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第二十二話
しおりを挟むルーダの休暇はあっという間に過ぎた。
彼との再会は嬉しさと共に別れの寂しさももたらし、子供たちはしばらくの間寂しそうな様子を見せていた。
そんな日々が数日続いたある日。
「レオナルド様」
夕食の席で、カティアはルーダとの再会後ずっと考えていたアイディアをレオナルドに打ち明けた。
「学び舎をつくりたいです。ルーダの話を聞いてからずっと考えていました。私にできることはたかが知れているけれど、でも、侯爵家の名前を借りることができたら、きっともっとずっと大きなことができると思いました。それこそ、学び舎を創ることもできるんじゃないかって」
今まで自分の希望を言ったことがなかったカティア。こんなにもハッキリと、こんなにも大きな希望を言うことにとてつもなく勇気がいった。
「学び舎……か。それはとてもいい案だと思う。けれど公爵家の名前を出すということは生半可な気持ちではだめだ。友人のために何か援助をしてあげたい、それだけで動けるほど公爵家の名前は軽くない。カティアはどうして学び舎をつくりたいんだ? 単なる同情や慈善精神なら、悪いが協力することはできない」
あえて厳しく諭すレオナルド。
本当はカティアからの初めてのお願いが嬉しかった。希望を言ってくれるほどには信頼してくれたのかと思うと自然と顔がほころびそうになる。
それでも、もうこれ以上間違うことはできない。公爵家の者として、そして縮んだカティアとの距離を元に戻さないためにも、もろ手を挙げてカティアの願いをかなえることはどうしてもできなかった。
「学び舎をつくりたいと思うようになったきっかけは先日のルーダの話です。でも、決して同情ではありません。……私は学園へ行くことを家族から許してもらえませんでした。学ぶ楽しさも、友情も知らないまま結婚しました。でも、この家に来てルーダに色んなことを教えてもらって、学ぶ楽しさ、学ぶ大切さに気付いたんです。人は誰しも学ぶことができる生き物で、だからこそ、学ぶ機会が平等に与えられるべきです。貴族、平民、お金持ち、貧乏。そんなことで学ぶ機会を奪われたまま生きていかなければならない子供がいる世の中は、歪んでいると思います。子供は色々な可能性を秘めていて、それを開花してあげることが私たち大人の義務なんじゃないでしょうか。平民も貴族も関係なく学びたい子供たちが自由に学べる場所を提供したいんです」
虐げられてきた彼女だから。学園に行くことができなかった彼女だから。理不尽に負けなかった彼女だからこその考え方。
レオナルドは数十年先の未来を思い描く。そこには誰もが笑い合い、平民や貴族に関係なくやりたい仕事に就く若者たちの姿があった。
子供は国の宝。この国の先を担うのは、そんな子供たちだ。きっと、全ての子供たちが教育を受けることが、国の最大の利益へと繋がる――それは、確かな予感だった。
「わかった。――カティアの想いは受け取った。一緒に学び舎を実現しよう」
間違え続けたレオナルド。それでも、この先も間違え続けるわけにはいかないから。過去を無かったことにはできないけれど、だからこそ。今もこの先も、大事な人が笑って過ごせる未来をつくりたい。
「共に目指そうか、誰もが平等に選択の自由を手にできる未来を。明るい子供たちの未来を」
その時のレオナルドは、カティアが今まで見た中で一番かっこよかった。
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