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イマジナリー
夜明け前
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大林沙織ことバッシーが加わってから、非常に報連相がスムーズになり、冬のデビューに向けて一層活気付いていた。
資金の限られた中で、次々と戦略が練られていく。
who youの外向きの情報は、ここ一年程ずっと沈黙させていた。
地道なPRは無視してでも、直輝は自分の信じたwho youの、生まれたての瑞々しい、世界を一瞬でハッと振り向かせる、彗星のような驚きと魅力を活かしたい。
デビュー曲のミュージックビデオと車のCMで、who youの全てをSNSを駆使して、一気にアピールして観せる戦略を立てた。
発表直前に、顔を伏せてトレイラーで興味を刺激して一気に持って行き、メイキング映像とリアルなドキュメントでwho youの紹介と自身の思いを届ける。
そこからソロコンサート開催、アルバム、新曲を発表しつつ、コンサートツアーへと流れて行く。
直輝と冬のところで居座っている松田が言った。
「そげに一気に大放出せんでも、勿体ぶって小出しにチラ見せんでええんかの?
美味しいとこは、物足りんぐらいが後を引くでな」
歌、楽器、ダンス、演技と何でもこなしてしまう冬だから、少しづつ観る側を驚かし続ける戦略を示唆した。
「いや、一度しかないデビューだ。
ケチくさいことはせず全部観せきって、who youに興味を持ってもらう。
そこから、色んなチャンスが広がって、多くの選択肢から最高のものを選べる!
はず、、」
直輝が最後に言葉を濁したのは、思い通りに行かない事も多々あるし、もし、自分の弱小事務所でなければ、もっとお金を使ってプロモーション出来ただろうにという思いがあった。
大手の事務所に属していたなら、きっと大々的にプロモーションをかけられただろうが、それだけスポンサーとお金が絡むとなると、自然、強制的な露出も増えて、冬の望まない方向性へ引っ張られる可能性も出てくる。
冬が詩音奏舎を選んだ後、暫くして業界最大手のプロダクションが探りを入れてきて、who youを大金と引き換えに寄越せと言ってきた。
冬にあらゆる条件を正直に伝え確認すると、僕は行きたくないです、いうので丁重に断ると、相手方は嫌がらせを匂わし、いつでも待ってますよと、軽く脅しをかけられた。
冬が直輝の事務所を選んだ理由の1つは、自由を望む冬の意思とセンスを何よりも尊重し、やりたく無い事はやらない、やりたいと思う事だけをする、だった。
選んでくれた冬に対して、直輝はwho youのイメージと方向性を何よりも大切に守り、目先のものに惑わされないように、自由に選択出来る立場を確保して、トラブルには自分がどんな矢面にも立つと決めている。
両親から沢山の愛を注がれて、大切に育てられた冬は、他人の悪意や嫉妬を寄せ付けずに、物事の良い面を見つけて進む、明確な思考と能力があった。
だからこそ、ここまで純粋に自分にとって最善の環境や人に恵まれていた。
今21歳のアーティストwho youは、あらゆる方面から磨きをかけられて、デビューを控え、一体これからどんな世界を観せてくれるのか。
不安や心配よりも、ワクワクの方が遥かに優っている。
後にも先にも、直輝にとって冬以上のアーティストを世に送り出すことはないだろう。
冬と一緒に暮らすようになって一年近くになるが、100%以上で突っ込んで行き、我を忘れる冬に、直輝と千里は口うるさく生活の基盤にも目を向けるよう注意してきたが、結局、冬の純粋さと無頓着さに負けて、王子様のように甘やかし、アレコレ過保護に世話を焼いてしまった。
自分達の本当の子供のように愛して、立派に成長し何かを成し遂げるまで、全ての荒波から大切に守ってやりたい。
多少の面倒事さえ、どうでも良いくらいに、冬と一緒に驚いて喜んで楽しんでが出来たら、こんなに嬉しいことはない。
思い入れが強すぎて、いつの間にか肩に力が入りすぎ、あれもこれもと欲張って空回りする事もあったが、人や運に恵まれて何とかデビュー前まで来れた事に感謝する。
当の冬は相変わらず大人しく、やるべき事、やりたい事に全力集中し、わずかなオフはボンヤリしたり、猫のプリンちゃんを追いかけては振られている。
直輝は、確か冬には目的があって、多くの人の目に触れるこの世界に飛び込んだはずなのに、未だそれは分からずにいた。
外面はとても魅力的で多彩なアーティストwho youなのに、ソファに座って薄暗い春の夕べに降り続く雨をただボーッと眺めている冬は、どこか憂いを帯びて寂しそうに見えた。
相変わらず見栄えのする男だと思いながらも、直輝は一抹の言葉に出来ない胸の痛みを覚えた。
本当にこれで良かったのか。
冬は望んでこの道を進んでいるはずなのに、どこか一線を引いて冷めている時がある。
自分が勝手に思いを振りかざして、強引に冬を引っ張り出そうとしているだけではないのか。
何故か今になって不安がよぎるが、もう後戻りは出来ない。
何処に流れて行くのか、ただ身をまかすしかなかった。
資金の限られた中で、次々と戦略が練られていく。
who youの外向きの情報は、ここ一年程ずっと沈黙させていた。
地道なPRは無視してでも、直輝は自分の信じたwho youの、生まれたての瑞々しい、世界を一瞬でハッと振り向かせる、彗星のような驚きと魅力を活かしたい。
デビュー曲のミュージックビデオと車のCMで、who youの全てをSNSを駆使して、一気にアピールして観せる戦略を立てた。
発表直前に、顔を伏せてトレイラーで興味を刺激して一気に持って行き、メイキング映像とリアルなドキュメントでwho youの紹介と自身の思いを届ける。
そこからソロコンサート開催、アルバム、新曲を発表しつつ、コンサートツアーへと流れて行く。
直輝と冬のところで居座っている松田が言った。
「そげに一気に大放出せんでも、勿体ぶって小出しにチラ見せんでええんかの?
美味しいとこは、物足りんぐらいが後を引くでな」
歌、楽器、ダンス、演技と何でもこなしてしまう冬だから、少しづつ観る側を驚かし続ける戦略を示唆した。
「いや、一度しかないデビューだ。
ケチくさいことはせず全部観せきって、who youに興味を持ってもらう。
そこから、色んなチャンスが広がって、多くの選択肢から最高のものを選べる!
はず、、」
直輝が最後に言葉を濁したのは、思い通りに行かない事も多々あるし、もし、自分の弱小事務所でなければ、もっとお金を使ってプロモーション出来ただろうにという思いがあった。
大手の事務所に属していたなら、きっと大々的にプロモーションをかけられただろうが、それだけスポンサーとお金が絡むとなると、自然、強制的な露出も増えて、冬の望まない方向性へ引っ張られる可能性も出てくる。
冬が詩音奏舎を選んだ後、暫くして業界最大手のプロダクションが探りを入れてきて、who youを大金と引き換えに寄越せと言ってきた。
冬にあらゆる条件を正直に伝え確認すると、僕は行きたくないです、いうので丁重に断ると、相手方は嫌がらせを匂わし、いつでも待ってますよと、軽く脅しをかけられた。
冬が直輝の事務所を選んだ理由の1つは、自由を望む冬の意思とセンスを何よりも尊重し、やりたく無い事はやらない、やりたいと思う事だけをする、だった。
選んでくれた冬に対して、直輝はwho youのイメージと方向性を何よりも大切に守り、目先のものに惑わされないように、自由に選択出来る立場を確保して、トラブルには自分がどんな矢面にも立つと決めている。
両親から沢山の愛を注がれて、大切に育てられた冬は、他人の悪意や嫉妬を寄せ付けずに、物事の良い面を見つけて進む、明確な思考と能力があった。
だからこそ、ここまで純粋に自分にとって最善の環境や人に恵まれていた。
今21歳のアーティストwho youは、あらゆる方面から磨きをかけられて、デビューを控え、一体これからどんな世界を観せてくれるのか。
不安や心配よりも、ワクワクの方が遥かに優っている。
後にも先にも、直輝にとって冬以上のアーティストを世に送り出すことはないだろう。
冬と一緒に暮らすようになって一年近くになるが、100%以上で突っ込んで行き、我を忘れる冬に、直輝と千里は口うるさく生活の基盤にも目を向けるよう注意してきたが、結局、冬の純粋さと無頓着さに負けて、王子様のように甘やかし、アレコレ過保護に世話を焼いてしまった。
自分達の本当の子供のように愛して、立派に成長し何かを成し遂げるまで、全ての荒波から大切に守ってやりたい。
多少の面倒事さえ、どうでも良いくらいに、冬と一緒に驚いて喜んで楽しんでが出来たら、こんなに嬉しいことはない。
思い入れが強すぎて、いつの間にか肩に力が入りすぎ、あれもこれもと欲張って空回りする事もあったが、人や運に恵まれて何とかデビュー前まで来れた事に感謝する。
当の冬は相変わらず大人しく、やるべき事、やりたい事に全力集中し、わずかなオフはボンヤリしたり、猫のプリンちゃんを追いかけては振られている。
直輝は、確か冬には目的があって、多くの人の目に触れるこの世界に飛び込んだはずなのに、未だそれは分からずにいた。
外面はとても魅力的で多彩なアーティストwho youなのに、ソファに座って薄暗い春の夕べに降り続く雨をただボーッと眺めている冬は、どこか憂いを帯びて寂しそうに見えた。
相変わらず見栄えのする男だと思いながらも、直輝は一抹の言葉に出来ない胸の痛みを覚えた。
本当にこれで良かったのか。
冬は望んでこの道を進んでいるはずなのに、どこか一線を引いて冷めている時がある。
自分が勝手に思いを振りかざして、強引に冬を引っ張り出そうとしているだけではないのか。
何故か今になって不安がよぎるが、もう後戻りは出来ない。
何処に流れて行くのか、ただ身をまかすしかなかった。
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