誰かの願いが届くとき 

sowaka

文字の大きさ
上 下
2 / 47
イマジナリー

境界線

しおりを挟む
 初めての深夜高速バスの旅は、外の景色も遮断されて何も見えず、ゴロゴロと荷物みたいに運ばれているみたいだった。

外の様子が気になって、バスの休憩のたびサービスエリアに降りては、その土地の空気を感じてみる。

真夜中でも、パラパラと移動している人たちはいて、まるで深夜の境界線を越えて旅立って行く幻霊のように思えて、自分もその中のひとつの存在だと気づく。

やがて朝を迎え、バスはちゃんと帆乃を目的地まで丁寧に運んでくれた。

バスの中であまり眠れなかった帆乃は、ホテルのロビーにあるソファに気持ちよく座り、これから会うwho youについて空想を巡らせていた。

 (どんな人なんだろ?

 優しい人だといいな。

 帆乃が平凡過ぎて、期待ハズレでガッカリしないかな、、

 ダメダメ!

大丈夫。

私は私! 

私にはパパと皆んなが付いてる!

 誰が何て言ってもどうってことないよ!)

考え過ぎて自分にダメ出しする帆乃を、守り神になった父と空想の優しい仲間たちとが共にいてくれる。


 連絡をくれた大林さんは、who youのことを真面目で素直な優しい人だと言っていた。

 少し天然なところは有りますが、、

 と付け加えていたが、おかしな人ではないようだ。

 そんな事を考えていると、ロビーの暖かさと寝不足で眠くなり、いつの間にかソファに座ったまま眠ってしまう。


 2時間くらいして、連れの男女がロビーに入って来た。

 女性は30代くらいのエレガントでキチンとした身なりの美人、男性はグレーのロングコートが似合う長身で、黒縁メガネをかけ、深めに帽子を被っている。

女性は待ち合わせのラウンジへそのまま行こうとしたが、男性はロビーのソファで眠っている帆乃に気がついた。

「、、、、、」

一瞬、息を止めた男性は立ちつくし、それから帆乃の方へゆっくりと進んで行く。

そして眠っている帆乃の前に跪き、少しでも彼女を見逃すまいと観察し始めた。

ショートのサラリとした黒い髪が、傾いた頭に沿って顔を半分隠している。

ピッタリと瞑った目にまつ毛、小さな鼻にポテっとした濃いピンクのくちびる、白くふんわりした頬、喉元まで見える首筋、、

あまりに真剣に見つめる男性を戒めるため、女性が声をかけた。

「失礼ですから、やめてください!」

その言葉で我に返った男性は、帆乃の耳元近くで優しくゆっくり囁いた。

「、、帆乃、、

帆乃ちゃん」

帆乃は誰かが心地よく、自分の名前を呼ぶのを聴いて目を開いた。

顔前に物凄くキラキラした瞳の顔が、帆乃を微笑んで見つめている。

(何??近くない??)

帆乃は驚いて言った。

「、、、誰?」

男性はもっとキラキラしながら笑って、自分の名前を名乗った。

「冬だよ、、」

帆乃が黙ってポカンとしているのを見て、困ったように続ける。

「、、小柳帆乃さん、ですね?」

帆乃は、この男性がwho youだと理解して、慌てて立ちあがろうとし転けそうになったのを、彼はしっかりと抱えた。

who youの胸に頬が当たり、帆乃の心臓はドキドキ暴走し始める。

(いったい何が起こってるの?

こんなことってあるの?)

帆乃は訳がわからないうちに、いつの間にか大きく何かの境界線を超えていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少年少女たちの日々

原口源太郎
恋愛
とある大国が隣国へ武力侵攻した。 世界の人々はその行為を大いに非難したが、争いはその二国間だけで終わると思っていた。 しかし、その数週間後に別の大国が自国の領土を主張する国へと攻め入った。それに対し、列国は武力でその行いを押さえ込もうとした。 世界の二カ所で起こった戦争の火は、やがてあちこちで燻っていた紛争を燃え上がらせ、やがて第三次世界戦争へと突入していった。 戦争は三年目を迎えたが、国連加盟国の半数以上の国で戦闘状態が続いていた。 大海を望み、二つの大国のすぐ近くに位置するとある小国は、激しい戦闘に巻き込まれていた。 その国の六人の少年少女も戦いの中に巻き込まれていく。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

処理中です...