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第十九話
しおりを挟む“王太子妃カトリーナ、病で死す”
その記事を見た時、カティアは頭が真っ白になった。上手く事態が呑み込めなかった。
不意に、あの眼差しが蘇る。
このことを知ったレオナルドはどうなるのだろう。
今はただ罪悪感に駆られているレオナルド。彼が愛する者の死を知ったなら――きっとその関心は一心に彼女にそそがれるのだ。死してなお、彼の愛は彼女に捧げられ、カティアはまたあの日々に戻るのだろう。
――これでいいのだ。
ずっと思っていた、今の日々がおかしいと。
ずっと思っていた、自分の存在が彼を邪魔しているのだと。
お互い関わらず、この先もずっとカティアは心優しいマリア達と過ごして行けたなら――そう思っていたのだ。
きっと彼は今日、帰ってこない。明日も、明後日も。彼がこの部屋を訪れることはもうないのだろう。
ぼんやりと窓の外を眺めながら、カティアはそう思った。
それなのに。
今日もまた、レオナルドはカティアの部屋を訪れた。
悲しみも、苦しみも、後悔も。彼の瞳からは、カトリーナの悲報に対する感情を読み取ることはできない。
「……大丈夫ですか?」
気づけばカティアは声をかけていた。愛する人が亡くなったのだ。悲しくないはずなんてないのに。どうして彼は今ここにいるのか。どうして彼はそんなにも平然としていられるのか。
誰かを愛したことがないカティアには分からない。
「大丈夫ですか? カトリーナ様が亡くなったと聞きました。……好きだったんですよね? 愛していたのですよね? それなのに、こんなところにいていいのですか? 私のことは気にしないでください。彼女との思い出を大切にしてあげてください」
「どうして……!?」
弾かれたようにカティアを見るレオナルド。驚愕で目が見開かれている。
「どうしてレオナルド様がカトリーナ様を好きだと知っているのか、ですか? ふふ、見ていれば分かりますよ。あなたの彼女への視線は優しくて、愛情にあふれていて。私、見たんです。あの事故の日、あなたが彼女を腕に庇うところを。責めているわけじゃありません。ただ、彼女への愛情を、私への罪悪感で曇らせないでほしくて。あなたは彼女を愛しているんです、いまもなお。それを忘れないで」
それが、カティアにとっての真実で。だからこそ、そう言ったカティアに対してなぜレオナルドがそんなにも悲しそうな顔をするのか分からない。これで気兼ねなくカトリーナの死を悼めるはずなのに、どうして首を振っているのか分からない。まるでカティアの言葉を否定するかのように首を横に振るレオナルド。
彼が何を考えているかなんて、カティアに分かるはずがない。
「……すまない、本当にすまなかった。これからは君を蔑ろになんてしないと誓う。絶対に君のことを裏切らないと誓う。だから! だから、俺の気持ちを疑わないでくれ。……愛しているんだ。カティア、君のことを愛しているんだ」
苦し気に顔を歪め。悲し気に涙を流し。
そうして告げられたレオナルドの言葉の意味を、カティアに分かるはずがないのだ。
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