶に刻まれようとしていた。

闘技場は期待と熱気で満ち溢れており、リザ男とゼファーの豪胆な挑発交換に観客たちは興奮の声を上げていた。そんな中、アレンの魔法で拡声された声が場内に響きわたり、一瞬の静寂が訪れた。「静粛に!」彼の声は、これから始まる重要な瞬間への敬意を求めた。

「これより映えあるバークレンの継子誕生を祝う武道会、優勝者を決める決勝戦を執り行う!」アレンの厳かなアナウンスの後、貴賓席にはバークレン国王エドモンドが姿を現した。継子誕生の祝賀の場であるにも関わらず、王子トリスタンとその母である王妃イザベラの姿はなく、代わりにこれまで姿を見せていなかった人物が王の後ろに控えていた。

気づいた観客の一人が驚きの声を上げた。「カタ=リナの聖女様だ!」その声がきっかけで、会場内は一瞬で歓声や畏敬の念に包まれた。神聖なオーラを放つネコ美の姿は、まるで光に包まれたように、観客たちには神秘的な存在として映った。彼女の周りには、ほのかな光が漂い、その穏やかな表情は、見る者すべてに深い安らぎを与えた。

ネコ美の出現は、この武道会に新たな意味をもたらした。彼女の存在は、バークレンの人々にとってただの聖女を超えた、神々しい存在へと昇華されていた。国王エドモンドは、会場が彼女に対する敬意と祝福で満たされるのを見て、深い感謝の意を表しながら頭を垂れた。

この瞬間、武道会の場はただの競技場を超え、国民全体の結束と祝福を象徴する聖地へと変わった。リザ男とゼファーの前に立つ決勝戦は、ただの戦いではなく、聖女の神秘的な存在感によって、さらなる意義を帯びることとなった。

アレンの声が再び響き渡る。「皆も知っての通り、聖女様はお体の調子を崩しておられる。この場に参られたのも、正々堂々と戦う雄々しき闘士たちの姿を一目見たいとの格段の願いを、国王陛下がお汲みになったからである。皆皆、国王陛下のお慈悲を忘れることがなきよう、心から願うものである。」

アレンは続けた「それでは闘士たちの戦いの前に、国王陛下よりお言葉をいただく」

国王エドモンドがゆっくりと席を立ち、観客たちの目は一斉に彼に注がれた。リザ男とゼファーは同時に膝をつき、国王への敬意を深く示した。

エドモンド国王は、観客たちを見渡しながら言葉を始めた。「皆の者、我が子、トリスタンの誕生を祝うこの場によく集ってくれた。大変残念であるが、体調がすぐれず、彼はこの場に立つことができない。許してほしい。」

その言葉に観客たちからは一瞬ブーイングが上がったが、国王としてはこのような反応も慣れたものだ。エドモンドは微笑みながら、続けた。「さりとて、皆が王子誕生を祝う場に集ってくれた事実を世は忘れぬ。皆には馳走を用意させる。戦いに決着がつく頃には準備ができよう。楽しみに待っているが良い!」

この言葉に、観客たちからは大きな歓声が上がった。エドモンド国王の言葉は、彼らにとっての王子誕生の祝いと、これから始まる決勝戦への期待を一層高めるものだった。闘技場は再び期待と熱気に満ちあふれ、リザ男とゼファーの戦いへの注目が、さらに高まっていった。

国王エドモンドは観客たちの熱狂に応えるように、優勝商品の紹介を始めた。「それでは、優勝したものに授ける我が家に伝わる家宝を見せよう。皆もこれが見たかったのではないか?これぞ、聖剣『マギアブレイカー』である!」彼の声からは、紹介する聖剣への深い尊敬と誇りが感じられた。

ゆっくりと腰に帯びた短剣を引き抜くと、そこから放たれる光は、まるで太陽をも凌ぐ輝きを放ち、観客たちの目を奪った。聖剣「マギアブレイカー」は、その美しさとともに、畏敬の念を誘う存在だった。悪意を持つ者を怯ませ、魔力を断ち切るその力は、古の時代から語り継がれる伝説の一部である。聖剣の表面には細かな符文が刻まれており、それが魔法の源となっている。別名魔術師殺しと称されるこの剣は、ただの武器を超えた、バークレンの歴史と誇りを象徴するものだった。

「それでは、試合を開始する。両者、前へ!」国王の声が闘技場に響き渡ると、リザ男とゼファーは前に進み出た。リザ男は、戦士としての誇りを胸に、ゼファーへの挑戦に備える。彼の目には、勝利への意志が燃えていた。一方、ゼファーもまた、冷静かつ集中した態度でリザ男を迎え撃つ準備ができていた。

観客たちは息を呑んで二人の戦士を見守っていた。聖剣マギアブレイカーの紹介は、ただの優勝商品を超えた、この大会の高い懸賞を象徴していた。しかし、リザ男とゼファー、二人の戦士の心には、それぞれの信念と目的があり、彼らがこの剣に対してどのような意味を見出すのかは、この決勝戦の行方とともに明らかになるだろう。

闘技場の空気は緊張で張り詰め、決勝戦の開始を前に観客たちの期待が最高潮に達していた。その中、観客席の一角で、リス蔵は静かに目を閉じ、深く祈っていた。彼女の手は、ぎゅっと握られ、その表情は祈りの真剣さを物語っていた。「リザ男様、どうか無事で、そして勝利を」という願いが、彼女の心から静かに溢れ出ている。リス蔵にとって、リザ男はただの主君以上の存在であり、彼の無事と勝利を心から願うの、忠実な従者として、そして一人の女として自然な感情だった。周囲のざわめきとは裏腹に、リス蔵の祈りは一点の静寂と集中の中で、彼女の心から天へと向かっていた。

一方、貴賓席ではネコ美が、神聖なる存在への祈りを捧げていた。彼女の姿勢は厳かで、その瞳は閉じられ、静かに唇を動かしている。彼女の祈りは、戦いに臨むリザ男への安全と、彼が直面する困難を乗り越えられるようにとの願いに満ちていた。ネコ美の祈りには、彼女がこれまで見てきた苦しみや痛みに対する深い理解と、それらからの解放を願う純粋な心が込められていた。彼女自身の運命に対する葛藤や願いを超え、リザ男の勝利と安全のために神への祈りを捧げるネコ美の姿は、その場にいる誰もが感じることのできない神秘的な美しさを放っていた。

こうして、リス蔵とネコ美、二人の祈りが重なり合う中、バークレンの歴史に残るであろう決勝戦が、今、始まろうとしていた。
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