誰かの願いが届くとき 

sowaka

文字の大きさ
上 下
26 / 47
イマジナリー

仕方ない結婚

しおりを挟む
 沙織が出てくるのを病院のエントランス近くで待っていた松田は、自分に気が付かずに通り過ぎていく沙織を追いかけた。

「沙織ちゃん!どしたん?」

 松田が声をかけると、珍しく沙織は不安そうな顔を向けて言った。

「冬がおかしかったのよ。

 精神的に何か抱えているんじゃないかしら?
 カウンセリングさせた方がいいかしら?どうしましょう?」

 いつも冷静な沙織が動揺しているのを落ち着かせるのに、松田は沙織の肩を寄せた。

「大丈夫!

 冬には皆んな付いとるじゃろ。

 今更何でそがにに心配するんかの?」

「だって、あの子、駿が、あなたが羨ましいって涙流して言うのよ!

 絶対おかしいじゃないの!!」

 目を見開いて訴える沙織を見据えて松田は、


 あいつ、一体どがな技を繰り出したんじゃ、、

相変わらず恐ろしいヤツよの、、

 まっ、ええわ!


 このチャンスを絶対モノにすると決めた松田は、優しく沙織に言い聞かせる。


「冬は今、色んなこと考えとる最中じゃから、多少メンタルきとるかもしらんが、そげに弱い男じゃないんよ。

 沙織ちゃんが今出来ることは、冬は絶対強くなって戻ってくると信じることじゃないんかの?」

 沙織は不安で潤んだ目を松田に向けていたが、いつの間にか直ぐ側にくっ付いている従兄に気がついて飛び退いた。 


「取り乱してごめんなさい。

 そうよね、冬は大丈夫。信じるわ」


 そう言って赤くなった顔を背けた。


「沙織ちゃん、ワシと結婚しようや」

 病院のエントランスという全くロマンティックとは無縁の場所で松田は真剣に告白した。


「ワシは何でも沙織ちゃんの言うこと聞くぞ。

 嫌がることも絶対にせん。

 沙織ちゃんが首を縦に一回振るだけで、親もワシも皆んな大喜びするでの」

冗談で茶化さない松田の言葉に、沙織は固まった。

 沙織は物心つかない頃から松田の事を良く知っていた。

 ふざけているように見えるが、意外と優しくて頼りになることを。

 子供好きで、腹違いの弟も可愛がっていたし、誰とでもすぐに打ち解けられるオープンな性格、冗談が好き過ぎて自惚れるのは難点だが決して悪意や嫌味には思われない。

 それに沙織は甘え下手で生真面目な性格が邪魔をして、簡単に誰にでも心を開けないでいる事も、わかっているのだろう。

 決して無理強いせずに、付かず離れずで見守ってくれていた。

 それでも踏み出せない沙織は言った。


「私はお酒とタバコは嫌いです。

 駿は辞められるの?」


「もちろん、今からスッパリ辞めます!」

 あまりにも綺麗に間髪入れずに答えた松田に、沙織は驚いた。


「本当に?

辞められるの?」


「沙織ちゃんの為なら当たり前じゃろ!」


 自信たっぷりに答えた松田だったが、これは冬に聞かれてなければ迷いなく言えなかっただろうと、内心ヒヤリとした。

 が、何とか乗り越えた。

 まだ難関が残っているのかと待ち構える松田に、沙織は正直に言う。


「私、駿と結婚したいのかどうかよくわからないの、、」


 ヨシ!ここまで来れば行けると思った松田は畳み込んだ。


「そんなんわからんでええ。

 考えても分からんことは放っときゃええ。

空でも見上げときゃええ。

 大事なんは、沙織ちゃんがどうして欲しいか、ワシがその都度聞けばええだけじゃ。

 それでもワシが嫌いになったら、ワシを何処ぞに放り捨ててくれてええから。

 一回、結婚してみようや!なあ!

 どうせ冬が復活するまで、1年はかかるじゃろ、丁度いい運命のタイミングなんじゃって!」

 自信たっぷりに言われると、どうしていいのか分からない沙織は、こう答えるしか無かった。

「、、、仕方ないですね」


「マジか!?

 ありがとう!沙織ちゃん!!

 ずっと愛しとるからの!」


 喜びの松田は沙織をギュッと抱きしめ、嬉しさを隠せなかった。

 こんな所で何をするんですか!と本気で怒る沙織に


「おお、ごめんごめん!

 つい、嬉しゅうて!

 今後は気ぃつけるけの!」


 それから速攻で義母に電話をかけ、結婚式までの全ての手配を任せた。

 義母は姉に、つまり沙織の母にすぐさま電話をかけ、両家は沙織の気が変わらないうちに外堀をどんどん埋めていく。

 あれよあれよと言う間に、1週間後には結納が交わされ、1ヶ月後には地元で盛大な結婚式を挙げ、1年後には双子の男の子と女の子を授かるという大偉業をやってのけた自分を、松田は自分の功績として周りに高笑いを響かし、大いに讃えたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...