誰かの願いが届くとき 

sowaka

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イマジナリー

ボケとツッコミ

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しょんぼりして凹んでいる冬を見て、懲らしめてやったワイとほくそ笑んだ松田は、一転して優しく言う。

「あの後の4曲な、世には出せんけど、
お前、本当に優しい良い顔してやってんのよ。

お客さんも、皆んな凄い集中して見逃さん、聴き逃さんって凄い迫力が伝わってきての。

あの時、あのホールごと皆んな別次元に飛んどったな。

ホントお前は、あそこにいたお客さん全員に救われたんぞ!

わかっとるか?

元気になって恩返しせんとな!

そんで、ワシにもどんどん仕事させろや!」

松田の話を冬はじっと目を閉じて聞いていた。

「松田さん、直輝さんに電話して僕に代わってもらえる?」

「え~けど、ワシの頼みも後で聞けよ」

「?なに?」

スマホを操作しながら、松田は喋る。

「それは後、後!

あ!ナオキマン、ワシ、ワシ!

今えーか?

ちょいと待てよ。 ホレ!」

そう言って、スマホを冬に渡した。

「直輝さん、冬です。

お願いだから、切らないで!聞いて!」

松田ことマッサンの電話に油断していた直輝は焦って、何を話せばいいのか混乱して沈黙していたが、なんとか普通に話始めた。

「、、、冬、ちゃんと先生や看護師さんの言うこと聞いてるか?」

久しぶりの直輝の声に安心した冬は答える。

「うん、もうすぐ退院出来るよ。

、、、早くプリンちゃんに会いたい。

プリンちゃん、元気にしてる?」

宮沢家の愛猫プリンちゃんの話題で気が抜けた直輝は答える。

「ああ、プリン、今日も元気で可愛いぞ!

朝も、キャットタワーの上でカラス見て威嚇してた」

プリンちゃんのおかげで、ホンワカした空気が流れた。

「、、、直輝さん、辛い思いさせてごめんなさい」

直輝は冬の声や顔を見ると、絶対に泣くとわかっていたが、やっぱり声だけで泣いてしまう。

「直輝さんにどう償えば良いのかわからない」

直輝の心配をしている冬が愛しくて仕方なかった。

「、、、冬は何も悪くない。

俺が独りよがりで、冬のメンタルをきちんと確認してなかった、、、俺の思いを押し付けて、思い通りにしようとしてた。

本当に、こんな事になってすまないと思ってる。

ご両親にも顔向け出来ない、、、」

思い詰めている直輝を何とかしたくて冬は

「直輝さん、何で会いに来てくれないの?

お医者さんが、もう以前みたいに踊れなくて歌えないかもって言ったから、オレは用済みでお払い箱なの?」

いつものボケた冬の発言に

「アホか!

そんなわけあるか!!

まだエンジンかかったばっかじゃ!」

つっこんだ直輝はますます泣けて来る。

冬に後遺症が残ることを、誰より罪悪感を感じていたから。

「直輝さんに手伝って欲しい事がある。

だから、新しく生まれ変わるオレを使ってよ。

一緒にまだまだ楽しいことをしようよ!

絶対に直輝さんを傷付けないから。

お願いします!」

4年前ラブコールし続けて落とした冬が、今は直輝を落とそうと必死にアピールしている。

冬の心は自分の身体のことで少しも傷ついていない。

それどころか、ますますピュアに輝いているようだった。

直輝は返事も出来ないくらい、声をあげて泣き出したので、そばにいた千里が電話を代わった。

「もう!冬!

何やってんの!

これ以上直輝を泣かせないの!!

後できっと連れていくから。

電話切るよ!じゃあね」

冬はスマホを見つめて、直輝と千里に言い表せない程の深い感謝を感じていた。



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