4 / 47
イマジナリー
契約成立?
しおりを挟む
ラウンジのオーダーが運ばれてくるまでマネージャーの大林は、帆乃が何処に住んでいて、どの交通手段で来たのかを尋ねた。
帆乃は正直に答え、深夜バスで早朝到着したことも話した。
すると大林は血相を変えて
「私の不行き届きです!
交通費はこちらでお支払いいたしますので、おっしゃって下さい!
お帰りの際は、ぜひ新幹線のグリーン車をお使いになって下さい!」
何故そんなに申し訳なく思われるのか分からない帆乃は
「いえ、そんな贅沢な、、
でも、交通費出るって嬉しいです!
それで、家族にお土産買って帰ります」
そんな会話をフユは興味深そうに聞きながらフォローした。
「バッシーは最近まで、赤ちゃん達のことで忙しくしてたからね。
仕事に復帰したばかりなんだ。
双子のママなんだよ!
この写真見て?可愛いよね!」
そう言って、スマホからフニャフニャの赤ちゃん達の写真や動画を帆乃に見せてくれる。
気軽にスマホを差し出すフユに、帆乃はだんだんと緊張が溶けていく。
帆乃が珍しそうに赤ちゃん達の写真に魅入っていると、フユが心配して言った。
「ごめんね、帆乃ちゃん、バスでちゃんと眠れた?
疲れてない?
朝ご飯食べた?
今日はどこかに泊まるの?」
まるでおばあちゃんが孫を心配するような言い方をするフユが可笑しい。
そうするうちに飲み物とケーキが運ばれて本題に入る。
大林がサッとテーブルの上に映画制作のスケジュールを写したタブレットを開けてプレゼンし始めた。
「小柳様の了解が頂ければ、キャスティングのオーディション、そして各方面のスタッフを決定し、撮影、そして編集と完成まで約1年の期間を予定しています。
フユは、監督と主人公の真舟役、そして音楽全般を担当しますが、いかがでしょうか?」
いかがでしょうか?と聞かれても、素人の帆乃は経験がないので返事をしかねていると、フユが助け舟を出した。
「バッシー、まずは帆乃ちゃんの脚本について詳しく教えてもらおう。
ごめんね、帆乃ちゃん。
僕が映画は初めてなんで、皆んなも慣れてないんだ。
一緒に楽しく仲良くやって行こうね!」
砕けたフユの口調に、この2人も初めてのことなんだと、帆乃は少し安心した。
しかし大林こと、バッシーの鋭い目がフユを牽制してチラリと見たのを見逃さなかったが、フユは気にせずに話し始めた。
「僕がこの脚本読んで一番気になるのは、真舟が勘違いされて死んでしまうという重い題材なのに、ファンタジーでコミカルな要素が割と入ってるよね。
これは死というテーマを軽く扱っているように取られるかもしれないけど、帆乃ちゃんはどう思ってる?」
帆乃もこの脚本を書くにあたって、観る側が自然に受け入れられるか気になったが、自分に信念を持っていた。
自分の悲しい体験を通して学んでいった、心の在りようと、この世界への捉え方で、希望を持って生きていく過程を、真舟と杏のお互いを思う気持ちで表現していく。
帆乃は死や別れの概念を、悲しく辛いものにし続けるよう、わざわざ強調したくない。
「死というテーマはもちろん軽く扱っていいものじゃないけど、だからと言って、どんな死も誕生の時と同じく、尊くて誇り高いものだと思うの。
例えそれがどんなに不本意であっても、寄り添うことで見えてくる風景もあるし、死んで何もかも終わりだと思わない。
直ぐには受け入れられなくても、亡くなった人の願いや優しい思いは、いつも残された人たちの中に息づいて見守ってくれている。
そんな私の考えや気持ちが、気楽な感じで少しでも誰かに届けばいいなって、、」
フユは、だんだんと熱を帯びて話す、紅潮した帆乃の真摯な語りをじっくり聴いている。
話終わった帆乃は、自分が熱く語り過ぎたかもと思って、恥ずかしくて下を向いた。
フユと大林は、帆乃を見つめて黙っている。
上手く話せたかな?
ちゃんと伝わったかな?
ありきたりの話でつまらないかな?
もしかしたら、脚本を書き直すか、つまらないから辞めると言われるのではないかと心配になっていると、フユが下を向いて厳かに呟いた。
「帆乃ちゃんはそうやって生きてきたんだね、、」
そう言うと澄んだ真っ直ぐな視線を、改めて帆乃に向けた。
視線を受けた帆乃は、昔からずっと君のこと知ってるよと言わんばかりのフユに、ある考えが浮かんだ。
(そうかもしれないし、違うかも。
私、喋ったこともない、途中で転校したし。
でも、こんなに優しいのは私のことを知ってるに違いない気がする。)
胸がキュッと熱くなった。
このミーティングが終わったら、すぐに幼馴染の茜に連絡しようと思う。
思いを巡らせていると、
「是非、この脚本でやらせてください。
帆乃ちゃんの条件や要望には何でも最善で応えていくつもりです!」
と、フユが頭を下げると同時に大林も頭を下げた。
驚いた帆乃も慌てて頭を下げて続けた。
「私を映画制作に参加させて、いえ、勉強させてください!!」
どうなるかわからないけど、こんな冒険のチャンスはきっともう2度とない。
こうして、帆乃と冬の映画
誰かの願いが届くとき
love entity
が始動した。
帆乃は正直に答え、深夜バスで早朝到着したことも話した。
すると大林は血相を変えて
「私の不行き届きです!
交通費はこちらでお支払いいたしますので、おっしゃって下さい!
お帰りの際は、ぜひ新幹線のグリーン車をお使いになって下さい!」
何故そんなに申し訳なく思われるのか分からない帆乃は
「いえ、そんな贅沢な、、
でも、交通費出るって嬉しいです!
それで、家族にお土産買って帰ります」
そんな会話をフユは興味深そうに聞きながらフォローした。
「バッシーは最近まで、赤ちゃん達のことで忙しくしてたからね。
仕事に復帰したばかりなんだ。
双子のママなんだよ!
この写真見て?可愛いよね!」
そう言って、スマホからフニャフニャの赤ちゃん達の写真や動画を帆乃に見せてくれる。
気軽にスマホを差し出すフユに、帆乃はだんだんと緊張が溶けていく。
帆乃が珍しそうに赤ちゃん達の写真に魅入っていると、フユが心配して言った。
「ごめんね、帆乃ちゃん、バスでちゃんと眠れた?
疲れてない?
朝ご飯食べた?
今日はどこかに泊まるの?」
まるでおばあちゃんが孫を心配するような言い方をするフユが可笑しい。
そうするうちに飲み物とケーキが運ばれて本題に入る。
大林がサッとテーブルの上に映画制作のスケジュールを写したタブレットを開けてプレゼンし始めた。
「小柳様の了解が頂ければ、キャスティングのオーディション、そして各方面のスタッフを決定し、撮影、そして編集と完成まで約1年の期間を予定しています。
フユは、監督と主人公の真舟役、そして音楽全般を担当しますが、いかがでしょうか?」
いかがでしょうか?と聞かれても、素人の帆乃は経験がないので返事をしかねていると、フユが助け舟を出した。
「バッシー、まずは帆乃ちゃんの脚本について詳しく教えてもらおう。
ごめんね、帆乃ちゃん。
僕が映画は初めてなんで、皆んなも慣れてないんだ。
一緒に楽しく仲良くやって行こうね!」
砕けたフユの口調に、この2人も初めてのことなんだと、帆乃は少し安心した。
しかし大林こと、バッシーの鋭い目がフユを牽制してチラリと見たのを見逃さなかったが、フユは気にせずに話し始めた。
「僕がこの脚本読んで一番気になるのは、真舟が勘違いされて死んでしまうという重い題材なのに、ファンタジーでコミカルな要素が割と入ってるよね。
これは死というテーマを軽く扱っているように取られるかもしれないけど、帆乃ちゃんはどう思ってる?」
帆乃もこの脚本を書くにあたって、観る側が自然に受け入れられるか気になったが、自分に信念を持っていた。
自分の悲しい体験を通して学んでいった、心の在りようと、この世界への捉え方で、希望を持って生きていく過程を、真舟と杏のお互いを思う気持ちで表現していく。
帆乃は死や別れの概念を、悲しく辛いものにし続けるよう、わざわざ強調したくない。
「死というテーマはもちろん軽く扱っていいものじゃないけど、だからと言って、どんな死も誕生の時と同じく、尊くて誇り高いものだと思うの。
例えそれがどんなに不本意であっても、寄り添うことで見えてくる風景もあるし、死んで何もかも終わりだと思わない。
直ぐには受け入れられなくても、亡くなった人の願いや優しい思いは、いつも残された人たちの中に息づいて見守ってくれている。
そんな私の考えや気持ちが、気楽な感じで少しでも誰かに届けばいいなって、、」
フユは、だんだんと熱を帯びて話す、紅潮した帆乃の真摯な語りをじっくり聴いている。
話終わった帆乃は、自分が熱く語り過ぎたかもと思って、恥ずかしくて下を向いた。
フユと大林は、帆乃を見つめて黙っている。
上手く話せたかな?
ちゃんと伝わったかな?
ありきたりの話でつまらないかな?
もしかしたら、脚本を書き直すか、つまらないから辞めると言われるのではないかと心配になっていると、フユが下を向いて厳かに呟いた。
「帆乃ちゃんはそうやって生きてきたんだね、、」
そう言うと澄んだ真っ直ぐな視線を、改めて帆乃に向けた。
視線を受けた帆乃は、昔からずっと君のこと知ってるよと言わんばかりのフユに、ある考えが浮かんだ。
(そうかもしれないし、違うかも。
私、喋ったこともない、途中で転校したし。
でも、こんなに優しいのは私のことを知ってるに違いない気がする。)
胸がキュッと熱くなった。
このミーティングが終わったら、すぐに幼馴染の茜に連絡しようと思う。
思いを巡らせていると、
「是非、この脚本でやらせてください。
帆乃ちゃんの条件や要望には何でも最善で応えていくつもりです!」
と、フユが頭を下げると同時に大林も頭を下げた。
驚いた帆乃も慌てて頭を下げて続けた。
「私を映画制作に参加させて、いえ、勉強させてください!!」
どうなるかわからないけど、こんな冒険のチャンスはきっともう2度とない。
こうして、帆乃と冬の映画
誰かの願いが届くとき
love entity
が始動した。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
少年少女たちの日々
原口源太郎
恋愛
とある大国が隣国へ武力侵攻した。
世界の人々はその行為を大いに非難したが、争いはその二国間だけで終わると思っていた。
しかし、その数週間後に別の大国が自国の領土を主張する国へと攻め入った。それに対し、列国は武力でその行いを押さえ込もうとした。
世界の二カ所で起こった戦争の火は、やがてあちこちで燻っていた紛争を燃え上がらせ、やがて第三次世界戦争へと突入していった。
戦争は三年目を迎えたが、国連加盟国の半数以上の国で戦闘状態が続いていた。
大海を望み、二つの大国のすぐ近くに位置するとある小国は、激しい戦闘に巻き込まれていた。
その国の六人の少年少女も戦いの中に巻き込まれていく。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。


人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる