誰かの願いが届くとき 

sowaka

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未来からのラブレター

誤魔化し

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帆乃は母と冬の間で、一体どんな話がついたのか暫く理解出来なかった。

冬は一緒に暮らして帆乃の面倒を見るということなのだろうか?

いや、それは何でもマズイだろうと思って周りを見たが、皆んな作業に没頭するふりをして何も言わない。


「あの、、舞島くん、どういうこと?」


冬は帆乃に考える隙を無くすために優しく言った。


「帆乃ちゃん、映画のラストシーンはどんなイメージなの?

始まりと終わりは特に印象に残る曲にしようと思ってるから、聞かせてくれる?」

映画の話を振られた帆乃は、自分の質問を忘れて考え出した。


「始まりは荒野のイメージで、幸せな世界から突然、全てを失って何も持たずに放り出されたけれど、必死に助けと希望を求めて荒れ狂う感じ。

終わりは、爽やかで気持ち良く吹く風を感じて、晴れ晴れする景色をどこまでも冒険しながら、喜びに繋げて飛んでる感じ。

あ、そうだ!エンドロールで沙織さんの赤ちゃん達を出して欲しいな!

天使そのものみたいに可愛いでしょう?

あの動きが見てるだけで何か幸せな気持ちになるし。

鳥とか虫とか花や木とかの映像も欲しいな。

特別なのでなくて、普通によく見る風景の中のもので力強さや美しさを秘めてるもの、、」


沙織さんの赤ちゃん達というワードで、松田が騒ぎ始めた。


「オイ、帆乃ちゃんや!

あの天使達はワシの赤ちゃん達でもあるんぞ!

映画に出したいとな!?

交渉はワシを通してもらわんことにゃあいけんの!」


沙織はツレなく松田を見て言った。


「松田さん、私の子供達は大林家の子供です。

あなたに独断の権利はありません」


立派な婿養子の松田は悲しげに反論した。


「沙織ちゃん、それは無かろうが、、

半分はワシの血と汗と涙の結晶じゃがの!」


沙織は無表情に松田を見て続ける。


「あなたの家の了解もキチンと得てます。

帆乃さん、それなら撮影は早い方が良いと思います。

うちの子達はそろそろ6ヶ月ですから、どうでしょうか?

松田さん、カメラマンとして最高の仕事が出来るのに文句はないでしょう」


テキパキと答える凛々しい沙織を見て、嬉しそうに松田は言う。


「ほっほー、帆乃と冬の未来を予言しとるようだの!」


それを聞いて冬は微笑んだが、帆乃は松田の言ったことの内容ではなく、松田自身に興味を持ち始めて言った。


「松田さん、その話し方は生まれた時からずっとなの?」


いきなり帆乃が松田を品定めするように眺め回わした。

その視線が突き刺さった松田は敬遠しながら言う。


「なんじゃの? 

そげん見て。

帆乃!いかんのよ!

ワシには沙織ちゃんという大事な愛する奥さんと二人の子供が、、」


目を輝かせた帆乃が嬉しそうに話し出した。


「松田さん!映画に出てくれないかな?

時と重力と概念の番人役で!

ファンタジーな役柄が、松田さんのイメージにピッタリ合うの、話し方とか。

どうかな?出来るよね!

いいかな?舞島くん」


冬は相変わらず帆乃の言うことは絶対だったが、松田はえらいこっちゃ!と騒ぎ出した。


「おいコラ、舞島くん!

お宅の帆乃さん、暴走列車しとるが!

早よ止めてくれんかの!」


皆んな笑い出し、直輝が説得を始めた。


「マッサン、やれるだろう。

いつも演出してんだから。

お前みたいなのが意外とイケるのは何となくわかるよ」


沙織に助けを求めた松田だが、ここでもあえなく撃沈した。


「松田さん、大根でしたら承知しませんよ。

親子で共演なんて素晴らしい経験じゃないですか!

あら、同じシーンは無いですね」


それを聞いた帆乃は


「楽しそうだから、作ります!

是非、双子ちゃんを抱いて演じてください!」


帆乃が楽しそうにアレコレ考えているのを、冬は嬉しく見ていた。

そうして昼過ぎに、帆乃を買い物に連れて行くのに千里が事務所に来た。


「では1週間後に配役のオーディションをするから、その後また全員で打ち合わせと言うことで。

それまでは各自、連絡取って話を詰めてください。

よろしくお願いします!」


直輝が〆て終了となり、各々は内容を詰める作業に入った。

中々良い感じになってると思った千里が


「今度、家で決起集会しましょ!

マッサン、紫ちゃんと息吹くんも連れてきてな!」


相わかったと手で挨拶する松田に、笑って手を振る千里は、帰る用意の出来た帆乃と事務所を出ようとすると、冬が心配して駆け寄って来た。


「千里さん、帆乃ちゃんをよろしくお願いします。

ちゃんとオレの家に帰してね!」


千里は呆れたように笑って、早く仕事に戻れと合図した。


「帆乃ちゃん、気をつけて!

くれぐれも千里さんから離れないでね。

変な人に付いて行っちゃダメだよ!

要るものは何でも買って、ハイ、これ使って!

オレの帰りは何時かな?

直輝さ~ん!」


確認するのに離れた冬をそのままにして、千里は帆乃の手を引いて言った。


「いやだ、、意外としつこい男だね、、

放っといて、サッサと行きましょ!

帆乃ちゃん」


そしてふたりはショッピングへと向かって行った。


 
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