誰かの願いが届くとき 

sowaka

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未来からのラブレター

初めての下僕

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 山手線の駅の近辺にある住宅街のマンションにふたりは到着した。

 冬は帆乃の手を握りしめたまま、エントランスを抜けエレベーターに乗り自宅に案内する。

 帆乃は少し不安になりながら、ガランとして生活感のないリビングのソファに座らされた。

「舞島くん、本当にここに住んでるの?

 何も無いね、、

 、、、ミニマリストなの?」

 冬は帆乃を連れて来た安堵を一瞬感じたが、次の瞬間どうやってもてなすか悩み始めた。

 勧めるものは、水とみかんとインスタント食品しかないし、もう夜だから寝ないといけない、、

 明日はもっと帆乃のために快適にしなければ、と決心した。

 さすがに一緒に寝てはくれないだろうから、自分は防音の作業室で寝ようかとグチャグチャ考えながら目を泳がしていると

「舞島くん、早くお風呂入って暖まらないと!」

 上の空になっている冬は、帆乃がピシャリと言い放った言葉で正気に戻った。

「帆乃ちゃんは?」

「私はホテルで使わせて貰ったから大丈夫。

 ほら早く!」

 なす術もなく冬は素直にお風呂に入った。

 その間、帆乃は母に電話する。

「ママ、起きてた?

 私、今日こっちに泊まるね。

 帰りは明日の夕方かなぁ?」

 母は帆乃がどうなったかを聞きたがった。

「一緒に映画を作る人がね、中学で同じクラスだった舞島くんなんだよ。

 覚えてる?」

「まぁ!覚えてるわよ。

 あの可愛いお坊ちゃんでしょ!

 舞島くんのお母様のリサイタルに行った時、彼も弾いてたわよ。

 びっくりするほど難しいリストを、あんな小さな子が弾いてて本当に驚いたわ」

 帆乃は母が良く覚えているのに驚いた。

「私、行った記憶がない、、」

「帆乃は、ピアノの基礎練習が嫌になって辞めた時期だから、ピアノに近づくのも嫌がってたのよ。

 せっかくのピアノをそれっきりでしょ。
 だから聴きに行ってないわ。

 それにしても凄いご縁ね!

 舞島くん、お元気?
 大きくなったでしょう?」

 帆乃は隠しても仕方ないと思い、事の顛末を話した。

「大きくなって全然わかんなかった。
 ママもびっくりするよ。

 それでね、今舞島くんのお家にいるんだ。
 今夜泊めてもらうの。

 舞島くん、寒い中外にいて冷えちゃったから、今お風呂入って暖まってる」

 それを聞いた母は何かを察知して一瞬黙っていたが、見ず知らず男ならともかく、あの舞島くんなら大丈夫かと思った。

「帆乃も一応、大人だものね、、

 パパはどう言うかしら?

 、、きっと黙りこくるわね、、

 内緒にしとくわ。

 ともかく、帆乃の思うようにすれば良いのよ。

 嫌になったらいつでも飛び出して帰ってらっしゃい。

 それじゃ、もう寝るわ、おやすみ」

 そう言って母は電話を切った。

 母の言葉を聞いて安心した帆乃はソファに座って冬の家をキョロキョロ眺めていると、風呂上がりの冬が濡れた髪を拭きながら出て来てドキッとした。

 さっきまでの楽しかった雰囲気は何処かに消えて、戸惑いの気まずさがふたりの間を漂い始める。

冬は帆乃が安心出来るように、優しく言った。

「帆乃ちゃんは、隣の部屋のベッドで寝てね。

 ごめん、オレの匂いがするかも、、」

 それを聞いた帆乃はすかさず命令する。

「駄目だよ!

 舞島くんは大事な人だから、ちゃんと休んで。

 私は小さいから、このソファで充分。

 わかった?!」

 それを聞いた冬もすかさず反論する。

「何言ってるの?

 帆乃の方が大切だよ!

 ソファでなんか寝かせられない」

 帆乃は口答えをする冬をじっと睨んだ。

「舞島くんは、私の言う事何でも聞くんだよね?

 そう言ったよね?」

 タジタジになった冬はしょんぼりして頷き、仕方なく言った。

「、、、わかった。

 家にあるもの、何でも使って良いからね。

 大したもの無いけど、明日から全力で揃えるから、何でも言ってください、、」

 せっかく帆乃を連れて来たと言うのに、この体たらくで自分が情けなくなった。

 帆乃は冬が大人しく言う事を聞いたのに安心した。

「じゃあ、ありがたく使わせて貰うね。

 なんか私のパジャマ代わりになる服ある?

 それと毛布」

 帆乃の命に、冬はテキパキとクローゼットから綺麗なスウェットの上下と毛布を出してきた。

 帆乃がお礼を言い、さっさと洗面所で着替えをして、ソファで毛布にくるまり寝転ぶのを冬は黙って見ている。

「おやすみ、舞島くん」

 顔だけ出した帆乃が冬に告げると、さっさと自分も寝ろと言う事なんだなと冬は悟り、灯りを消してスゴスゴと隣の寝室に退散し、仕方なくベッドに潜り込んだのだった。

 決断と行動の潔い男前の帆乃に比べ、グズグズして呆然とするカッコ悪い自分が非常に情け無い冬だった。



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