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未来からのラブレター
恐怖と安心
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あんなに偉そうに冬に命じた帆乃だったけれど、知らない初めての場所で夜ひとりで眠るのが、どんなに怖いかすっかり忘れていた。
薄暗いリビングで毛布に包まり、じっと目を閉じて1時間ほど辛抱したが、ちっとも眠くならないどころか、目に見えない恐れにどんどん囚われていく。
怖くないと深呼吸して自分に言い聞かせても、全く効果を感じられないし、足先が冷たくなったのが気になって余計に眠れない。
自宅でも、深夜に悪い夢を見て恐怖に怯える時は、直ぐに母の布団に潜り込んでいた。
すっかり良い大人と呼ばれる歳になっても、それは変わらない。
灯りをつけても、こんな気持ちで夜明けを待つには先が果てしなく長いし、想像力もこんな時には全く役に立たなかった。
ギシッっと天井の方で何か軋む音がして、帆乃は震え上がり、耐えられなくなったところで、やっと冬のいる部屋に入った。
間違いなく生きている人の息遣いと温もりを感じるために、帆乃は迷いなく冬の隣に潜り込んだ。
ベッドで寝るように命令された冬は大人しく布団に入って眠ろうとしたが、帆乃が気になってなかなか寝付けないでいた。
それでもウトウトし始めた時、自分の右側に滑り込んで身を寄せる存在を感じた。
帆乃が冬の腕に顔を寄せてピッタリとくっ付き、冷たい足まで冬の足の下に差し込んで来る。
一体何が起こったのか分からなかったが、帆乃のギュッと固まっている身体から不安を感じ取り、この救いを求めてやって来た、かけがえの無い存在に優しく囁いた。
「帆乃ちゃん、大丈夫だよ。
側にいるから、安心しておやすみ、、」
すると帆乃の身体から少し力が抜けたのがわかる。
キスしたいのを我慢するかわりに、小さなささやく声で英語の優しい歌を口づさみ始めた。
頭上から降って来る穏やなメロディーを聴いていると、帆乃に纏わりついていた深夜の恐怖が溶けていく。
やっと安心して冬の息遣いと温たたかさを心地よく感じながら、そのうちコトンと深い眠りに落ちて行った。
それを確認した冬は、帆乃の柔らかさと温もりに、改めて胸が苦しくなるほどの切なさに打たれた。
追い求めていた幸せの感覚はこれなのかと驚き、何だかもう訳がわからないくらいに満たされて、嬉しさの余り涙が滲む。
このまま、ずっと、この瞬間の気持ちを忘れないように、、
この満足感を味わえたなら、またこれから何だってやれる、、
そんなことを思いながら、今までずっとこうして一緒に眠っていたように幸せな眠りについた。
仲良しの猫同士がくっ付いて眠るように。
昨夜の小雪は夜明けと共に綺麗に消えていた。
昨日のことがどうなったか確認するためと、午前の打ち合わせに間に合うよう起こすため、直輝は自宅前の冬のマンションを訪ねた。
我が家のように鍵を開けて玄関に入ると、冬のものとは別に小さな白いスニーカーがある。
直輝は何か見てはいけない物を見てしまった気分になり、玄関に立ち尽くして物音がするかどうか耳を澄ました。
入って良いものかどうか暫く思い悩んでいると、冬が普段通り寝癖全開で呑気にあくびをしながらトイレにやって来た。
「ああ、直輝さん、おはよう。
ちょっと待ってね、トイレ、、」
そう言って平然とトイレに入る冬を唖然として見ていた。
暫くしてトイレから出て来た冬に、直輝はそっと声を殺して話しかける。
「、、冬、、誰かいるのか?
俺は帰った方が良いよな、、、
!!!まさか小柳さんがいるんじゃないよな?
10時から事務所で打ち合わせがあるんだが、彼女は大丈夫なのか?」
冬はのんびりと思い出しながら答える。
「小柳帆乃ちゃんなら、ここにいるよ。
大丈夫だから先に打ち合わせ進めて貰える?
後で事務所に一緒に行くよ。
それから、千里さんの時間が空いてる時に買い物をお願いしたいんだけど。
まあ、うん、とにかく、後でね!じゃ!」
もう帰れと言わんばかりの冬だったので、何が起こっているのかわからない直輝はスタコラと玄関から出て行った。
早く千里に報告して、どうすれば良いのか相談しなければと、転がるように目の前の自宅に戻った。
薄暗いリビングで毛布に包まり、じっと目を閉じて1時間ほど辛抱したが、ちっとも眠くならないどころか、目に見えない恐れにどんどん囚われていく。
怖くないと深呼吸して自分に言い聞かせても、全く効果を感じられないし、足先が冷たくなったのが気になって余計に眠れない。
自宅でも、深夜に悪い夢を見て恐怖に怯える時は、直ぐに母の布団に潜り込んでいた。
すっかり良い大人と呼ばれる歳になっても、それは変わらない。
灯りをつけても、こんな気持ちで夜明けを待つには先が果てしなく長いし、想像力もこんな時には全く役に立たなかった。
ギシッっと天井の方で何か軋む音がして、帆乃は震え上がり、耐えられなくなったところで、やっと冬のいる部屋に入った。
間違いなく生きている人の息遣いと温もりを感じるために、帆乃は迷いなく冬の隣に潜り込んだ。
ベッドで寝るように命令された冬は大人しく布団に入って眠ろうとしたが、帆乃が気になってなかなか寝付けないでいた。
それでもウトウトし始めた時、自分の右側に滑り込んで身を寄せる存在を感じた。
帆乃が冬の腕に顔を寄せてピッタリとくっ付き、冷たい足まで冬の足の下に差し込んで来る。
一体何が起こったのか分からなかったが、帆乃のギュッと固まっている身体から不安を感じ取り、この救いを求めてやって来た、かけがえの無い存在に優しく囁いた。
「帆乃ちゃん、大丈夫だよ。
側にいるから、安心しておやすみ、、」
すると帆乃の身体から少し力が抜けたのがわかる。
キスしたいのを我慢するかわりに、小さなささやく声で英語の優しい歌を口づさみ始めた。
頭上から降って来る穏やなメロディーを聴いていると、帆乃に纏わりついていた深夜の恐怖が溶けていく。
やっと安心して冬の息遣いと温たたかさを心地よく感じながら、そのうちコトンと深い眠りに落ちて行った。
それを確認した冬は、帆乃の柔らかさと温もりに、改めて胸が苦しくなるほどの切なさに打たれた。
追い求めていた幸せの感覚はこれなのかと驚き、何だかもう訳がわからないくらいに満たされて、嬉しさの余り涙が滲む。
このまま、ずっと、この瞬間の気持ちを忘れないように、、
この満足感を味わえたなら、またこれから何だってやれる、、
そんなことを思いながら、今までずっとこうして一緒に眠っていたように幸せな眠りについた。
仲良しの猫同士がくっ付いて眠るように。
昨夜の小雪は夜明けと共に綺麗に消えていた。
昨日のことがどうなったか確認するためと、午前の打ち合わせに間に合うよう起こすため、直輝は自宅前の冬のマンションを訪ねた。
我が家のように鍵を開けて玄関に入ると、冬のものとは別に小さな白いスニーカーがある。
直輝は何か見てはいけない物を見てしまった気分になり、玄関に立ち尽くして物音がするかどうか耳を澄ました。
入って良いものかどうか暫く思い悩んでいると、冬が普段通り寝癖全開で呑気にあくびをしながらトイレにやって来た。
「ああ、直輝さん、おはよう。
ちょっと待ってね、トイレ、、」
そう言って平然とトイレに入る冬を唖然として見ていた。
暫くしてトイレから出て来た冬に、直輝はそっと声を殺して話しかける。
「、、冬、、誰かいるのか?
俺は帰った方が良いよな、、、
!!!まさか小柳さんがいるんじゃないよな?
10時から事務所で打ち合わせがあるんだが、彼女は大丈夫なのか?」
冬はのんびりと思い出しながら答える。
「小柳帆乃ちゃんなら、ここにいるよ。
大丈夫だから先に打ち合わせ進めて貰える?
後で事務所に一緒に行くよ。
それから、千里さんの時間が空いてる時に買い物をお願いしたいんだけど。
まあ、うん、とにかく、後でね!じゃ!」
もう帰れと言わんばかりの冬だったので、何が起こっているのかわからない直輝はスタコラと玄関から出て行った。
早く千里に報告して、どうすれば良いのか相談しなければと、転がるように目の前の自宅に戻った。
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