シールドランド物語 第一部 カタ=リナの少女

第三章

第三章第四節 カタ=リナの聖女2

リザ男が思っていた以上に、演武の終わりは単純なものではなかった。彼は観客たちが見せた技に納得して帰路につくと考えていたが、その計算は少し甘かった。子供たちが話を聞きつけ、彼の周りに群がってきたのだ。彼らはリザ男のもとを離れず、何かを期待する目で彼を見上げていた。

しかしリザ男は、子供たちの期待に応えることに決めた。彼は嫌な顔一つせず、力強い声で宣言した。「そうか、俺のように強くなりたいか! ならば修行あるのみ! めいめい棒を槍に見立てて構えるがいい！」彼の言葉に心を動かされた30-40人の子供たちは、早速彼の指示に従い、周りに落ちていた棒を拾っては槍に見立てて構え始めた。

小一時間が過ぎ、リザ男と子供たちは一心不乱に槍の修行に取り組んでいた。彼は子供たちに基本的な槍の持ち方や突き方を教え、時には彼らの突きを受け止めながら、その技術を磨く手助けをした。そして終わりがけに、リザ男はやられ役を買って出て、子供たちに突き倒される役目まで演じた。子供たちはリザ男を突き倒すことに大いに興奮し、彼らの笑い声が港湾都市バークレンの空に響き渡った。

この即興の武道教室は、子供たちにとって忘れられない体験となった。リザ男にとっても、予期せぬこの時間は、子供たちとの特別な絆を築く機会となった。彼らはリザ男をただの勇者ではなく、慕うべき兄貴分として見るようになっていた。
子供たちの歓声が静まりかけた時、演武場の一角で予期せぬ出来事が起こった。リザ男が子供たちと楽しく過ごす中、ふと、彼らの注目が集まった方向へ目を向けると、一人の女性が倒れているのが見えた。リス蔵が素早くその場へと駆け寄り、女性の様子を確認しようとした。

「おねえさん、大丈夫かい? 顔色が悪いよ...って、あんたは！」リス蔵の声には、驚きが込められていた。彼は以前、リザ男とカタ=リナの聖女が医務室で会っている場面を目撃していた。女性の顔、長く美しい黒髪、そして猫族特有の耳の形状が、その記憶と一致したのだ。

「カタ=リナの聖女です！」リス蔵はリザ男の元に戻り、囁いた。彼の声には、緊迫感が漂っていた。少し離れたリザ男からでも、聖女が青白い顔をして苦痛に満ちた表情を浮かべているのを確認した。彼女がここに倒れている理由はまだ分からなかったが、リザ男は一刻も早く彼女を助けなければと素早く心を定めた。
リザ男は土塵を払いながら立ち上がる。
「いやぁ、やられたやられた! このように見事にやられたのは久しぶりだ!」リザ男は笑顔で言った。彼の声には温かみがあり、子供たちもその言葉に心を打たれる。「お前たち、親兄弟に誇っていいぞ! これからも、みなみな武芸に取り組むといい!」

その後、リザ男は真剣な面持ちになる。「さて、俺には仕事ができたようだ。具合の悪い人がそこで助けを求めているのでな。道を開けてくれ。この人をそのような固い石畳の上ではなく、白いベッドの上で休ませてやらねばならぬ。皆も良いか? 助けを求めているものがいたら手を差し伸べる。これが我が君「盾の王」のお教えだ。お教えを守れば、皆にも良き事が舞い降りよう!」

子供たちはリザ男の言葉に感動し、自然と道を空けていく。彼らの表情には、リザ男の言葉の重みを理解したような落ち着きがあった。リザ男はその隙間を通り、倒れているカタ=リナの聖女のもとへと歩み寄る。

リザ男はカタ=リナの聖女を優しく抱き上げた。彼女の呼吸は荒く、リザ男の手の中で小さく見えた。子供たちが遠くから見守る中、リザ男は彼女を抱え、宿屋へと向かって歩き始めた。彼の足取りは重く、しかし決意に満ちていた。