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第一章
閑話
しおりを挟む――絵里がむしゃむしゃ料理を食べている時のお話――
「ねえねえ、宰相さんってどこにいるの?」
イチゴのケーキを頬張りながらキョロキョロする絵里。
料理のおいしさで一瞬自分の使命を忘れていたが、デザートを食べていて思い出した。
BLとはときめきと萌えの宝庫であると同時に甘くておいしいシチュエーションが詰まったものなのだ……少なくとも絵里にとっては。
「宰相は……ほら、あそこだ。隣にいるのは奥様だな」
ロベルトの指さす方を見ると、立派な口ひげを持つダンディーな男性が目に入る。
隣には、上品そうな女性が控えめにたたずみ、二人は仲睦まじそうに何やらしゃべっている。
「えー! 宰相さんって結婚してるんですか! なんだー、つまんない! 私は陛下との純愛展開を見たかったのに……」
小声でぶすくれる絵里。
――陛下のそばを片時も離れない宰相。そんな彼を誰よりも信頼する陛下。長い年月を共に過ごした二人の絆は愛よりも固く、強い……へへへへへ。
「おっ、おまえ、不敬だぞ! 陛下を妄想のネタにするな!
ロベルトに小声ながらがみがみ怒られた絵里は、しぶしぶ興味の対象を他の人物へと切り替える。
「あれ? あの人は誰? 壁際に一人でいるプラチナブロンドの彼」
「ああ、彼は確かバッテンデル男爵家の長男だ」
「へー、なんだか謎めいた雰囲気で興味を掻き立てられるわねー」
――身分違いの恋に燃えるとか美味しい設定だわっ! 例えば、伯爵家の長男と恋に落ちるの……。でもお互い家を継がなくてはならない、身分も釣り合わない……。たぎるわっ!
俄然瞳の輝きが増す絵里。
「彼に婚約者はいるの?」
「ああ、いるぞ。婚約者の女性は伯爵家なんだが、彼に一目ぼれして婚約したらしい。彼も、家の援助をしてもらっている以上むげに断れず、当時の恋人と泣く泣く別れたという噂もあるぞ」
「なんて波乱万丈な展開! これで男同士なら完璧なのに! 惜しいわー」
勝手に他人の恋路に口を挟んで一喜一憂する絵里。
――全く、どこにいてもこの女は変わらんな。
ふっとほんのわずかに口角を上げ、和らいだ瞳で絵里を見つめるロベルト。
――絵里といると退屈しないな。
それからも絵里は食べては妄想し、妄想しては食べるを繰り返した。
「あの男爵家の次男は絶対攻め! 一見わんこキャラに見えるけど隠れドSという美味しいキャラ! あっ、あっちの公爵家の男性は年下とくっついたらときめくわね」
もきゅもきゅと、今度はフルーツタルトを食べながら絵里の話は止まらない。
絵里が想像していた以上にいろんなキャラの男性がいて、絵里は大満足、お腹いっぱいだ(物理的にも、心理的にも)。
こうして彼女は美味しい料理と妄想を心行くまで楽しんだ。
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